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熊本地震でのミスターマックスの初動対応に学ぶ、企業に必須の危機管理マニュアル

BCPの一環として作成すべき、災害時の緊急事態に対応するための危機管理マニュアル。「作ってはいるけど、本当にこれで対応できるのかわからない」「作らないといけないのはわかっているけど、実際に作るまで至らない」という企業の防災担当者は多いのではないでしょうか。

実際に震災で被災した経験を持つ企業の事例を知れば、その疑問を解消できるはずです。

今回、お話をお聞きしたのは、ディスカウントストア「MrMax」を運営する株式会社ミスターマックス。本社を福岡県に構え、九州地方全域から中国地方、関東地方にまで店舗を展開しています。

熊本県にも4店舗構えている同社は、2016年4月に発生した熊本地震で被災しています。しかし、震災の翌日から営業を再開し、従業員にけが人をひとりも出していないといった、被害を最小限に抑えることに成功しているのです。

その成功を支えたのは、同社の初動対応について細かく定めた「緊急事態対応マニュアル」です。その経験について、同社の広報担当者にお話をお聞きしました。

前震の翌日に営業再開。生活必需品を求めて多くのお客様が来店

地震で商品が散乱したMrMax店内

地震で商品が散乱したMrMax店内

──熊本地震が起きたとき、熊本の店舗ではどんな初動対応を取られたのでしょうか。

前震、本震ともに営業時間外でしたので「緊急事態対応マニュアル」にもとづき、各店舗の店長が現地の状況に応じて、従業員の出社要請、店内への出入の可否といった対応の判断をしました。

4月14日に発生した前震の直後、熊本にある4店舗のうち、余震の大きかった3店舗は安全のため入店せずに、周辺の設備損傷の有無を確認、そして状況を本部に報告するにとどめました。確認の結果、店内損傷のなかった2店舗、熊本南店と山鹿店は営業ができる状態で。

前震の翌日から営業を再開するために、落下した商品の片付け等を実施しました。無事、翌日15日の朝には営業を再開できたんです。

──翌日の営業再開ですか。非常に早いですね。

これは、「緊急事態対応マニュアル」にもとづいて対応できたことが大きいです。ただ、被害が小さかったとはいえ、まだ余震が続いているため、安全ではありません。そのため、熊本南店ではお客様を商品棚のスペースに入れず、店員が商品をレジまで持ってきて販売を行いました。

また、店内に損傷があり入店できない熊本インター店と松橋店では、店の前でテントを立てて販売を行いました。販売したのは、水や電池など最低限の商品です。

──震災の翌日に必需品を購入できるというのは、お客様としても安心感があることかと思います。

周辺の店舗が閉店していたこともあり、多くのお客様がいらっしゃいました。震災の翌日7時からいらっしゃるお客様もいて、「営業してくれているだけでありがたい」という言葉もいただきました。店舗の前面に広い無料の駐車場が設置しているため、駐車場に車を停めて、安全に待機できる場所として利用されているお客様もいて。そうしたお客様のためにも、しばらくは夜間も解放していました。

日用品を中心に扱うディスカウントストアは、生活必需品が揃っていて、在庫も充分にあるというイメージがあります。そのため、多くのお客様がご来店くださって。営業再開は必須と痛感しました。

店頭販売の様子1

店頭販売の様子1

──それほどお客様が来られたら、在庫が不足するという事態が起きたのでは?

必需品の中には不足してしまうものもありました。ただ、弊社は物流センターが福岡にあり、そこからすぐに運ぶことができたんです。とりわけ水や食糧などの必需品については、熊本県外の店舗への供給をコントロールし、熊本に集中させることで、充分な供給量を確保できました。

──では、本社ではどういった対応を取られたのでしょうか?

まず、前震発生の14日21時26分以降、即座に部門長を中心に本社に集合し、当日中に災害対策本部を立ち上げました。

そして、15日午前3時には福岡県の本部より、被災した店舗の復旧のために、その判断ができる立場にある社員を応援スタッフとして派遣し、各部署の復旧にあたっています。

また、現地への支援はプッシュ型(被災地からの要請を待たずに、必要不可欠と見込まれる物資を調達・輸送する支援方法)で供給しました。支援したのは物資、人的応援などです。先ほど申し上げたように、他県への物資を熊本に回し、熊本に不足なく納品できるような手配も行っています。

「緊急事態対応マニュアル」で実現できた“けが人ゼロ”


──そうした細かな初動対応、例えば、テントでの販売といったことは、各店舗の責任者の判断で行ったのでしょうか?

いえ、緊急事態対応マニュアルに記載してあることなんです。災害の種類と度合い、営業時間内かどうか、店舗と本部の場合、などをフローチャートにしたマニュアルがあり、それに沿った形で、現地の責任者が状況に応じて判断し、実施するという流れとなっています。

発生した災害が地震の場合は、震度5弱、5強、6以上で初動対応が異なってきます。また、営業時間内である場合、優先順位として「お客様の安全」「従業員の安全」「営業継続努力」の順に、営業時間外の場合は「従業員の安全」「営業継続努力」の順に対応するようになっています。熊本地震は震度6以上の初動対応を取りました。

──具体的に、目の前で起こる事態に対してどうやってフローチャートを適用させていったのでしょうか?

今回であれば、営業時間外の災害発生でしたので、まずは「従業員の安全」を確保し、次に「営業継続努力」を行います。従業員の安全を確保するために、地震発生後60分は店内に入らず、設備の点検などを行い、安全が確保されてから従業員が入るという手順になっていました。そして、安全が確保されていれば、営業を継続するために、散乱した商品の片付けなどを行い、販売を再開できるよう動くことになっています。

店内に損傷があった場合は、店の外でテントを立てて販売を行うという手順です。災害に応じて売る商品も、予め決められています。

店頭販売の様子

店頭販売の様子2

──非常に細かく作られているのですね。やはり、その細かな危機管理マニュアルが、被害を抑えることができた理由なのでしょうか?

ええ、やはりマニュアルがあったことは大きかったです。「全てのことを現地の責任者が判断する」ということでは責任者に重荷がかかりますし、不確実です。また、大地震などの災害時は、パニック状態に陥ってしまう可能性があります。

マニュアルにフローチャート式でやるべきことを記していたことで、リスクを減らし、被害を抑えることができました。実際に弊社ではひとりのけが人も出していません。

そして、地震直後の混乱した状況でも、迅速なお客様対応、従業員の安全確保、営業の再開を実現することができたのです。

──では、逆にマニュアルにはない想定外の事態が起こったことはありましたか?

前震のあとに、より大きな本震が来ることは想定していませんでした。そのため、一度整備した店内が崩れてしまい、また整備し直すことに。これは、従業員のあいだに大きな疲労感が広がることとなりました。また、現地に送った応援スタッフが被災してしまうという事態も起こってしまいました。

そのほか、震災が長期化したことで、被災した従業員への心理的なダメージも想定より大きかったです。お客様と向かい合っているときは、どの従業員も使命感を持ち、心を奮い立たせて仕事をしていますが、仕事が終わり、夜になって余震が来たりすると不安は広がります。

──たしかに、心理的なダメージというのは表立っては見えにくいものかもしれません。

こうした従業員への心理的なケアの必要性は、震災を経験してはじめてわかったんです。弊社では、自宅が被災した社員は休ませるといった心理的なケアを、震災から1週間ほど経ったあとから行うようになりました。

熊本地震の経験が教える、危機管理マニュアルの大切さ

会議
──震災から6ヶ月、改めて、熊本地震での御社の初動対応を振り返ってみていかがでしょうか。

やはり、ひとりのけが人も出さずに済んだことは一番大きいです。

また、小売業としては、周辺の店舗が休業する中、営業を継続できたことでお客様との信頼関係を築くことができました。これができたのは、現地の店長の判断、当日中に災害本部を立ち上げてプッシュ型で支援ができたことが大きかったと実感しています。

──では、震災を経験したことで、初動対応を含めたBCPにおいて改善していきたいと考えている箇所がありましたら教えてください。

1つには、災害が長期化した場合の対応です。これは従業員の生活を元通りにするための支援だったり、心理的なケアといったことになります。

そして、被害が大きい場合の後始末、例えば破損した商品備品の扱い、財務処理上の対応などです。この2つは、緊急事態対応マニュアルを超えた被害でした。今後は、新たにマニュアルに取り入れることを検討しています。

ミスターマックスの初動対応から学ぼう

BCPの一環として危機管理マニュアルを策定していたために、震災の被害を抑えることができたミスターマックス。大地震などの大きな災害の場合、適切な初動対応を行うことが重要といわれています。

災害対策の危機管理マニュアルが、不十分であったり、未作成な企業の場合、同社の事例から学ぶことがあったはずです。ぜひ参考にして、自社のマニュアル作成に活かしてみてください。

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