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【弁護士が解説】2024年4月施行 労働安全衛生法改正!主要ポイントと企業が取るべき対応策

【弁護士が解説】2024年4月施行 労働安全衛生法改正!主要ポイントと企業が取るべき対応策

2024年4月から施行された労働安全衛生法関係法令の改正は、化学物質の取り扱いに関する規制の強化や保護具の適切な使用など、新たな義務を事業者に課しています。特に化学物質に関して、より厳しい基準が導入されることになります。
この記事では、弁護士法人シーライト 弁護士塩谷恭平が、改正の背景や具体的な内容をわかりやすく解説します。事業者がどのような対応を取るべきか、改正の主要ポイントを詳しく紹介いたしますので、法改正に適切に対応して労働者の安全を確保するためのガイドとしてご活用ください。

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執筆者:塩谷恭平(しおや きょうへい)

弁護士法人シーライト藤沢法律事務所 弁護士

弁護士法人シーライト藤沢法律事務所で、労働災害や企業からの労務相談を多数受任。弁護士として事件解決するだけでなく、労働災害や労務問題を起こさないリスクマネジメントの重要性を訴えることで、予防法務にも尽力している。法律的な説明であっても、できるだけ専門用語を使わずにわかりやすく説明を行う姿勢は、多くの企業の方から「わかりやすい」と好評。神奈川県弁護士会所属。

労働安全衛生法関係法令の2022年改正について

改正の概要

 厚生労働省は、化学物質を原因とする労働災害を防止するため、労働安全衛生法関係法令である労働安全衛生規則等の一部を改正しました(労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(令和4年厚生労働省令第91号 2022年5月31日公布))。

 この改正によって、従来の化学物質規制の仕組みとは異なる、新たな仕組みの導入がなされました。この改正による新たな化学物質の規制項目は段階的に施行されており、2023年4月1日に施行された項目と2024年4月1日に施行された項目があります。

▲出典:厚生労働省 労働安全衛生法の新たな化学物質規制 労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の概要

 

改正の背景と目的

 2021年7月に作成された厚生労働省の『職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会 報告書』によれば、「現在、国内で輸入、製造、使用されている化学物質は数万種類に上るが、その中には危険性や有害性が不明な物質も少なくない。こうした中で、化学物質による労働災害(がんなどの遅発性疾病は除く。)は年間 450 件程度で推移し、法令による規制の対象となっていない物質を原因とするものは約8割を占める状況にある。」と記載されており、職場における化学物質管理において化学物質を原因とする労働災害の防止が大きな課題となっていました。

 従来の化学物質規制の仕組みは、国が化学物質を危険性・有害性の程度によってランク分けした上で、そのランクが高いものの取り扱いについて特別な規制を設けるという個別具体的な規制が中心でした。この仕組みでは、特定の化学物質への安全対策はできても、それ以外の物質への対策が不十分になったり、規制を逃れるために規制対象物質の代わりに危険性・有害性が不明な物質を使用して労働災害が発生するといった問題が生じてしまいます。

 そこで、規制の対象となる化学物質の範囲を大幅に拡大するほか、事業者自らが化学物質の危険性・有害性を認識して健康被害防止措置を取ることを目指した、事業者による「自律的な管理を基軸とする規制」という新たな化学物質規制の仕組みが導入されることとなったのです。

2024年4月1日施行の主な改正ポイントの紹介

 労働安全衛生規則等の一部を改正する省令で導入された新たな化学物質規制のうち、主に2024年4月1日から施行された項目で特に注意しておきたいポイントを下記にピックアップしてご紹介いたします。

 なお、改正内容の詳細については、厚生労働省が作成した『労働安全衛生法の新たな化学物質規制』を確認してください。

①ラベル表示・SDS交付等による通知・リスクアセスメント実施が義務付けられた対象化学物質の大幅な追加

▲出典:厚生労働省 労働安全衛生法の新たな化学物質規制 労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の概要

変更点と法的義務

 2016年6月1日に施行された改正労働安全法によって、一定の危険性・有害性が明らかになっている化学物質(2022年時点で674物質が対象)について、

①譲渡または提供する際のラベル表示、

②譲渡または提供する際の安全データシート(SDS)の交付、

③事業場で取り扱う際のリスクアセスメントの実施という3つの対策をすることが義務付けられました。

 今回の改正では、このラベル表示・安全データシート(SDS)交付等による通知とリスクアセスメント実施の義務の対象となる物質(リスクアセスメント対象物)に、国によるGHS分類で危険性・有害性が確認されたすべての物質が順次追加され、対象となる化学物質が大幅に増えることになりました(順次追加後は約2900物質以上)。

事業者がするべき対策

 今後のラベル・SDS義務対象への追加候補物質は、労働安全衛生総合研究所のウェブサイトにCAS登録番号付きで公開されるとのことですので、化学物質を取り扱っている事業者においては、事業場で取り扱っている化学物質が対象物質にあたるのかを定期的にチェックする必要があります。

  

②化学物質管理者の選任の義務化

変更点と法的義務

(1)選任が必要な事業場について

 リスクアセスメント対象物を取り扱う全ての事業場(業種・規模要件はありません)では、事業場ごとに化学物質管理者を1名以上選任することが義務付けられました。

※リスクアセスメント対象物とは、労働安全衛生法57条の3でリスクアセスメントの実施等が義務付けられている危険性・有害性のある化学物質のことです。

※一般消費者の生活の用に供される製品(例えば、特定の医薬品や農薬、電池、一般消費者のもとに提供される段階の食品などです)のみを取り扱う事業場は対象外です。

(2)選任要件について

 「化学物質の管理に係る技術的事項を担当するために必要な能力を有すると認められる者」であればよく、誰を化学物質管理者にするかは事業者の裁量に委ねられています。

※ただし、リスクアセスメント対象物の「製造」事業場の場合には、専門的講習を修了している者のうちから選任しなければならないとされています。

(3)職務内容について

 化学物質管理者の職務内容については、労働安全衛生規則12条の5で、ラベル・SDS等の確認やリスクアセスメントの実施、リスクアセスメント対象物を原因とする労働災害が発生した場合の対応などが挙げられています。

※リスクアセスメントとは、厚生労働省によれば、「事業場にある危険性や有害性の特定、リスクの見積り、優先度の設定、リスク低減措置の決定の一連の手順」をいうとされています。事業者はこのリスクアセスメントの結果に基づいて、適切な労働災害防止措置を取る必要があります。

事業者がするべき対策

 化学物質管理者は、選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任する必要があり、当該化学物質管理者の氏名を事業場の見やすい箇所に掲示する等で労働者に周知する必要があります(労働基準監督署への届出は不要です)。

 リスクアセスメント対象物を取り扱っている事業場を有する事業者は、化学物質について専門的な知識等を有する者を化学物質管理者に選任するだけでなく、当該化学物質管理者が職務を適切に遂行することができるように必要な権限を付与してください。

③労働者がリスクアセスメント対象物にばく露される濃度の低減措置等の義務化 

変更点と法的義務

(1)労働者がリスクアセスメント対象物にばく露される濃度の低減措置の義務化

 リスクアセスメント対象物のうち、厚生労働大臣が定めた濃度基準値設定物質については、労働者がばく露される程度を、厚生労働大臣が定める濃度基準値以下としなければならないという義務が追加されました。

  なお、リスクアセスメント対象物のうち濃度基準値が設定されていない物質については、2023年4月1日施行により、以下の4つの方法で、労働者がリスクアセスメント対象物にばく露される程度を最小限度にしなければならないと義務付けられていますので注意が必要です。

  • 代替物等を使用する
  • 発散源を密閉する設備、局所排気装置または全体換気装置を設置し、稼働する
  • 作業の方法を改善する
  • 有効な呼吸用保護具を使用する

(2)(1)に基づくばく露低減措置等の労働者への意見聴取等の義務化

 化学物質管理者は、(1)のばく露低減措置等の内容と労働者のばく露の状況について、労働者の意見を聴く機会を設けて、記録を作成し3年間(リスクアセスメント対象物のうちがん原性物質の場合は30年間)保存しなければなりません。

(3)リスクアセスメントの結果に基づくばく露防止措置の一環としての健康診断の実施・記録作成等の義務化

 事業者は、リスクアセスメントの結果に基づくばく露防止措置の一環として、リスクアセスメント対象物による健康影響の確認のため、労働者の意見を聴き、必要があると認めるときは、医師等が必要と認める項目の健康診断を行い、その結果に基づき必要な措置を行わなければならないという義務が追加されました。

 また、濃度基準値設定物質について、労働者が濃度基準値を超えてばく露したおそれがあるときは、速やかに医師等による健康診断を実施しなければならないことも義務付けられました。

 健康診断を実施した場合は記録を作成し、5年間(リスクアセスメント対象物のうちがん原性物質の場合は30年間)保存することが義務付けられました。

(4)衛生委員会の付議事項の追加

 衛生委員会の付議事項に、(1)と(3)について講ずる措置に関することを追加し、化学物質の自律的な管理の実施状況の調査審議を行うことが義務付けられました。

※衛生委員会の設置義務がない労働者数50人未満の事業場であっても、労働安全衛生規則23条の2に基づき、関係労働者からの意見聴取の機会を設けなければなりません。

事業者がするべき対策

 化学物質を原因とする労働災害の防止のために、上記義務を遵守する必要があります。

 化学物質管理者の職務として、リスクアセスメント結果に基づくばく露防止措置の選択・実施の管理がありますので、事業者は化学物質管理者と連携して、ばく露防止措置の実施等に取り組む必要があります。

④障害等防止用保護具着用等の義務化

変更点と法的義務

(1)皮膚等障害化学物質への直接接触の防止義務

 健康障害を起こすおそれのあることが明らかな物質を製造し、または取り扱う業務に従事する労働者は、保護眼鏡・不浸透性の保護衣・保護手袋・履物等の適切な保護具を使用することが義務付けられました。

※2023年4月1日施行では努力義務だったのが、2024年4月1日施行で義務化されました。

※健康障害を起こすおそれがないことが明らかなもの以外の物質を製造し、または取り扱う業務に従事する労働者については、適切な保護具の使用は引き続き努力義務とされています。

(2)保護具着用管理責任者の選任の義務化

  •   選任が必要な事業場

 リスクアセスメントに基づく措置として、労働者に保護具を使用させる事業場

  •  選任要件

 「保護具に関する知識及び経験を有すると認められる者」とされており、具体的な要件は令和4年5月31日付け基発0531第9号通達を確認してください。

  • 職務内容

 保護具着用管理責任者の職務内容については、労働安全衛生規則12条の6で、保護具の適正な選択や保護具の保守管理に関する業務などが挙げられています。

※これらの職務を行う際には、各種の通達(平成17年2月7日付け基発第0207006号「防じんマスクの選択、使用等について」、平成17年2月7日付け基発第0207007号「防毒マスクの選択、使用等について」及び平成29年1月12日付け基発0112第6号「化学防護手袋の選択、使用等について」)に基づいて対応する必要があります。 

事業者がするべき対策

 保護具着用管理責任者は、選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任する必要があり、当該保護具着用管理責任者の氏名を事業場の見やすい箇所に掲示する等で労働者に周知する必要があります(労働基準監督署への届出は不要です)。

 皮膚等への障害を引き起こす可能性のある化学物質を取り扱っている事業場を有する事業者は、保護具について専門的な知識等を有する者を保護具着用管理責任者に選任するだけでなく、当該保護具着用管理責任者が職務を適切に遂行することができるように必要な権限を付与してください。

⑤雇い入れ時等教育の拡充

変更点と法的義務

 今までは、労働安全衛生法59条1項・2項の労働者を雇い入れた時や作業内容を変更した時に行う教育のうち、非工業的業種などの特定の業種では、教育項目の一部省略が認められていました。

 しかしながら、2024年4月1日施行により、当該省略規定が廃止され、危険性・有害性のある化学物質を製造し、または取り扱う全ての事業場で、化学物質の安全衛生に関する必要な教育を行うことが義務付けられました。

※新たに対象となった業種は、下記の業種以外の業種です。

   林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業、製造業(物の加工業を含む。)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゆう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゆう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業、機械修理業  

事業者がするべき対策

 省略規定が廃止されて新たに対象となった業種の事業者においては、各事業場の作業内容に応じて安全衛生規則35条1項各号に定められている必要な教育を実施しなければならないことに注意が必要です。    

安全配慮義務を意識した職場環境づくりを

企業が労働安全衛生法の改正に適切に対応することはもちろん重要ですが、それに加えて、職場での安全配慮義務を果たすことも欠かせません。安全配慮義務は、企業が労働者の安全と健康を確保する責任を負うものです。違反した場合には罰則こそないものの、企業の管理体制に不備があった場合には、損害賠償請求や企業イメージの低下、行政からの指導といったリスクが生じる可能性があります。

特に災害時においては、従業員の混乱を防ぎ、迅速かつ適切に対応を行うための体制が求められます。こうした状況に備えるためには、安否確認システムの導入が有効です。このシステムは、災害時に従業員の安否確認を迅速に行うことができ、一斉メール送信や回答の自動集計、掲示板機能など、多様な機能を備えています。

中でも、トヨクモが提供する『安否確認サービス2は、サーバーを国際的に分散配置することで高い安定性を実現しており、非常時でも安心して利用することができます。また、事業継続計画(BCP)に必要となる連絡機能を複数搭載しており、災害後の状況把握や指示の伝達を円滑に進めるための心強いサポートとなります。

安全で快適な職場環境を目指すためにも、法改正内容の理解を深めるだけでなく、安全配慮義務を意識した取り組みを進めていきましょう。その一環として、安否確認システムの導入をぜひご検討ください。

改正内容を理解し、安全な職場環境を整えよう

 上記に挙げた改正ポイントは、事業者が、主に2024年4月1日から施行された項目の中で特に注意しておきたいポイントになります。前述したとおり、労働安全衛生規則等の一部を改正する省令による新たな化学物質の規制は、2023年4月1日に施行されているものもありますので、改正内容の詳細を厚生労働省が作成した『労働安全衛生法の新たな化学物質規制』等で確認し、適切に対応できるようにしてください。今後も改正法によって対象となる化学物質が順次追加される予定ですので、化学物質を取り扱う事業者としては、事業場内で取り扱う化学物質が規制対象となっているかの定期的な確認が必要になります。

 労働災害防止のために改正される労働安全衛生法関係法令に対して適切に対応して、労働者が安全で快適に働ける職場環境を目指していきましょう。

また、災害時の従業員の安全確認や緊急時の指示をスムーズに行うためには、トヨクモ安否確認サービス2の導入もおすすめです。高い安定性と多彩な機能を備えたこのサービスを活用し、より安心できる職場づくりを進めてください。

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執筆者:塩谷恭平(しおや きょうへい)

弁護士法人シーライト藤沢法律事務所 弁護士

弁護士法人シーライト藤沢法律事務所で、労働災害や企業からの労務相談を多数受任。弁護士として事件解決するだけでなく、労働災害や労務問題を起こさないリスクマネジメントの重要性を訴えることで、予防法務にも尽力している。法律的な説明であっても、できるだけ専門用語を使わずにわかりやすく説明を行う姿勢は、多くの企業の方から「わかりやすい」と好評。神奈川県弁護士会所属。

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編集者:遠藤香大(えんどう こうだい)

トヨクモ株式会社 マーケティング本部に所属。2024年、トヨクモ株式会社に入社。『kintone連携サービス』のサポート業務を経て、現在はトヨクモが運営するメディア『みんなのBCP』運営メンバーとして編集・校正業務に携わる。海外での資源開発による災害・健康リスクや、企業のレピュテーションリスクに関する研究経験がある。本メディアでは労働安全衛生法の記事を中心に、BCPに関するさまざまな分野を担当。