【弁護士が教える】労働安全衛生法に基づく健康診断!対象者や項目、違反時の法的責任等を解説

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塩谷 恭平(しおや きょうへい)

労働安全衛生法に基づく健康診断は、従業員の健康を守り、安全な職場環境を維持するために不可欠な取り組みです。しかし、その具体的な対象者や検査項目、そして実施義務を怠った場合の法的責任等について正しく理解できている方は多くないのではないでしょうか。

この記事では、弁護士法人シーライト 弁護士塩谷恭平が、労働安全衛生法による健康診断の概要から、対象者や検査項目、違反時の罰則等を分かりやすく解説します。

この記事を通じて、企業が従業員の健康管理を徹底するための手助けとなれば幸いです。

労働安全衛生法による健康診断の概要

健康診断の実施義務

 労働安全衛生法では、事業者は、労働者に対し、医師による健康診断を行わなければならないと規定されています(労働安全衛生法66条1項)。そのため、事業者は、業種や事業規模を問わず、労働者に対する健康診断の実施義務があります。

健康診断の種類

 事業者が実施を義務付けられている健康診断には、5種類の「一般健康診断」と10種類の「特殊健康診断」の2つがあります。

 各健康診断の法的根拠や対象者、実施タイミングなどの注意すべきポイントを以下にまとめました。なお、詳細な内容については、労働安全衛生規則や厚生労働省作成のリーフレット(健康診断を実施しましょう)なども確認してください。

一般健康診断

<雇入時の健康診断>

法的根拠労働安全衛生規則43条
対象者常時雇用する労働者
実施タイミング雇い入れる時
健康診断項目1.既往歴及び業務歴の調査
2.自覚症状及び他覚症状の有無の検査
3/身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
4.胸部エックス線検査
5.血圧の測定
6.貧血検査 (赤血球数、血色素量)
7.肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
8.血中脂質検査(LDL コレステロール、HDL コレステロール、血清トリグリセライド)
9.血糖検査
10.尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
11.心電図検査(安静時心電図検査)

(参考:労働安全衛生規則 | e-Gov 法令検索

<定期健康診断>

法的根拠労働安全衛生規則44条
対象者常時雇用する労働者
(特定業務従事者の健康診断を受診する者は除く)
実施タイミング1年以内ごとに1回
健康診断項目雇入時の健康診断の健康診断項目に、「喀痰(かくたん)検査」を加えたもの

※定期健康診断では、医師が必要でないと認めた場合で、かつ、それぞれの基準を充たす者は、以下の健康診断項目を省略できます。医師の判断により省略が可能となるだけで、事業者の判断では省略できません。

健康診断項目医師が必要でないと認める時に左記健康診断項目を省略できる者
身長20歳以上の者
腹囲次のいずれかに当てはまる者
① 40歳未満(35歳を除く)の者
② 妊娠中の女性その他の者であって、その腹囲が内臓脂肪の蓄積を反映していないと診断された者
③ BMIが20未満である者(BMI=体重(㎏)/身長(m)²) 
④ BMIが22未満であって、自ら腹囲を測定し、その値を申告した者
胸部エックス線検査40歳未満のうち、次のいずれにも該当しない者
① 5歳ごとの節目年齢(20歳、25歳、30歳及び35歳)の者
② 感染症法で結核に係る定期健康診断の対象とされている施設等で働いている者
③ じん肺法で3年に1回のじん肺健康診断の対象とされている者
喀痰検査次のいずれかに当てはまる者
① 胸部エックス線検査を省略された者
② 胸部エックス線検査によって病変の発見されない者又は胸部エックス線検査によって結核発病のおそれがないと診断された  者
貧血検査、肝機能検査、血中脂質検査、血糖検査、心電図検査35歳未満の者及び36~39歳の者

(参考:労働安全衛生規則 | e-Gov 法令検索

<特定業務従事者の健康診断>

法的根拠労働安全衛生規則45条
対象者労働安全衛生規則13条1項2号に掲げる以下の業務に従事する労働者
多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務ラジウム放射線、エックス線その他の有害放射線にさらされる業務土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務異常気圧下における業務さく岩機、鋲打機等の使用によって、身体に著しい振動を与える業務重量物の取扱い等重激な業務ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務坑内における業務深夜業を含む業務水銀、砒素、黄りん等その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務鉛、水銀、クロム等その他これらに準ずる有害物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務病原体によって汚染のおそれが著しい業務その他厚生労働大臣が定める業務
実施タイミング・上記業務への配置替えを行う時・6ヶ月以内ごとに1回
健康診断項目定期健康診断と同様。ただし、「胸部エックス線検査及び喀痰検査」は、1年以内ごとに1回で足ります。

(参考:労働安全衛生規則 | e-Gov 法令検索

※その他、海外に6ヶ月以上派遣する労働者には「海外派遣労働者の健康診断」(労働安全衛生規則45条の2)が、事業に附属する食堂又は炊事場における給食の業務に従事する労働者には「給食従業員の検便」(労働安全衛生規則47条)が必要になります。

特殊健康診断

有害な業務に常時従事する労働者等に対しては、原則として特別の健康診断を実施しなければなりません。主な種類と対象者は以下の通りです。

健康診断対象者
じん肺健康診断粉じん作業に従事したことがあって、じん肺管理区分が管理ニ又は管理三の労働者
石綿健康診断石綿等の取扱い等に伴い石綿の粉じんを発散する場所における業務に従事する労働者及び過去に従事したことのある在籍労働者
有機溶剤健康診断屋内作業場等における有機溶剤業務に常時従事する労働者
鉛健康診断鉛業務に常時従事する労働者
電離放射線健康診断放射線業務に常時従事する労働者で管理区域に立ち入る者
特定化学物質健康診断特定化学物質を製造し、又は取り扱う業務に常時従事する労働者及び過去に従事した在籍労働者
高圧業務健康診断高圧室内業務又は潜水業務に常時従事する労働者
歯科健康診断塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、弗化水素、黄りんその他歯又はその支持組織に有害な物質のガス、蒸気又は粉じんの発散する場所における業務に従事する労働者
四アルキル鉛健康診断四アルキル鉛等業務に従事する労働者

健康診断に関するその他の義務

健康診断結果の記録の作成

 事業者は、健康診断の結果に基づき、健康診断個人票(様式第五号)を作成して、これを5年間保存することが義務付けられています(労働安全衛生法66条の3、労働安全衛生規則51条)。

健康診断の結果についての医師等からの意見聴取

 事業者は、健康診断の項目に異常の所見があると診断された労働者の健康診断の結果については、健康診断実施日から3ヶ月以内に、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、医師又は歯科医師の意見を聴くことが義務付けられています(労働安全衛生法66条の4)。

健康診断の結果の通知及び報告等

 事業者は、健康診断を受けた労働者全員に対し、遅滞なく、当該健康診断の結果をそれぞれ通知することが義務付けられています(労働安全衛生法66条の6、労働安全衛生規則51条の4)。そして、上記の医師等の意見を勘案して必要がある場合には、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、作業環境測定の実施等の適切な措置を講じなければなりません(労働安全衛生法66条の5)。

 さらに、常時50人以上の労働者を使用する事業者は、定期健康診断を行ったときは、遅滞なく、定期健康診断結果報告書(様式第六号)を所轄労働基準監督署長に提出しなければなりません(労働安全衛生規則52条)。なお、特殊健康診断を行った事業者は、事業規模にかかわらず提出義務があります。

健康診断の実施を怠った場合等の罰則

 事業者が、労働者に対して健康診断を実施しなかった場合や、健康診断結果を通知しなかった場合には、50万円以下の罰金が科せられます(労働安全衛生法120条1号)。

健康診断に関するよくある疑問点

Q.パートタイム労働者には健康診断を実施しなくていいですか?

 A.パートタイム労働者や契約社員、アルバイト従業員であっても、「常時使用する労働者」に該当する場合には、健康診断を受診させる必要があります。

「常時使用する労働者」とは、

① 1年以上の期間で雇用契約をしているか、雇用期間を定めていないか、すでに1年以上引き続いて雇用されている者であり、かつ、
② 1週間あたりの労働時間が通常の労働者の4分の3以上である者

をいいます。

上記②に該当しない者に対しては健康診断の実施義務はないですが、上記①に該当して、1週間あたりの労働時間が通常の労働者の2分の1以上である者に対しても、健康診断を実施することが望ましいとされています。

(参考:パート労働者にも健康診断が必要? ~ 常時使用する労働者とは ~ 定期健康診断 有機溶剤等

Q.健康診断の費用は誰が負担すればいいですか?

 A.事業者が実施すべき健康診断にかかる費用は、当然に事業者が負担するものと考えられています。

 (参考:健康診断の費用は労働者と使用者のどちらが負担するものなのでしょうか?|厚生労働省

Q.健康診断を受けている間の賃金は支払わなくていいですか?

 A.一般健康診断か特殊健康診断かによって少し考え方が異なります。

まず、一般健康診断については、業務遂行との直接の関連がないため、健康診断を受けている間の賃金は当然には事業者が負担すべきものではなく、所定労働時間内に実施しなくとも良いとされています。

ただし、労働者が健康で業務に集中してもらえることは事業者にとっても良いことであり、労働者にきちんと健康診断を受診させるために、健康診断を受けている間の賃金も事業者が支払うのが望ましいといえます。

他方で、特殊健康診断については、業務遂行にあたって当然実施されなければないものであるため、原則として所定労働時間内に健康診断を実施して、健康診断を受けている間の賃金も支払わなければならないとされています。

(参考:・労働安全衛生法および同法施行令の施行について(◆昭和47年09月18日基発第602号)

Q.育休中の労働者も定期健康診断を実施する必要がありますか?

A.事業者は、労働者が育児休業、療養等により休業中の場合には、定期健康診断を実施しなくとも問題ありません。

ただし、休業期間が終了した後、速やかに定期健康診断を実施する必要があります。

Q.労働者が健康診断の受診を拒否した場合はどうすればいいですか?

 A.労働安全衛生法では、労働者に健康診断の受診義務があることを定めています(労働安全衛生法66条5項)が、仮に受診しなかったとしても罰則はありません。

事業者は、受診命令に従わない労働者に対して懲戒処分をすることもできますが、懲戒処分は労働者に対する罰則ですので、まずは労働者に対して受診を促したり、健康診断の実施について十分な説明をした上で受診しない理由を確認したりといった措置を取ってみましょう。

なお、労働者は、事業者が指定する医師以外の医師による健康診断を受診することもできます(労働安全衛生法66条5項但し書き)ので、事業者が指定した医師の健康診断の受診を希望しない場合には、他の医師による健康診断を受診してその結果を証明する書面を提出させるようにしましょう。

法律を理解し、適切に健康診断を実施しよう

 健康診断の実施には、事業者が労働者の健康状態を把握して、労働者の健康管理や生産性向上、労働災害の防止をするといった目的があります。健康診断は定期的に実施していく必要があるため、事業者としては、健康診断に関する義務や対象者等をきちんと把握した上で、労働者へ十分な説明を行い、スムーズかつ適切に健康診断を実施できるようにしておきましょう。

 労働者の健康状態の把握は常日頃から行っておくのがベストですが、年に1~2回の健康診断を実施するだけではなかなか把握が難しい部分もあるかと思います。そんなときは、様々な企業が提供している「安否確認システム」を導入するのも一つの方法です。「安否確認システム」は、主に地震等の災害時や緊急時に、労働者の安否状況を確認・集計等して共有するためのツールですが、労働者の体調管理ツールとしても利用することができます。労働者の健康状態の把握が負担と感じている事業者は、こういったツールの導入を検討してみることをお勧めいたします。

こちらの記事では、トヨクモが提供する『安否確認サービス2』を従業員の体調管理ツールとして使用した事例を紹介しています。

 労働安全衛生関係法令は、社会の変化に応じて頻繁に改正が行われていますので、事業者としては、常に改正内容を把握し、これをふまえた対応を検討・実施していかなければなりません。

 健康診断の実施等でご不安な点がある場合には、労働安全衛生関係法令に関する問題が発生する前に、弁護士に一度ご相談されることをお勧めいたします。

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執筆者:塩谷 恭平(しおや きょうへい)


弁護士法人シーライト藤沢法律事務所で、労働災害や企業からの労務相談を多数受任。弁護士として事件解決するだけでなく、労働災害や労務問題を起こさないリスクマネジメントの重要性を訴えることで、予防法務にも尽力している。法律的な説明であっても、できるだけ専門用語を使わずにわかりやすく説明を行う姿勢は、多くの企業の方から「わかりやすい」と好評。神奈川県弁護士会所属。 プロフィール:http://cright.jp/lawyer/shioya.php

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