事業場で働く労働者の安全と健康を守るために、労働安全衛生法は、事業者に対して、さまざまな安全衛生に関する管理者を選任するよう求めています。しかし、どんな管理者を選任すれば良いか、その役割や業務内容、選任方法等について、詳しく理解している方は意外と少ないのではないでしょうか。
この記事では、弁護士法人シーライト藤沢法律事務所 弁護士の塩谷恭平が、事業者が選任すべき労働災害防止のための業務に従事する者の役割や業務内容、選任方法等をわかりやすく解説します。
この記事を参考にしていただくことで、従業員の安全と健康を守る職場づくりの助けになればと考えています。
執筆者:塩谷恭平(しおや きょうへい)
弁護士法人シーライト藤沢法律事務所 弁護士
弁護士法人シーライト藤沢法律事務所で、労働災害や企業からの労務相談を多数受任。弁護士として事件解決するだけでなく、労働災害や労務問題を起こさないリスクマネジメントの重要性を訴えることで、予防法務にも尽力している。法律的な説明であっても、できるだけ専門用語を使わずにわかりやすく説明を行う姿勢は、多くの企業の方から「わかりやすい」と好評。神奈川県弁護士会所属。
目次
「安全衛生管理者」とは
まず初めに、「安全衛生管理者」という用語(役割)自体は、実は労働安全衛生法には存在していません。
一般的には、安全管理者や衛生管理者といった労働災害防止のための業務に従事する者の総称として、「安全衛生管理者」という用語が使われることがあるようです。
労働安全衛生法では、「第三章 安全衛生管理体制」の中で、選任すべき労働災害防止のための業務に従事する者が列挙されています。
(参考:労働安全衛生法 第三章 安全衛生管理体制)
選任すべき労働災害防止のための業務に従事する者
労働安全衛生法では、各事業場の業種・規模等に応じて、労働災害防止のための業務に従事する者として、以下の者の選任が義務付けられています。
- 統括安全衛生管理者(法10条)
- 安全管理者(法11条)
- 衛生管理者(法12条)
- 安全衛生推進者または衛生推進者(法12条の2)
- 産業医(法13条)
- 作業主任者(法14条)
- 統括安全衛生責任者(法15条)
- 元方安全衛生管理者(法15条の2)
- 店社安全衛生管理者(法15条の3)
- 安全衛生責任者(法16条)
また、2024年4月施行の労働安全衛生法改正により、「化学物質管理者」「保護具着用管理責任者」の選任も義務化されています。
なお、事業者等が行うべき安全衛生管理体制として、上記のほかに安全委員会等の委員会を設置しなければならないという義務もあります。
以下、上記の労働災害防止のための業務に従事する者について、詳しく解説いたします。
統括安全衛生管理者とは
まず、「統括安全衛生管理者」とは、安全管理者や衛生管理者等を指揮したり、労働者の安全や健康障害を防止するための業務を統括管理する責任者です。労働者の数が常時1000人を超える大規模な事業場等において選任が必要となっています。
以下、選任が必要な業種等をまとめてみましたので参考にしてみてください。
業種・事業場の規模 | ①林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業で、常時100人以上の労働者を使用する事業場 ②製造業(物の加工業を含む。)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器等小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業、機械修理業で、常時300人以上の労働者を使用する事業場 ③上記以外の業種で、常時1,000人以上の労働者を使用する事業場 のいずれかの場合には選任する必要があります。 |
資格要件 | 工場長・作業所長等の名称を問わず、「当該事業場においてその事業の実施を統括管理する者」(法10条2項)を選任する必要があります。特別な資格は必要ないですが、事業場を実質的に統括管理する権限及び責任を有している者を選任すべきです。 |
主な職務内容 | 統括安全衛生管理者は、安全管理者等を指揮するとともに、 ・労働者の危険又は健康障害を防止するための措置に関すること ・労働者の安全又は衛生のための教育の実施に関すること ・健康診断の実施その他健康の保持増進のための措置に関すること ・労働災害の原因の調査及び再発防止対策に関すること ・安全衛生に関する方針の表明に関すること ・法28条の2第1項の危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置に関すること ・安全衛生に関する計画の作成・実施・評価・改善に関すること の業務を統括管理することとされています。 |
選任方法等 | 選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任し、遅滞なく当該事業場所在地を管轄する労働基準監督署へ選任報告書を提出する必要があります。 ※なお、選任報告書の様式は、厚生労働省のホームページにPDFファイルがあるほか、インターネット上でも報告書を作成可能です。 (参考:厚生労働省|総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告) |
安全管理者とは
「安全管理者」とは、作業員への安全教育や作業環境の安全確認・器具の点検などの事業場の安全管理全般を行う者です。特定の業種で労働者の数が常時50人以上の事業場において選任が必要となります。
以下、選任が必要な業種等をまとめてみましたので参考にしてみてください。
業種・事業場の規模 | 林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業、製造業(物の加工業を含む。)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業、機械修理業で、常時50人以上の労働者を使用する事業場の場合には選任する必要があります。 ※その事業場専属の安全管理者を選任しなければなりません。 ただし、2人以上の安全管理者を選任する場合で、労働安全コンサルタントがいる場合には、労働安全コンサルタントのうち1人は専属でなくとも問題ありません。 ※次の業種・事業場は、「専任の」安全管理者を選任する必要があります。 ①建設業、有機化学工業製品製造業、石油製品製造業で、常時300人以上の労働者を使用する事業場 ②無機化学工業製品製造業、化学肥料製造業、道路貨物運送業、港湾運送業で、常時500人以上の労働者を使用する事業場 ③紙・パルプ製造業、鉄鋼業、造船業で、常時1,000人以上の労働者を使用する事業場 ④上記以外の業種で、常時2,000人以上の労働者を使用する事業場 |
資格要件 | ①以下のいずれかに該当する者で、厚生労働大臣が定める研修(安全管理者選任時研修)を修了したもの (1)大学・高等専門学校の理科系統の正規課程を卒業し、その後2年以上産業安全の実務に従事した経験を有する者 (2)高等学校等の理科系統の正規学科を卒業し、その後4年以上産業安全の実務に従事した経験を有する者 (3)大学・高等専門学校の理科系統以外の正規課程を卒業し、その後4年以上産業安全の実務に従事した経験を有する者 (4)高等学校等の理科系統以外の正規学科を卒業し、その後6年以上産業安全の実務に従事した経験を有する者 (5)7年以上産業安全の実務に従事した経験を有する者 その他(職業訓練課程修了者関係) ②労働安全コンサルタントのいずれか を充たす必要があります。 |
主な職務内容 | 安全管理者は、具体的に、 ・建設物、設備、作業場所または作業方法に危険がある場合における応急措置または適当な防止の措置・安全装置、保護具その他危険防止のための設備 ・器具の定期的点検および整備 ・作業の安全についての教育および訓練・発生した災害原因の調査および対策の検討 ・消防および避難の訓練 ・作業主任者その他安全に関する補助者の監督 ・安全に関する資料の作成、収集および重要事項の記録 ・その事業の労働者が行う作業が他の事業の労働者が行う作業と同一の場所において行なわれる場合における安全に関し、必要な措置・安全に関する方針の表明に関すること ・法28条の2第1項の危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置に関すること ・安全に関する計画の作成・実施・評価・改善に関すること等の業務を行うこと とされています。 (参考:昭和47年9月18日基発第601号の1都道府県労働基準局長あて労働省労働基準局長通達) また、「安全管理者は、作業場等を巡視し、設備、作業方法等に危険のおそれがあるときは、直ちに、その危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。」(安衛則6条1項)とされています。 |
選任方法等 | 統括安全衛生管理者と同様です。 |
衛生管理者とは
「衛生管理者」とは、労働環境の改善や疫病の予防処置などの事業場の衛生管理全般を行う者です。安全管理者と違って、すべての業種で労働者の数が常時50人以上の事業場において選任が必要となります。
以下、選任が必要な業種等をまとめてみましたので参考にしてみてください。
業種・事業場の規模 | 常時使用する労働者数が、 ・50人~200人以下の場合 1人以上 ・200人超~500人以下の場合 2人以上 ・500人超~1,000人以下の場合 3人以上 ・1,000人超~2,000人以下の場合 4人以上 ・2,000人超~3,000人以下の場合 5人以上 ・3,000人超の場合 6人以上の衛生管理者の選任が必要になります。 ※その事業場専属の衛生管理者を選任しなければなりません。 ただし、2人以上の衛生管理者を選任する場合で、労働衛生コンサルタントがいる場合には、労働衛生コンサルタントのうち1人は専属でなくとも問題ありません。 ※「常時1,000人を超える労働者を使用する事業場」または「常時500人を超える労働者を使用し、かつ法定の有害業務に常時30人以上の労働者を従事させている事業場(有害業務事業場)」では、少なくとも1人は専任としなければなりません。 ※法定の有害業務のうち一定の業務を行う有害業務事業場では、少なくとも1人は衛生工学管理者免許を有する者を選任しなければなりません。 |
資格要件 | ①農林畜水産業、鉱業、建設業、製造業、電気業、ガス業、水道業、熱供給業、運送業、自動車整備業、機械修理業、医療業及び清掃業の場合 ・第一種衛生管理者免許を受けた者 ・衛生工学衛生管理者免許を受けた者 ・安衛則10条各号に掲げる者(医師、歯科医師、労働衛生コンサルタント等) のいずれかを充たす必要があります。 ②上記以外の業種の場合 ・第一種衛生管理者免許を受けた者 ・第二種衛生管理者免許を受けた者 ・衛生工学衛生管理者免許を受けた者 ・安衛則10条各号に掲げる者(医師、歯科医師、労働衛生コンサルタント等) のいずれかを充たす必要があります。 |
主な職務内容 | 衛生管理者は、具体的に、 ・健康に異常のある者の発見および処置 ・作業環境の衛生上の調査 ・作業条件、施設等の衛生上の改善 ・労働衛生保護具、救急用具等の点検および整備 ・衛生教育、健康相談その他労働者の健康保持に必要な事項 ・労働者の負傷および疾病、それによる死亡、欠勤および移動に関する統計の作成 ・その事業の労働者が行なう作業が他の事業の労働者が行なう作業と同一の場所において行なわれる場合における衛生に関し必要な措置 ・その他衛生日誌の記載等職務上の記録の整備等 ・衛生に関する方針の表明に関すること ・法28条の2第1項の危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置に関すること ・衛生に関する計画の作成・実施・評価・改善に関すること等の業務を行うこと とされています。 (参考:昭和47年9月18日基発第601号の1都道府県労働基準局長あて労働省労働基準局長通達) また、「衛生管理者は、少なくとも毎週一回作業場等を巡視し、設備、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。」(安衛則11条1項)とされています。 |
選任方法等 | 統括安全衛生管理者と同様です。 |
安全衛生推進者または衛生推進者とは
「安全衛生推進者(衛生推進者)」とは、安全管理者及び衛生管理者の選任が義務付けられていない事業場の安全衛生水準の向上を図る目的で、労働者の安全や健康確保などに関わる業務を行う者です。労働者の数が常時10人以上50人未満と比較的小規模の事業場において選任が必要な点に注意が必要です。
以下、選任が必要な業種等をまとめてみましたので参考にしてみてください。
業種・事業場の規模 | 常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業場 ※業種によって、安全衛生推進者もしくは衛生推進者のいずれを選任すべきなのかが決まります。 ①林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業、製造業(物の加工業を含む。)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器等小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業、機械修理業の場合⇒「安全衛生推進者」 ②上記以外の業種の場合⇒「衛生推進者」 ※その事業場専属の安全衛生推進者(衛生推進者)を選任しなければなりません。ただし、労働安全コンサルタント、労働衛生コンサルタントその他厚生労働大臣が定める者のうちから選任する場合には、専属でなくとも問題ありません。 |
資格要件 | ①大学・高等専門学校を卒業し、その後1年以上安全衛生の実務に従事した経験を有する者 ②高等学校等を卒業し、その後3年以上安全衛生の実務に従事した経験を有する者 ③5年以上安全衛生の実務に従事した経験を有する者 ④労働安全コンサルタント、労働衛生コンサルタント等の資格を有する者 ⑤都道府県労働局長の登録を受けたものが行う講習修了者のいずれかを充たす必要があります。 |
主な職務内容 | 安全衛生推進者(衛生推進者)は、具体的に、 ・施設、設備等(安全装置、労働衛生関係設備、保護具等を含む。)の点検及び使用状況の確認並びにこれらの結果に基づく必要な措置に関すること ・作業環境の点検(作業環境測定を含む。)及び作業方法の点検並びにこれらの結果に基づく必要な措置に関すること ・健康診断及び健康の保持増進のための措置に関すること ・安全衛生教育に関すること ・異常な事態における応急措置に関すること ・労働災害の原因の調査及び再発防止対策に関すること ・安全衛生情報の収集及び労働災害、疫病・休業等の統計の作成に関すること ・関係行政機関に対する安全衛生に係る各種報告、届出等に関すること ・安全衛生に関する方針の表明に関すること ・法28条の2第1項の危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置に関すること ・安全衛生に関する計画の作成・実施・評価・改善に関すること 等の業務を行うこととされています。 (参考:昭和63年9月16日基発第602号都道府県労働基準局長あて労働省労働基準局長通達) |
選任方法等 | 選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任する必要がありますが、労働基準監督署への選任報告は必要ありません。 ただし、「事業者は、安全衛生推進者等を選任したときは、当該安全衛生推進者等の氏名を作業場の見やすい箇所に掲示する等により関係労働者に周知させなければならない。」(安衛則12条の4)とされています。 |
産業医とは
「産業医」とは、医師として労働者の健康管理などの業務を行う者です。
事業場の規模に応じて、複数人の産業医を選任する必要がある点に注意が必要です。
以下、選任が必要な業種等をまとめてみましたので参考にしてみてください。
業種・事業場の規模 | 事業場の規模に応じ、以下の人数の産業医を選任する必要があります。 ①常時50人以上1,000人未満の労働者を使用する事業場 1名(嘱託でも可) ②安衛則13条1項2号で定める業務に、常時500人以上1,000人未満の労働者を従事させる事業場 1名(専属) ③常時1,000人以上3,000人以下の労働者を使用する事業場 1名(専属) ④常時3,000人超の労働者を使用する事業場 2名以上(専属) |
資格要件 | ①法13条1項に規定する労働者の健康管理等(以下「労働者の健康管理等」という。)を行うのに必要な医学に関する知識についての研修であって厚生労働大臣の指定する者(法人に限る。)が行うものを修了した者 ②産業医の養成等を行うことを目的とする医学の正規の課程を設置している産業医科大学その他の大学であつて厚生労働大臣が指定するものにおいて当該課程を修めて卒業した者であつて、その大学が行う実習を履修したもの ③労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験の区分が保健衛生であるもの ④学校教育法による大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授又は講師(常時勤務する者に限る。)の職にあり、又はあった者 ⑤その他厚生労働大臣が定める者のいずれかを充たす必要があります。 |
主な職務内容 | 産業医は、 ・健康診断の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること ・法66条の8第1項、66条の8の2第1項及び66条の8の4第1項に規定する面接指導並びに法66条の9に規定する必要な措置の実施並びにこれらの結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること ・法66条の10第1項に規定する心理的な負担の程度を把握するための検査の実施並びに同条第3項に規定する面接指導の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること ・作業環境の維持管理に関すること ・作業の管理に関すること ・労働者の健康管理に関すること ・健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること ・衛生教育に関すること ・労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置に関すること 等の業務を行うこととされています(安衛則14条1項)。 また、「産業医は、少なくとも毎月一回(産業医が、事業者から、毎月一回以上、次に掲げる情報の提供を受けている場合であつて、事業者の同意を得ているときは、少なくとも二月に一回)作業場等を巡視し、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。」(安衛則15条1項)とされています。 |
選任方法等 | 統括安全衛生管理者と同様です。 |
作業主任者とは
「作業主任者」とは、労働災害を防止するための管理を必要とする一定の作業について、当該作業に従事する労働者の指揮などの業務を行う者です。事業場の規模ではなく、安衛令で定められた特定の作業を行う場合に選任が必要になります。
以下、選任が必要な業種等をまとめてみましたので参考にしてみてください。
業種・事業場の規模 | 事業場の規模ではなく、安衛令6条で定められたいずれかの作業を行う場合に、作業主任者を選任しなければなりません。 |
資格要件 | 作業の区分に対応する資格を有する者を選任する必要があります。 |
主な職務内容 | 作業主任者は、作業の区分に応じて、・作業の直接指揮・機械等の点検・機械等に異常を認めたときの必要な措置・工具等の使用状況の監視等の業務を行うこととされています。 また、「事業者は、別表第一の上欄に掲げる一の作業を同一の場所で行なう場合において、当該作業に係る作業主任者を二人以上選任したときは、それぞれの作業主任者の職務の分担を定めなければならない。」(安衛則17条)とされています。 |
選任方法等 | 「事業者は、作業主任者を選任したときは、当該作業主任者の氏名及びその者に行なわせる事項を作業場の見やすい箇所に掲示する等により関係労働者に周知させなければならない。」(安衛則18条)とされています。 |
統括安全衛生責任者とは
「統括安全衛生責任者」とは、一定の業種について一つの場所ごとに選任されるもので、複数の関係請負人(下請業者など)の労働者が混在する場所等で、労働災害防止のために、元方安全衛生管理者の指揮及び統括管理を行う者です。所属先が異なる労働者が混在すると指示が錯綜して労働災害が発生しやすいことから選任の必要があります。
以下、選任が必要な業種等をまとめてみましたので参考にしてみてください。
業種・事業場の規模 | 統括安全衛生責任者を選任する義務があるのは、「特定元方事業者」(発注者から最初に仕事を請け負っている建設業もしくは造船業の事業者)になります。行う工事の種類によって、統括安全衛生管理者を配置させるエリアが異なります。 【建築工事関係】 ・ビル建設工事 当該工事の作業場の全域 ・鉄塔建設工事 当該工事の作業場の全域 ・送配電線電気工事 当該工事の工区ごと ・変電所又は火力発電所建設工事 当該工事の作業場の全域 【土木工事関係】 ・地下鉄道建設工事 当該工事の工区ごと ・道路建設工事 当該工事の工区ごと ・ずい道建設工事 当該工事の工区ごと ・橋梁建設工事 当該工事の作業場の全域 ・水力発電所建設工事 堰堤工事の作業場の全域 水路ずい道工事の工区ごと 発電所建設工事の作業場の全域 【造船業関係】 船殻作業場の全域、艤装又は修理作業場の全域、造機作業場の全域又は造船所の全域 ※労働者の人数が下記の数未満の場合には、統括安全衛生管理者を選任する必要はありません。 ①ずい道等の建設の仕事、橋梁の建設の仕事(作業場所が狭いこと等により安全な作業の遂行が損なわれるおそれのある場所として厚生労働省令で定める場所において行われるものに限る。)又は圧気工法による作業を行う仕事の場合には、常時30人 ②上記以外の仕事の場合には、常時50人 |
資格要件 | 「当該場所においてその事業の実施を統括管理する者」(法15条2項)を選任する必要があります。特別な資格等は必要ないですが、統括安全衛生管理に関する教育を受けた者から選任するのが良いと思います。 |
主な職務内容 | 統括安全衛生管理者は、 ・労働者の危険又は健康障害を防止するための措置に関すること ・労働者の安全又は衛生のための教育の実施に関すること ・健康診断の実施その他健康の保持増進のための措置に関すること ・労働災害の原因の調査及び再発防止対策に関すること ・その他労働災害を防止するため必要な業務で、厚生労働省で定めるもの 等の業務を行うこととされています。 |
選任方法等 | 特定元方事業者は、事業の開始後、遅滞なく、当該場所を管轄する労働基準監督署長へ特定元方事業者の事業開始報告を行わなければなりませんが、統括安全衛生責任者を選任しなければならないときは、その旨及び統括安全衛生責任者の氏名を併せて報告する必要があります。 |
元方安全衛生管理者とは
「元方安全衛生管理者」とは、統括安全衛生責任者を補佐するために選任される者です。
以下、選任が必要な業種等をまとめてみましたので参考にしてみてください。
業種・事業場の規模 | 元方安全衛生管理者を選任する義務があるのは、「特定元方事業者」(発注者から最初に仕事を請け負っている建設業もしくは造船業の事業者)になります。 ※専属の者を選任する必要があります。 |
資格要件 | ①大学・高等専門学校の理科系統の正規課程を卒業し、その後3年以上建設工事の施工における安全衛生の実務に従事した経験を有する者 ②高等学校等の理科系統の正規学科を卒業し、その後5年以上建設工事の施工における安全衛生の実務に従事した経験を有する者 ③大学・高等専門学校の理科系統以外の正規課程を卒業し、その後5年以上建設工事の施工における安全衛生の実務に従事した経験を有する者 ④高等学校等の理科系統以外の正規学科を卒業し、その後8年以上建設工事の施工における安全衛生の実務に従事した経験を有する者 ⑤10年以上建設工事の施工における安全衛生の実務に従事した経験を有する者 ⑥その他(職業訓練課程修了者関係) のいずれかを充たす必要があります。 |
主な職務内容 | 元方安全衛生管理者は、 ・協議組織の設置及び運営を行うこと ・作業間の連絡及び調整を行うこと ・作業場所を巡視すること ・関係請負人が行う労働者の安全衛生教育に対する指導及び援助を行うこと ・仕事の工程に関する計画及び作業場所における機械、設備等の配置計画を作成するとともに、当該機械、設備等を使用する作業に関し関係請負人が法又はこれに基づく命令の規定に基づき講ずべき措置についての指導を行うこと ・当該労働災害を防止するため必要な事項 のうち、安全又は衛生に関する具体的事項を管理する業務を行うこととされています |
選任方法等 | 特定元方事業者は、事業の開始後、遅滞なく、当該場所を管轄する労働基準監督署長へ特定元方事業者の事業開始報告を行わなければなりませんが、元方安全衛生管理者を選任しなければならないときは、その旨及び元方安全衛生管理者の氏名を併せて報告する必要があります。 |
店社安全衛生管理者とは
「店社安全衛生管理者」とは、統括安全衛生責任者・元方安全衛生管理者・安全衛生責任者の選任を必要としない建設工事に係る請負契約を締結している事業場ごとに選任される者です。特定の仕事内容で中規模程度の事業場において選任が必要になります。
以下、選任が必要な業種等をまとめてみましたので参考にしてみてください。
業種・事業場の規模 | ①常時20人以上50人未満の労働者を使用する鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造の建築物の建設工事 ②常時20人以上30人未満の労働者を使用するずい道等の工事、特定の場所での橋梁の建設工事、圧気工法による作業を行う工事のいずれかの場合には、店社安全衛生管理者を選任する必要があります。 |
資格要件 | ①大学・高等専門学校を卒業し、その後3年以上建設工事の施工における安全衛生の実務に従事した経験を有する者 ②高等学校等を卒業し、その後5年以上建設工事の施工における安全衛生の実務に従事した経験を有する者 ③8年以上建設工事の施行における安全衛生の実務に従事した経験を有する者 のいずれかを充たす必要があります。 |
主な職務内容 | 店社安全衛生管理者は、 ・少なくとも毎月1回労働者が作業を行う場所を巡視すること ・労働者の作業の種類その他作業の実施の状況を把握すること ・協議組織の会議に随時参加すること ・仕事の工程の計画に関して、法30条1項5号の措置が講ぜられていることについて確認すること 等の業務を行うこととされています(安衛則18条の8) |
選任方法等 | 特定元方事業者は、事業の開始後、遅滞なく、当該場所を管轄する労働基準監督署長へ特定元方事業者の事業開始報告を行わなければなりませんが、店社安全衛生管理者を選任しなければならないときは、その旨及び店社安全衛生管理者の氏名を併せて報告する必要があります。 |
安全衛生責任者とは
「安全衛生責任者」とは、特定元方事業者が統括安全衛生責任者を選任する必要がある場合に、関係請負人(下請会社や協力会社など)が選任する必要がある者です。
以下、選任が必要な業種等をまとめてみましたので参考にしてみてください。
業種・事業場の規模 | 安全衛生責任者を選任する義務があるのは、特定元方事業者から仕事を請け負っている関係請負人(下請けの事業者等)になります。選任する必要がある事業場は、統括安全衛生責任者と同様です。 |
資格要件 | 特に資格についての条件はありません。 ただし、 ①安全衛生責任者として初めて業務に従事することとなった場合や、 ②一定期間経過後(概ね5年ごと)、 ③機械設備等に大幅な変更があった 場合には、当該業務に関する能力の向上を図るための教育、講習等を実施するよう推奨されています。 ※建設業においては、安全衛生責任者には職長が選任されることが多く、職長としての職務だけではなく安全衛生責任者としての職務を適切に遂行する必要があることから、安全衛生責任者として選任されて間もない者及び新たに又は将来選任される予定の者等に対して、「職長・安全衛生責任者教育カリキュラム」(平成18年5月12日付け基発第0512004号別添)に基づく安全衛生教育を実施するよう推奨されています。 |
主な職務内容 | 安全衛生責任者は、 ・統括安全衛生責任者との連絡 ・統括安全衛生責任者から連絡を受けた事項の関係者への連絡 ・統括安全衛生責任者からの連絡に係る事項のうち当該請負人に係るものの実施についての管理 ・当該請負人がその労働者の作業の実施に関し計画を作成する場合における当該計画と特定元方事業者が作成する仕事の工程に関する計画との整合性の確保を図るための統括安全衛生責任者との調整 ・当該請負人の労働者の行う作業及び当該労働者以外の者の行う作業によって生ずる法15条1項の労働災害に係る危険の有無の確認 ・当該請負人がその仕事の一部を他の請負人に請け負わせている場合における当該他の請負人の安全衛生責任者との作業間の連絡及び調整等の業務を行うこと とされています(安衛則19条)。 |
選任方法等 | 安全衛生責任者を選任した関係請負人は、特定元方事業者に、遅滞なく、その旨を通報する必要があります(法16条2項)。 |
選任しなかった場合の罰則について
「統括安全衛生管理者」・「安全管理者」・「衛生管理者」・「産業医」・「統括安全衛生責任者」・「元方安全衛生責任者」・「安全衛生責任者」の選任をしなかった場合には、いずれも50万円以下の罰金に処する旨の罰則規定があります(法120条1号)。
他方で、「安全衛生推進者」・「店社安全衛生管理者」の選任をしなかった場合の罰則規定はありませんが、労働安全衛生法違反として行政指導等の対象となりますので、これらの者も必ず選任すべきです。
従業員の働きやすい労働環境を整えよう
このように、労働安全衛生法では、労働災害防止のために、各事業場の業種・規模等に応じて、労働者の安全や衛生に関する業務に従事する者の選任が義務付けられています。
事業者としては、これらの者が労働者の安全や健康を守るために選任する必要があることを十分に認識して、労働安全衛生法違反にならないように、各責任者の選任要件や必要な資格、選任方法などを正確に把握しておく必要があります。
深刻な労働災害が発生する前に、現状の事業場の安全衛生管理体制に問題がないかどうかを、弁護士に一度ご相談されることをお勧めいたします。
執筆者:塩谷恭平(しおや きょうへい)
弁護士法人シーライト藤沢法律事務所 弁護士
弁護士法人シーライト藤沢法律事務所で、労働災害や企業からの労務相談を多数受任。弁護士として事件解決するだけでなく、労働災害や労務問題を起こさないリスクマネジメントの重要性を訴えることで、予防法務にも尽力している。法律的な説明であっても、できるだけ専門用語を使わずにわかりやすく説明を行う姿勢は、多くの企業の方から「わかりやすい」と好評。神奈川県弁護士会所属。
編集者:遠藤香大(えんどう こうだい)
トヨクモ株式会社 マーケティング本部に所属。2024年、トヨクモ株式会社に入社。『kintone連携サービス』のサポート業務を経て、現在はトヨクモが運営するメディア『みんなのBCP』運営メンバーとして編集・校正業務に携わる。海外での資源開発による災害・健康リスクや、企業のレピュテーションリスクに関する研究経験がある。本メディアでは労働安全衛生法の記事を中心に、BCPに関するさまざまな分野を担当。