転職や退職の理由はさまざま。会社を去りゆく退職者にとって不安を覚えるのが、社会保険や税金など一連の「退職手続き」ですが、総務もその分、多くの手続きが必要になってきます。退職者の意向も汲みつつ、職場を去る当日まで親身になってサポートすることも必要になってくる総務の仕事。
退職者の次の仕事や人生設計に重要な書類の手続きも任されており、一歩間違えたり遅れたりするととりかえしのつかないことになるため、責任は重大です。
多忙な時期にこそ多く生じがちな退職手続きだからこそ、この機会に具体的な流れと総務が関わる場面をおさらいしておきましょう。また、退職者から回収しなければならない物、逆に会社から返却しなければならない物も併せてご紹介すると共に、退職者のデータ保存期間についても整理します。
目次
退職手続きの具体的な流れ
まずは、社員が退職するにあたって、総務部に連絡が行く流れと、総務部がしなければならない具体的な退職手続きの一連の流れを見ていきましょう。
1、退職希望者から上司に退職の申し出
退職の申出時期は、会社の社内規則により2週間前や1カ月前などあらかじめ決められているケースが多いところがほとんどです。一般的にはそれらの規則に従わなければいけません。業務の引き継ぎや会社側の人員補充といった事情を考慮すると、1カ月半から2カ月前までには上司に退職の意思を伝えておくべきでしょう。自分の都合だけでなく、担当しているプロジェクトの切りのよい時期を見計らうといった配慮も必要です。
2、退職日の設定
自分1人の希望だけでなく上司と話し合って具体的な日程を決定します。
3、退職願を作成して提出
退職願を作成し、上司か人事(もしくは総務)に提出をします。提出先は企業によって異なりますが、人事に提出した事で正式な受理となる場合もあります。
4、総務部より退職説明、必要事項の確認
ここで、総務部から退職者に対して退職説明が行われます。手続きを円滑に進めるため、たとえば「国保に入るのか、任意継続するのか」の確認、手続き書類の送付先や、離職票・退職証明書の要否確認などを行うのが一般的です。
5、退職後にも使用する書類の手続き(次章で詳述します)
雇用保険被保険者証、離職票、年金手帳、源泉徴収票など
6、引き継ぎ
退職者には、現場の口述のみでなく業務の内容・目的・フローを記した「引継ぎ書」を残してもらうことが望ましいでしょう。作業リスト、関係先リストなども明文化したうえで職場に保存してもらうようにしましょう。一方で、常日頃の業務や情報の共有化、マニュアル化を徹底することで、業務引き継ぎ期間の短縮と合理化を図ることも大事です。
7、退職金、有給休暇の確認
退職金の計算方法は勤続年数を基礎にするのが一般的でしたが、算定のしくみを見直す企業も増えています。退職者からの問い合わせに備え、総務では支給条件や計算方法などを熟知しておきたいものです。
8、退職の挨拶、退職日に退職
対象社員が最後の挨拶や、退職をします。
退職した社員への返送物・または回収しなくてはならない物などのチェックリスト
総務からの書類の中には、その後の公的な手続きに必要不可欠なものや再発行が難しいものもあるので、確実に手渡しをして、保管してもらうようにしましょう。一方、会社に帰属する物は退職日までにきちんと返却してもらうことも、けじめとしてもセキュリティ的な観点からも重要なことです。
■従業員に渡すべき物
●年金手帳
転職先でも同じ物を使用しますし、国民年金の種別変更をする際にも必要な重要書類にあたるものです。忘れずに本人に返却しましょう。
●雇用保険被保険者証
●離職票-1、-2
雇用保険被保険者証と離職票-1、-2を受け取るためには、「雇用保険資格喪失手続き」を退職から10日以内にハローワークで行わなければなりません。手続きに必要な書類は以下の通りです。なお退職理由(会社都合、自己都合)によって基本手当(失業手当)をもらえる期間や金額が変わるため、退職理由の記載も必要です。本人に確認をとることを怠らないようにしましょう。
<必要書類>
・雇用保険被保険者資格喪失届
・雇用保険被保険者離職証明書
・添付書類(労働者名簿・出勤簿・賃金台帳、退職理由を確認できる書類など)
離職票-1、-2はこの手続きを済ませた後にハローワークから発行されます。いずれも退職者が失業給付を受けるための必須書類なので、すみやかに会社から本人へ郵送などで届けましょう。
<注意事項>
・雇用保険被保険者離職証明書は3枚1組の複写式用紙となっておりダウンロードできませんから、ハローワークに足を運ぶ必要があります。
・退職者本人が記名押印又は自筆による署名をする欄がありますから、退職前に作成し記名押印してもらいましょう。
●退職証明書(退職者が希望した時だけ作成し交付)
退職証明書には、退職者が請求していない事項を記載してはいけません。違反すると罰則に処される(労働基準法120条)ため、注意が必要です。様式は自由ですが、厚生労働省でモデル様式を公開しています。
●源泉徴収票
退職金には所得税がかかり、この手続きは原則として会社が行います。具体的には、支給時に源泉徴収を行い、翌月10日までに納付します。住民税も会社で計算して退職金から差し引き、翌月10日までに市区町村に納付します。
そして退職時には、総務部から退職者に、退職所得と給与の源泉徴収票を渡します。退職所得と給与の源泉徴収票は別々に発行するため2枚あることを確実に伝えましょう。
<社会保険関連>
退職日の翌日から5日以内に、退職者から返却された健康保険証(別述)を添えて「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を年金事務所か協会けんぽ等に提出し、健康保険、厚生年金保険の資格喪失手続きを行います。資格喪失年月日は退職日の翌日となることに注意が必要です。
■従業員から回収しなくてはならない物
●健康保険証(本人分のみならず及び扶養の親族分も必要)
退職後の健康保険については退職者にアドバイスしてあげるとよいでしょう。「任意継続」、「国民健康保険への加入」、「家族の扶養家族となる」といった選択肢があります。
なお健康保険証の返却の代わりに、国民健康保険への切り替え手続きをスムーズに進めるため、「健康保険資格喪失証明書」を請求されるケースもあります。この証明書は、社会保険の健康保険から国民健康保険に切り替える場合、手続き上必要な書類になるからです。
●退職所得の受給に関する申告書(退職金を受け取る場合)
退職金が支払われる場合、退職所得控除の必要書類として本人からの提出が必要です。この申告書の提出がない場合、退職所得控除の計算ができないので、20.42%の税金を差し引くことになります。退職金支払日までに提出してもらわなければなりません。
●社員証やIDカードなど身分証明書類、社章
社員の身分の証明につながるものはすべて返却しましょう。
名刺も、自分の物は当然のこと、仕事上で得た取引先の名刺も返却します。
●社費で購入した物品類
雑誌や書籍、パソコン用品、文房具、事務用品、印鑑など
●作成・収集した各種資料やデータ
調査報告書、企画書、図面など自分自身で作成したものであっても、業務上の機密を持ち帰るとトラブルになりかねないため会社に返却します。
●貸与品
制服、作業着等はクリーニングした上で返却しましょう。
●定期券
退職日当日をもって返却(精算返却)しましょう。
退職した社員の書類やデータなどの保管について
退職したからといって、元社員の各種書類やデータの管理を怠ってはいけません。法律で定められていることも多いので、しっかり把握しておきましょう。
●雇用契約書、身分証明書コピー・秘密保持契約書・勤怠記録データ(タイムカード)等
労働基準法は、
「使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を3年間保存しなければならない。」と定めています(第109条)。そして、「労働基準法第109条の規定による記録を保存すべき期間の計算についての起算日」については、「雇入、又は退職に関する書類については、労働者の退職又は死亡の日」(労働基準法施行規則第56条)と定めています。
●その他、従業員に関する個人情報
各法律により下記のとおり保存期間が個別に定められています。
・健康診断の結果は保存期間5年(安全衛生法)
・雇用保険の書類については保存期間4年(雇用保険法)
・労災保険の書類については保存期間3年(労災保険法)
・厚生年金保険の書類については保存期間2年(厚生年金法)
・健康保険の書類については保存期間2年(健康保険法)
これらの法律が定める保存期間を過ぎた時点で、書類やデータのチェックを行うとよいでしょう。ただし何らかの事情があり、必要な情報についてさらに長期間保存しておきたい場合が考えられます。たとえば債務不履行による損害賠償債務の時効期間としては10年が目安になります。長くても10年を過ぎた時点で、それ以上保管しておく必要があるか否か検討することが必要になってくるでしょう。
まとめ
エン・ジャパンが実施した意識調査によれば、転職未経験者が最も不安に思うことは「年金等の諸手続き」となっています。
勤務年数の長短に関わらず同じ会社で苦楽を共にしたわけですから、次のステップへ進む仲間を温かく送り出してあげたいもの。一連の退職手続きは複雑で多岐にわたりますが、退職当日まで「寄り添ってあげる」ことも総務の重要な仕事です。
社員の入退社に関して、実は裏方で支えているのが総務部の仕事。退職者から最後の最後まで感謝される存在であるよう、ベストを尽くしてあげたいものですね。