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【オフィス防災】障がい者の方の避難サポートはどうすればいいの?

平成30年4月1日から「改正障害者雇用促進法」が施行され、障がい者の法定雇用率が引き上げられました。従業員数が46人以上の企業は、障がい者の方を1人雇用する義務があります。

障がい者の方を雇用するにあたり、オフィス環境や通勤方法など配慮すべきことは多数ありますが、中でも重要なのがオフィスで被災した際の避難方法です。安全に避難できるようにサポートするのが、事業者の義務の一つと言えるでしょう。

そこで今回は、火災、地震、水害といった災害が発生した際に周囲がどのようなサポートを行うべきか、その方法と避難訓練における確認事項をご紹介いたします。

オフィス被災時の基本的な避難方法を知ろう


オフィスにいるとき、火災や地震、水害が発生した場合、どのように対処すべきなのか。災害別にみていきましょう。

1. 火災の場合<屋外に出るか、下のフロアに避難>

火災が発生したときは、エレベーターの機能が停止する恐れがあるため、避難階段で避難しましょう。屋外へ避難することが原則ですが、自力で階段によって避難することができない人がいる場合には、防火区画された場所に一時的に避難し、避難階段を使って徐々に下の階に降りる方法もあります。火災の階よりも下のフロアに避難するようにしましょう。防火区画内が混雑しないように、障がい者の方とサポート人員以外の人は先に避難階段を降りて外に出ましょう。

【防火区画とは】
高層のオフィスビルの各階に設けられた、避難階段の手前などにある空間です。鉄製の扉で通常フロアと区切ることができ、火災の延焼や煙の流入を防ぐ目的で設けられています。防火区画が設置されている場合には、社員全員が場所と扉の開閉方法を把握しておくようにしましょう。

2. 地震の場合<建物内に留まる>

洪水による被害が発生した場合は、建物内に留まります。屋外に出ると洪水に巻き込まれる恐れがあるからです。

フロア内に浸水する可能性がある場合は、上層階に避難してください。エレベーターが動く場合は、エレベーターを使って避難することができます。

低層のビルの場合は、あらかじめハザードマップ等で建物が建っている地域の浸水の可能性を調べ、対策を立てておきましょう。大雨警報が発令されたら早めにオフィスから退避する、といった方針を共有しておくことが大切です。

協力:東京消防庁 防火管理係 自衛消防係

オフィス被災時のサポート方法を事前に話し合うことが重要

障がい者といっても、障がいの種別や程度は人それぞれです。そのため、避難時にどのようなサポートが必要なのか、普段から本人と話し合っておくことが重要になります。車椅子を人に押してもらいたい、腕を引いて道を誘導してもらいたい、といった希望を聞き、他の社員にも共有しておきましょう。

今回は、「外国人来訪者や障害者等が利用する施設における災害情報の伝達及び避難誘導に関するガイドライン」の手引き(平成30年3月消防庁予防課)を参考に、基本的なサポート方法をご紹介します。

【歩行が不自由な方】

○車椅子を使用している方の場合
➀車椅子の使用者が混乱しないように、避難経路を簡単に説明します。
➁車椅子を押す前、止まる前に必ず声をかけながら車椅子を動かします。この際、車椅子のどの部分を持つべきか、注意することはないかを使用者に確認しましょう。
➂階段を降りる際は、段差を下ることを伝えます。後ろ向きになり、キャスターが段差に乗っていることを確認しながら後輪を下ろします。つづいて、フットサポートや使用者の足が段差に当たらないように気をつけながら、キャスターを上向かせた状態で下ろします。
➃階段を昇る際は、段差を上がることを伝えます。前向きになり、キャスターを段差に乗せます。つづいて、後輪をゆっくりと押し上げます。

杖や歩行補助具を使用している方の場合(事前にサポート必要の有無を確認)

➀使用者の斜め前に立ち、サポーターの肘か肩を掴んでもらいます。後ろから支えると危険なところに押し出されている、と使用者が恐怖を感じることがあります。
➁ゆっくりとしたテンポで階段の昇り降りなどをサポートしてください。
この際、杖や歩行器具に触れないように気をつけましょう。

【目が不自由な方】

➀目が不自由な方の斜め前に立ち、サポーターの肘か肩をつかんでもらいます。後ろから支えると危険なところに押し出されている、と使用者が恐怖を感じることがあります。
➁目が不自由な方に安心してもらうため、動く前に必ず「どの方向に(前後左右)」「どれだけ動くのか(何歩、何m)」を伝えてから動きます。角を曲がる際は、「角を曲がります」と伝えてから曲がります。
➂階段の昇り降りの際は、「階段を上がります(下がります)」「ここで終わりです」という言葉を、動く前と止まる前に必ず伝えます。
➃目が不自由な方が方向感覚を保てるように、なるべく真っすぐ歩いて誘導します。階段を降りる際は、可能であれば手すりにつかまらせます。
⑤目が不自由な方のそばを一時的に離れる場合は、転倒の危険性を防ぐために壁か柱の近くに誘導します。壁(柱)を確認してもらい「ここに壁(柱)があります。○○のため一時的に離れます。○分後に戻ってきます」と伝えましょう。

白杖を持っている方をサポートする際は、杖をつかんだり、引っ張ったりしないように注意してください。目が不自由な方の中には弱視の方もいるので、暗い場所、明るい場所に出る際は必ず事前に伝えましょう。

【耳が不自由な方】

➀災害が発生したら、筆談かゆっくりとした発話を用いて、これからどういった対応を取るのか伝えます。耳が不自由な方の混乱を防ぐためにも、状況をしっかりと理解してもらいましょう。
➁避難する場合には、どのように避難するのかを簡単に伝えます。

被災時、障がい者の方の家族や同居人への連絡は基本的に本人が行います。しかし、いざという時のためにあらかじめ連絡先、連絡方法を周囲が把握しておいた方がよいでしょう。地震発生時は電話がつながりづらくなるため、SNSや災害伝言ダイヤルといった電話以外の連絡方法を障がい者の方と家族の間で決めてもらうように奨めてください。

参考:総務省消防庁「外国人来訪者や障害者等が利用する施設における災害情報の伝達及び避難誘導に関するガイドライン」の手引き

避難訓練でチェックすべき3つの項目


被災時に障がい者の方を適切にサポートできるかどうかは、避難訓練の有無にかかっているといっても過言ではないでしょう。ここでは、訓練を実際の避難に役立てるための3つの項目をご紹介します。

【1】避難時のサポート方法

障がい者の方と話し合って決めたサポート方法が適切かどうか、実際に試します。不具合が生じる場合は、「障がい者の避難誘導ガイドライン」を基にサポート方法を見直してみましょう。オフィスで階段用の車いす等を配置している場合は、全員で使用方法を確認しておくことも必要です。

【2】避難の妨げになる場所

避難経路の中に避難の妨げとなる場所(段差、狭い通路など)がないか確認しましょう。それらの場所でどのようにサポートをするのか、を実際に訓練しておくことが重要です。

【3】避難時のコミュニケーション手段

障がい者の方への災害発生や避難方法を伝える手段を決め、訓練の中で実践しましょう。実際の災害時と同じ方法で避難手段の伝達を行っておくと、被災時の混乱を防ぐことができます。コミュニケーションの手段には次のようなものがあります。

発話(はつわ):人の音声を用いて会話する一般的なコミュニケーション方法です。
筆談(ひつだん):紙や手のひらに書いて会話するコミュニケーション方法です。
読話(どくわ):話す口の形を見て読み取るコミュニケーション方法です。
手話(しゅわ):手話や身振りで伝えるコミュニケーション方法です。

障がい者の方が希望する方法を聞いてから、どのような文言で災害や避難の状況を伝えるのかを決めましょう。

参考:杉並区「障害者からのお願い「大地震(災害)の時助けてください!」

まとめ

労働現場での人手不足が叫ばれる時代、さまざまな特徴を持った方と一緒のオフィスで働く機会は増えていくでしょう。

障がい者の方が安心して避難できる仕組みは、全員が安全に避難できる仕組みでもあります。

避難方法の取り決めや訓練を怠らずに、誰もが安心して働ける職場環境を作りましょう。

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