厚生労働省が公表している「平成27年就労条件総合調査」によると、全企業のうち45.8%の企業が、住宅に関する手当を社員へ支給しています。従業員1000人以上の大手企業では59.1%、従業員数30~99人の中小企業でも41.4%が住宅手当を支給しているのが現状です。
現在は住宅手当を支給していなくても、将来的に導入を検討している担当の方も多くいるのではないでしょうか。
この記事では、「住宅手当を支給するメリット」や「社宅との違い」など、住宅手当の導入時に気になるポイントについて詳しく解説します。
社員の住宅費用を補助する「住宅手当」
住宅手当とは、企業が社員に提供する福利厚生のひとつです。家賃や住宅ローンなど、社員の住宅にかかわる金銭的な負担の軽減を目的としています。
住宅にかかわる福利厚生は、そのほかに「社宅」が挙げられます。「社宅」は企業が所有、もしくは借りている物件を社員に安価で貸し出す福利厚生ですが、「住宅手当」では社員個人の住宅に対して一定額の補助金を出します。
「平成27年就労条件総合調査」によると、全企業の住宅手当平均額は、17,000円/月とされています。企業規模や方針によって支給金額や条件は異なりますが、以下の要素にもとづいて金額を決定することが多いようです。
- 扶養人数や家族構成
- 雇用形態
- 勤務地
- 賃貸か持ち家か
また、基本給の何%、という計算方法を用いる企業もあります。
住宅手当導入にあたって知っておきたいポイント
住宅手当を支給するときは、全社員に無条件で支給するのではなく、一定の条件を課すことが多いようです。条件を設定する際にポイントとなるのが、「社員の働きやすさ向上」です。社員をしばるための条件ではなく、会社で働きやすくするための条件を設定しましょう。
住宅手当を導入している企業では、「会社から近い距離での居住」と「会社近距離への引っ越し」に補助金を支給するケースが多いです。住宅手当だけでなく引っ越し費用も負担することで、住宅手当の支給率と福利厚生への満足度向上が見込めます。
大手レシピサイトを運営しているクックパッド株式会社では、月額3万円を上限とする住宅手当を支給しています。住宅手当は、通勤のストレス緩和を目的とする「近距離奨励」の理念にもとづいた福利厚生のため、支給条件は「会社から2キロ圏内に居住していること」です。また、会社から2キロ圏内にはじめて引っ越した場合、20万円が支給される「近距離奨励金」制度もあわせて導入されています。
インターネットメディア運営事業を行う株式会社リブセンスは、住宅手当の支給率を公表しています。リブセンスは、「目黒にあるオフィスから2.5キロ以内の場所に住む正社員」に毎月3万円を支給。公表されているデータによると、この手当を受給している社員の割合は全体の3割程度です。
住宅手当を導入する際は、社員が福利厚生を利用しやすくする仕組みも重要です。「引っ越し補助金」などの制度もあわせて検討してみるとよいでしょう。
住宅手当と社宅の比較
住宅にかかわる福利構成の代表例が「社宅」です。福利厚生を選ぶ際に、「住宅手当」と「社宅」のどちらを導入すればよいか迷う方もいるかもしれません。それぞれの制度にどんな違いがあるのか解説します。
社宅は税金対策になる
住宅手当は給与扱いのため課税対象です。つまり、所得税や住民税、社会保険などの算定起訴額が増えるため、住宅手当を支給されると増税になります。昇進などで給与が増えた場合、社員の税負担が増える可能性もあるでしょう。
一方、借り上げ社宅の場合、「企業が社員から受け取っている家賃が賃貸料相当額の50%以上であれば、受け取っている家賃と賃貸料相当額との差額は給与として課税されない」という規定があります。企業が住宅の貸主に支払った家賃と従業員から徴収した家賃に差額が生じたとしても、その割合が規定の範囲内であれば、その差額には所得税や住民税は課税されません。つまり、住宅手当よりも、社宅のほうが課税額は少なくなります。
また、社員だけでなく企業にとっても社宅は節税対策になります。福利厚生にかかわる出費は損金として扱われるため、利益を抑えて課税額を減らすことが可能です。
企業にとって社宅は手続きなどの管理コストがかかる
税金面では住宅手当よりも社宅のほうが魅力的でしたが、社宅にかかる管理コストは多くなります。社宅は自社所有、借り上げにかかわらず、管理にかかわる支出は避けられません。また社宅の場合、本来入居者が行うはずの賃貸手続きを企業が代行するため、手続きコストも発生します。従業員が多かったり、社宅の数が増えたりするほど、手続きにかかわる負担は大きくなるでしょう。
また社宅では、契約内容についての揉め事や利用者同士の不祥事が発生することもあります。企業はこうしたトラブルに対応しなければなりません。
住宅手当を支給する場合、企業の手続きは「補助金の支給」のみです。社員も自由に住宅を選べるため、税金対策になる社宅より住宅手当のほうが喜ばれることもあります。また住宅手当だけでなく、「引っ越し費用の補助」といった住宅関連の制度を整えることで、福利厚生の利用率や働きやすさ向上につながるでしょう。
「住宅手当」は管理がしやすく、「社宅」は税金対策になるなど、それぞれの制度にメリットとデメリットがあります。社員に必要かどうかだけでなく、コストも十分検討した上で、自社に適した制度を選択しましょう。
まとめ
今回は、住居にかかわる福利厚生「住宅手当」についてご紹介しました。
住居にかかわる福利厚生は社員需要も高く、節税対策や企業アピールとしての機能もあります。借り入れ社宅には社員にとって転勤の負担が減る、企業は家賃収入が得られるなどのメリットもありますが、賃貸契約をはじめとした管理コストといったデメリットも忘れてはいけません。
適切な福利厚生の導入は社員にとっても企業にとっても大きなメリットとなります。住宅手当として一定額を支給するのか、社宅として物件を提供するのかは、転勤の頻度や企業の立地など、自社の環境に応じて検討することが大切です。