厚生労働省によると、各都道府県の労働局に寄せられた職場の「いじめ・嫌がらせ」に関する相談は、増加を続け、平成26年には「精神障害の労災補償の支援決定件数全体」は497件にも上りました。
また、こうした「ハラスメント」の問題は、報道や情報番組でも盛んに取り上げられ、社会的な注目を集めてもいます。
ハラスメントの問題は、会社全体の生産性の低下・離職のほか、報道された場合には企業イメージを貶めることも。また、ハラスメントの問題は、職員間の問題にとどまらず、会社全体での生産性の低下・離職を招きます。
今回は、ハラスメント対策の導入法を考えていきます。
ハラスメント対策の重要性を認識する
ハラスメント対策を導入する際には、ハラスメントによって従業員にメンタル不調、職場の雰囲気が悪化することで生産性が落ちる、といった内容もしっかりと認識する必要があるでしょう。
かつては、多くの企業でパワハラに相当するような不適切な言動・行動が横行していたのではないでしょうか。そして、それが当然であるかのような雰囲気もあったと考えられます。
「自分はもっと厳しく育てられた」という考えの方もまだまだ多いように思います。しかし、言葉の受け取り方は、時代や環境によって大きく変わります。
指示・指導をする側にとっては「教育」であっても、人によっては「ハラスメント=嫌がらせ」と受け取ってしまう場合もあります。大切なのは、「自分はこうだったから、今も当然である」という認識ではなく、一人一人の従業員を「個」として捉え、その人にあった言葉・指導です。
また、職務権限や権力・専門知識を悪用し、部下を精神的に追い詰める悪質な「パワーハラスメント」が横行している場合、従業員(被害者)のメンタルヘルス不調や、職場の雰囲気の悪化、さらには訴訟というリスクもあります。
厚生労働省の定義によると、パワーハラスメントは大きく分けて6種類存在しています。
①身体的な攻撃:殴る・蹴るなどの暴行
②精神的な攻撃:人格の否定、他の職員の前で罵倒するなど
③人間関係からの切り離し:別室や、離れたデスクに一人だけ座らせる・懇親会などに呼ばないなど
④過大な要求:新人で仕事のやり方がわからないにもかかわらず他の人の仕事まで押し付けるなど
⑤過少な要求:事務職であるのに毎朝の掃除を一人に命令するなど
⑥個の侵害:交際相手や妻などを罵倒する。趣味を批判するなど、プライベートを否定する
こうしたパワーハラスメントを防ぐためには、経営層から、「ハラスメントは容認しない」という強い意志を示す必要があるでしょう。
社内のハラスメントの有無を調査する
続いて、社内にハラスメントというリスクが存在しないかを調査します。
質問項目は、一般従業員向けに、ハラスメントを受けた経験の有無、周囲で見かけた経験の有無、管理職向けには、ハラスメントに該当するような行為をしたことがあると思うか否か、といった内容に設定しておきます。
また、アンケートの特性上、個人が特定される恐れもあり、正確な回答が集まらない恐れもあるので、アンケートの手法は無記名かつ、回収に際しても回答者が特定されないよう配慮する必要があります。
アンケートの実施は、パワーハラスメントの実態把握につながるだけでなく、「パワーハラスメントを容認しない」という会社の意思を示すことができるほか、従業員のパワーハラスメントに対する意識を高める効果もあります。
ハラスメントを認めない風土づくり
最後の段階では、ハラスメント対策の実施を軌道にのせるため、専門部署・窓口を設置し定期的な調査や、研修・セミナーを通じてハラスメント防止への意識を高めます。
研修やセミナーでは、実際にどんな言葉・態度がハラスメントにつながっているのか、動画を使って事例を紹介するとイメージが湧きやすいでしょう。
また、セミナーのテーマも、感情を抑制・コントロールする「アンガーマネジメント」を取り入れるなど、様々な観点からもハラスメントの防止に取り組む必要があります。
そして、セミナーの受講者同士、「どこまでがハラスメントに該当するだろうか」というディスカッションを行うのも効果的です。
例えば、「意欲がないなら会社を辞めるべきだと思います。当社にとっても損失そのものです。あなたの給料で業務職を何人雇えると思いますか」というメールを部下全員に送信するなどの行為は、ハラスメントに該当するでしょうか。
こちらは、実際に裁判にまで発展した事例です。実際の裁判では、「メール送信の目的は叱咤激励」であり、パワーハラスメントは認められませんでした。しかし、「人の気持ちをいたずらに逆なでする侮辱的言辞など、名誉感情を毀損することは明らか」とし、メールの内容や、部下全員に送信した事実は名誉毀損であると判断されました。
「どんな目的で、どのような言葉・方法」がパワーハラスメントになるのかをディスカッションすることで、ハラスメントを容認しないという風土と、共に働く人の気持ちに立ったコミュニケーションが取れるようにもなります。
ハラスメントを放置すると、高額な賠償金の請求も
過去にはハラスメントの被害を被った被害者に対して、高額な賠償金・和解金の支払いが命じられたこともあります。
大手かつらメーカーでは、2008年に無理やりキスをされる、体を触られるなどのセクハラ被害を受けた女性が、PTSDを発症し、退職を余儀なくされました。裁判所は、セクハラによるPTSD発症と退職の因果関係を認め、会社と加害男性にそれぞれ650万円、合わせて1,300万円の支払いと、被害女性の住む京阪神地域への加害男性の転勤・出張を避けるように努めなければならないという条件のもと和解しました。
また、2011年にさいたま市の職員が、半年間にわたって上司から暴言・暴行を受けて自殺した問題では、裁判所がさいたま市側の安全配慮義務を怠ったとして、1,320万円の支払いを命じています。
ハラスメントは、企業にとって重大なリスク要因
ハラスメントによって人材の流出や、職場内の生産性低下、雰囲気の悪化、そして高額な賠償金・和解金の支払いが求められる可能性があります。さらに、企業のイメージまで損なわれます。
そうしたリスクを抑えるためにも、ハラスメント対策は今すぐに実施するべきと言えるでしょう。
最後に、積極的にハラスメント対策に取り組んでいる JFEホールディングスのハラスメント相談窓口ポスターに書かれている、同社役員の方の言葉をご紹介します。
JFEのすべての社員が家に帰れば自慢の娘であり、息子であり、尊敬されるべきお父さん、お母さんだ。そんな人たちを職場のハラスメントなんかでうつに至らしめたり、苦しめたりしていいわけがないだろう。