企業における従業員の健康管理は義務?取り組み方も紹介

遠藤 香大(えんどう こうだい)
近年、従業員の健康管理は、企業が取り組むべき重要な課題と考えられています。この記事では、企業における従業員の健康管理について、そのあり方や取り組みなどを詳しく解説します。
目次
従業員の健康管理とは
そもそも、健康とはどのような状態のことでしょうか。単に病気を患っていない状態では、健康とは言えません。健康とは身体的、精神的、社会的に満たされた状態であることを指します。
企業は、従業員の健康管理をする必要があります。なぜなら、従業員は企業にとって大切な資源であり、その健康状態は企業の生産性に大きく影響するためです。
また、従業員は1日の多くを仕事に費やしているため、健康の維持には企業による管理が重要です。
従業員の健康管理は企業の義務
従業員の健康管理は、法律で定められた企業の義務でもあります。その根拠となる考えについて紹介します。
安全配慮義務の一環である
安全配慮義務とは、企業が従業員の健康や安全に配慮する義務です。労働契約法や労働安全衛生法によって定められています。
労働契約法は、労使契約の基本原則を規定した法律です。従業員が不当な労働条件に置かれないよう保護しています。一方で労働安全衛生法は、従業員の安全や健康を確保するために企業が行う措置について規定した法律です。
これら2つの法律で定められた安全配慮義務には、従業員の健康管理も含まれています。つまり、従業員の健康管理は法で定められた義務で、違反すると罰則の対象になります。
労働生産性が向上する
健康管理を適切に行い、すべての従業員が健康な状態で仕事に従事できれば、労働生産性は向上します。従業員が良好な健康状態であれば、離職率の低下、優秀な人材の育成、新たな人材の獲得などに効果があるでしょう。
また、健康管理は人材確保に有益なだけでなく、ひいては企業のイメージアップにつながることも期待されます。
社会保険料軽減にもつながる
企業が従業員の健康管理に取り組めば、病気の予防や早期発見が可能です。結果として、健康増進や医療費抑制が見込めます。
つまり、社会保険料が軽減され、経営にあたってのコストを削減できるでしょう。
従業員の健康を管理する取り組み
従業員の健康を管理するには、どのような取り組みが有効なのでしょうか。
ここからは従業員の健康管理について、3つの側面から具体的な取り組みをご紹介します。
快適な職場環境の提供
従業員が健康で快適に働ける職場環境の提供は、企業が担う大切な役割です。
望ましい職場環境を以下に記しました。これらが促せるような職場環境を目指しましょう。
- 快適性を感じる(空気・光・音など五感により快適さが感じられる環境)
- コミュニケーションする(挨拶・会話・共同作業)
- 休憩・気分転換する(飲食・仮眠・雑談・昼休みをしっかり取る)
- 体を動かす(歩く・階段利用・ストレッチ)
- 適切な食行動を取る(昼食や間食の工夫)
- 清潔にする(手洗い・掃除・分煙)
- 健康意識を高める(健康情報の閲覧・健康状態のセルフチェック)
(参考:経済産業省「健康経営オフィスレポート 従業員がイキイキと働けるオフィス環境の普及に向けて」)
長時間労働の是正
長時間労働は従業員の心身に悪影響を及ぼします。労働基準法には労働条件の最低基準が定められており、長時間労働に関しても厳しい規定があります。
時間外労働については、月100時間未満、または2か月から6か月継続して月80時間を超えてしまうと過重労働です。また、時間外労働が月80時間を超える場合は、従業員が医師と面談する機会を設けるよう努めなければなりません。
長時間労働は従業員のメンタルヘルスを悪化させ、ひいては業務効率の悪化にもつながります。早期に是正しましょう。
女性の健康管理
近年、女性従業員が健康に過ごせる環境を整えることが、企業にとっては不可欠です。これは、女性特有の健康問題が広く認識されるようになったためです。
女性の健康課題として、以下があげられます。
- 月経関連の症状や疾病
- 妊娠や出産
- 不妊
- 更年期障害
こうした課題を解決するために相談窓口を設け、柔軟な働き方ができるように環境を整えましょう。
また、女性の健康課題に対するリテラシーを向上させる取り組みも必要です。とくに男性や管理職などで、これらの問題について学ぶ機会をつくり、知識を身につけることが重要です。。
ストレスチェックや相談窓口の設置
ストレスを抱えると心にも体にも相当な負荷がかかり、メンタルヘルスの不調を引き起こします。
目に見えないストレスを把握するため、2015年12月よりストレスチェック制度が義務づけられました。従業員が50人以上いる事業所では、年に1回ストレスチェックを行うことが求められます。
ストレスを認識したら「問題点を探り、職場環境を改善させる」「ストレス解消のための相談窓口を設置する」などの行動を起こしましょう。
(参考:厚生労働省「ストレスチェック制度について」・「企業における心の健康相談体制」)
産業医の配置
安全衛生法は従業員が50人を超える企業に対して、産業医を配置するよう義務づけています。産業医とは、従業員の健康管理についてアドバイスする存在です。
以下に、産業医の主な職務を示しています。
- 健康診断の実施や、結果に基づいた措置
- 治療と仕事の両立に関する支援
- 長時間労働者への面接指導
- ストレスチェック
産業医を配置することで従業員の健康問題が解消し、企業の生産性向上が期待されます。従業員が安心して働ける環境が整うと、企業の価値やイメージも向上するでしょう。
(参考:厚生労働省「産業医ができること」)
福利厚生の充実
福利厚生も健康管理の一環です。
たとえば、すべての従業員が法人会員としてスポーツジムを安く利用できるようにすれば、利用を促すことができ、従業員の健康維持につながります。ほかにも「健康管理室を作る」「スポーツイベントを開催する」などの施策も考えられます。
勤務時間内に利用できる福利厚生としては、「置き型飲食系コーナーの導入」や「仮眠室の設置」などがおすすめです。
法律で定められていない法定外福利をどのように採用するかは、企業の個性が現れる部分です。従業員のニーズを拾い上げ、積極的に展開しましょう。
社員を守る健康診断の基礎知識
従業員の健康を守る上で基本となるものが、企業が行う健康診断です。ここでは健康診断の基礎知識を紹介します。
健康診断の実施は法律で規定されている
健康診断の実施もまた、法律で義務づけられています。労働安全衛生法および労働安全衛生規則によって規定されており、実施しなかった場合の罰則規定も定められています。
(参考:厚生労働省「安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう」・「労働安全衛生法に基づく健康診断の概要」)
健康診断を実施するタイミングと費用負担は?
既存従業員は年に1回、新規雇用者は雇入れ時のタイミングで、健康診断を実施します。
健康診断には従業員が健康に働けるよう管理する目的があり、費用は原則として事業者が負担します。ただし、費用負担の対象となる検査は「血圧の測定」「尿検査」「既往歴及び業務歴の調査」など、法定項目のみです。
健康診断の対象は正規社員だけではありません。1年以上の就労を予定し、1週間の労働時間が正規雇用の4分の3以上であれば、非正規雇用であっても健康診断の実施は義務です。
診断結果をもとに就労判定をする
健康診断の結果が出たあとは、就労判定を行います。異常の所見があれば、従業員の健康を保持するために、産業医から意見を聴取します。
場合によっては、従業員の実情を考慮しつつ「就労場所の変更」「作業の転換」「労働時間短縮」「深夜業の回数を削減」などに取り組みましょう。異常を把握しているにもかかわらず業務を継続させ、健康状態が悪化したり亡くなったりした場合、安全配慮義務違反に問われる可能性があります。
(参考:厚生労働省「労働安全衛生法に基づく健康診断実施後の措置について」)
従業員の健康管理とBCP(事業継続計画)の関係性
従業員の健康管理が、企業の生産性や企業イメージに深くかかわることを解説しました。そして従業員の健康管理はBCPと密接な関係にあります。なお、BCPとは、Business Continuity Planの略で、日本語では「事業継続計画」などと訳されます。
自然災害やテロ、感染症などに対して、被害を最小に抑えるとともに、たとえ被害・影響が出てしまったとしても、適切な対応で速やかに事業活動を復旧・継続させることを目的とした計画です。従業員とBCPの関係について、2つの視点から解説します。
従業員の健康状態把握を災害時に活用できる
従業員が健康で高い生産性を維持して働くには、日常で個々の健康状態を把握することが求められます。平常時より把握していれば、災害やテロ、感染症などの緊急事態が発生した場合でも、従業員の状況把握がスムーズになるでしょう。
従業員の健康状態を把握することは、BCP策定の一環として重要と言えます。
安否確認システムで健康状態を把握できる
安否確認システムは、災害やテロ、感染症などの緊急事態が発生した際に、従業員の安否を把握できるツールです。安否確認システムの導入によって、緊急事態が発生した場合でも、従業員の状況を即座に確認できます。
平常時から健康状態の把握に安否確認システムを利用していれば、万一の場合にも、情報収集の負担を軽減できます。BCP対策としても有効に働くでしょう。
従業員が健康に働ける環境を整えよう
企業における従業員の健康管理について、その重要性や取り組みを紹介しました。従業員の健康を守ることは、人材という大切な資産を守ることであり、企業全体のパフォーマンスを上げることにもつながります。すべての従業員が健康に働ける職場環境を目指し、企業はさまざまな取り組みを実施しましょう。