PMBOKは定期的に内容が更新されており、現在2024年5月時点で発行されているものは第7版です。プロジェクトを推進するためのガイドラインであるPMBOKをうまく活用することにより、プロジェクトを効率的に進められます。
この記事では、PMBOK第7版のリスクマネジメントに関する原則について紹介します。実務に活用するポイントについても説明するので、体系的にリスクマネジメントについて学びたい方やPMBOKを実務に活かしたい方は参考にしてください。
目次
リスクマネジメントとは
リスクマネジメントとは、リスクを組織的に管理し、損失の回避または低減を図るプロセスのことです。企業に損失をもたらすリスクおよびそのリスクの影響の大きさを把握し、事前に対策を講じることにより、損失を最小限に抑えて企業を存続させることが目的です。
PMBOKとは
PMBOK(Project Management Body of Knowledge)は、プロジェクトマネジメントの理論や手法を体系的にまとめた知識体系のことです。1987年にアメリカの非営利団体PMI(Project Management Institute)によって初版が発表され、現在は第7版(2021年発行)が最新版です。
PMBOKはプロジェクトマネジメントの世界標準として世界中で使用されており、内容は定期的に更新されています。なお、第7版では、以前のプロセスベースから大きく変わり、プリンシプルベースを採用しています。
PMBOK第7版のリスクマネジメントに関する原則
PMBOK第7版では、プロジェクトマネジメントの指針として12の原則を紹介しています。そのなかにリスクマネジメントに関する原則が存在します。
10番目の原則は、「リスク対応を最適化する」というものであり、プロジェクトマネジメントにおいて不確実性に対処し、リスクを適切に管理することについて説明したものです。リスクはプロジェクトにプラスまたはマイナスの影響を与える可能性があり、リスクを継続的に評価して対応策を講じることが求められます。
リスクを管理する際、まずどの要素をリスクとして扱うのかという基準を定める必要があります。リスクの重大性や対応の優先順位、費用対効果、現実的な対応可能性などを考慮して、対応すべきリスクか判断しましょう。
リスクとして扱うことを関係者が認めているか、またリスクに対処する担当者が明確にされているかも重要です。機会となるリスクは積極的に享受し、同時に脅威となるリスクは損失を最小限に抑える戦略を立てましょう。
そのほかの原則
PMBOK第7版で紹介されている原則には、「リスク対応を最適化する」以外にも以下のようなものがあります。
- スチュワードシップである(倫理観を持ってプロジェクトに取り組む)こと
- 協働的なプロジェクトチームの環境を作る
- ステークホルダーと効果的に連携する
- 価値に焦点を当てる
- システムの相互作用を認識し、評価・対応する
- リーダーシップを行動で示す
- 状況に基づいたテーラリング(PMBOKの標準的な体型を個々のプロジェクトに合わせてカスタマイズ)
- プロセスと成果物に品質を組み込む
- 複雑性に適応する
- リスク対応を最適化する
- 適応力と回復力を持つこと
- 将来の状態を達成するために変化する
PMBOK第6版から変更されたポイント
PMBOK第7版では、第6版の構成が大きく変更されています。具体的には第6版で特徴的だった「5つのプロセス」と「10の知識エリア」が廃止され、「12の原則」と「8つのパフォーマンス領域」に置き換わりました。これにより、PMBOKの性質が、手順や方法について説明するハウツー本から、原則にもとづくバイブルへと変わっています。
構成が変更された背景には、プロジェクトにおいて重要視されるポイントが変わったことが考えられます。従来は品質(QCD)を達成することが重要とされていましたが、現在は価値提供を重視する傾向にあります。これらのことから、プロジェクトリーダーには価値創造に向けて取り組むことが求められています。
ここでいう価値とは、ステークホルダーに対する値打ちや重要性、有用性のことです。つまり、従来は品質重視でしたが、現在はステークホルダーのベネフィットに貢献することを重視するように変化しています。
PMBOK第6版のリスクマネジメントに関する説明
リスクマネジメントの理解を深めるために、第6版で紹介されていたリスクマネジメントのプロセスについて理解しておくことがおすすめです。第7版は第6版の概念などをもとに改善したものであるため、第6版を理解することにより、第7版で新たに追加された概念や変更点について理解しやすくなります。
ここでは、PMBOK第6版のリスクマネジメントのプロセスについて解説していきます。
リスクマネジメントは知識エリアのひとつ
PMBOK第6版では、10の知識エリアが紹介されており、そのうちの一つがリスクマネジメントです。
知識エリア | 概要 |
---|---|
統合マネジメント | 他の知識エリアを取りまとめて、全体を通して一貫性を持たせる |
スコープマネジメント | プロジェクトの範囲を明確に定義する |
スケジュールマネジメント | プロジェクトのスケジュールを設定し、スケジュールに従って作業が進行するように管理する |
コストマネジメント | プロジェクトの予算を計画し、予算内で作業が完了できるようにする |
品質マネジメント | プロジェクトが必要とする品質基準を満たすように管理する |
資源マネジメント | 人的リソースと物理的リソースを効率的に使用し、適切に配置する |
コミュニケーションマネジメント | メンバーとクライアント、ステークホルダーのコミュニケーションを円滑に行うように、情報連係を管理する |
リスクマネジメント | リスクを特定・分析・監視することにより、プロジェクトのリスクに効果的に対処する |
調達マネジメント | 必要な商品やサービスを外部から調達するプロセスを管理する |
ステークホルダーマネジメント | プロジェクトに関わるすべてのステークホルダーとの関係を構築し、プロジェクトの目標達成を目指す |
リスクマネジメントで実施すること
先述したとおり、リスクマネジメントは5つのプロセスと10の知識エリアで構成されています。
立ち上げプロセス群 | 計画プロセス群 | 実行プロセス群 | 監視・コントロールプロセス群 | 終結プロセス群 | |
---|---|---|---|---|---|
統合 | プロジェクト憲章の作成 | プロジェクトマネジメント計画書の作成 | ・プロジェクト作業の指揮・マネジメント・プロジェクト知識のマネジメント | ・プロジェクト作業の監視・コントロール・統合変更管理 | プロジェクトやフェーズの終結 |
スコープ | ・スコープ・マネジメントの計画・要求事項の収集・スコープの定義・WBSの作成 | ・スコープの妥当性確認・スコープのコントロール | |||
スケジュール | ・スケジュール・マネジメントの計画・アクティビティの定義・アクティビティの順序設定・アクティビティの所要期間見積もり・スケジュールの作成 | スケジュールのコントロール | |||
コスト | ・コスト・マネジメントの計画・コストの見積もり・予算の設定 | コストのコントロール | |||
品質 | 品質マネジメントの計画 | 品質のマネジメント | 品質のコントロール | ||
資源 | ・資源マネジメントの計画・アクティビティ資源の見積もり | ・資源の獲得・チームの育成・チームのマネジメント | ・資源のコントロール | ||
コミュニケーション | コミュニケーション・マネジメントの計画 | コミュニケーションのマネジメント | コミュニケーションの監視 | ||
リスク | ・リスクマネジメントの計画・リスクの特定・リスクの定性的分析・リスクの定量的分析・リスク対応の計画 | リスク対応策の実行 | リスクの監視 | ||
調達 | 調達マネジメントの計画 | 調達の実行 | 調達のコントロール | ||
ステークホルダー | ステークホルダーの特定 | ステークホルダー・エンゲージメントの計画 | ステークホルダー・エンゲージメントのマネジメント | ステークホルダーエンゲージメントの監視 |
ここでは、PMBOK第6版にもとづいたリスクマネジメントの実施作業について解説していきます。
①リスク・マネジメント計画
最初は、プロジェクトで実行するリスクマネジメントの方法について定義する段階です。リスク・マネジメント計画書の作成を目的としており、マネジメントの実行や体型を記載していきます。
また、リスク態度や許容度をもとにリスク評価の基準を設定します。組織やステークホルダーが参加する会議を通じて、リスク態度やプロファイルを理解し、計画書に反映しましょう。
②リスクの特定
プロジェクトに影響を与えるリスクを特定し、リスク登録簿に記載します。リスク登録簿とは、プロジェクトで起こりうるリスクを一覧にまとめた文章のことです。登録簿には、以下の項目を記載します。
- リスクの事象
- リスクの発生原因
- リスクの発生確率
- プロジェクトへの影響度
- リスクへの対応策
一度リスクを特定したら終わりではなく、プロジェクトの進行中にも見直し、適宜更新していきます。
③リスクの定性的分析
リスクの定性的分析では、プロジェクトに影響を与えるリスクを影響度や発生確率から定性的に分析します。リスク登録簿に記載したリスクが対象で、それぞれに等級をつけることにより、プロジェクトに大きな損失を与える重要なリスクを識別することが目的です。
④リスクの定量的分析
次に、プロジェクトに影響を与えるリスクを定量的に分析していきます。分析する際は、以下の分析方法を採用することが多いです。
分析方法 | 概要 |
---|---|
感度分析 | リスクがプロジェクトに与える影響度をグラフで可視化し、分析する |
期待金額価値分析 | リスクの影響度と発生確率を掛け合わせ、プロジェクトにおけるリスクの総合的な期待値を算出する |
モンテカルロ分析 | 過去のデータを分析し、プロジェクトに対するリスクの影響度を予測する |
⑤リスク対応の計画
リスク対応の計画は、リスク登録簿に記載したリスクごとに対策を決めていく段階です。自社に利益をもたらすリスクの影響を高め、損失を発生させるリスクの影響を抑えるための対策を検討します。
⑥リスク対応策の実行
リスク対応の計画で決めた対応策を実行していきます。
⑦リスクの監視
対応策を講じた後のリスクを継続的に監視し、必要があると判断すれば是正処置を検討します。また、新たに発生したリスクを特定し、定期的にその影響を報告します。
PMBOKは実務で使えないのか
PMBOKは使えないという声を聞き、「PMBOKは本当に実務で使えない?」と気になっている方もいるでしょう。結論から言うと、テーラリングすることにより実務で使用することが可能です。ここでいうテーラリングとは、PMBOKの標準的な体系を個々のプロジェクトに合わせてカスタマイズすることです。
PMBOKは、プロジェクトを推進するためのガイドラインであり、抽象的に説明されています。プロジェクトの特性を理解し、PMBOKの要素のなかで必要と判断したもののみを選んで適用することにより、実務で使える有効なツールとなります。
リスクマネジメントには安否確認システムの導入が有効
地震の発生することの多い日本では、自然災害に備えておく必要があり、安否確認システムの導入はリスクマネジメントに有効です。安否確認システムとは、緊急時に従業員の安否を迅速に確認できるツールのことです。
災害が発生した際に従業員に自動で通知を送信するため、手動でメールや電話で連絡を取る必要がありません。さらに、従業員の回答結果を自動で集計できるため、担当者は安否確認以外の業務に集中できて、事業を迅速に復旧しやすくなります。
トヨクモの「安否確認サービス2」がおすすめ
トヨクモの『安否確認サービス2』は、これまで4,000社以上の導入実績がある安否確認システムです。サービスの利用継続率は99.8%で、多くの企業がサービスに満足し、利用を継続しています。
災害が発生する前に通知条件を設定しておくと、条件を満たす災害が発生した際に従業員に安否確認の通知が一斉に送信されます。安否確認の通知に回答していない従業員がいる場合、自動で通知を再送信するため、未回答率を低くできる点が魅力です。
災害が発生していないときにも定期的にメールを送信し、登録されている連絡先が有効かどうかを確認します。有効でない連絡先を把握できるため、緊急時に通知が送信されないというリスクを軽減することが可能です。
初期費用は0円で、最低契約期間は設定されていません。30日間の無料お試し期間が用意されているため、興味がある方はぜひ一度問い合わせしてください。
初期費用・解約費用(税込) | 0円 |
月額費用(税込) | ライト:7,480円プレミア:9,680円ファミリー:11,880円エンタープライズ:16,280円 |
最低利用期間 | なし |
主な機能 | 外部システム連携/通知条件の設定/予行練習/自動一斉送信/回答結果の自動集計/家族の安否確認/災害以外のお知らせ送信ほか |
無料トライアル | あり(30日間の無料お試し) |
PMBOKはテーラリングして実務に活用しよう
PMBOKは定期的に更新されており、現在は第7版が発行されています。第7版の「リスク対応を最適化する」という原則は、リスクを適切に管理する方法について説明したものです。リスクを管理する際、まずどの要素をリスクとして扱うのかという基準を定め、リスクの重大性や対応の優先順位、費用対効果、現実的な対応可能性などを考慮して、対応すべきリスクか判断する必要があります。
PMBOKはプロジェクトを推進するためのガイドラインであり、抽象的な内容となっているため、そのままでは実務に活用できません。プロジェクトの特定に応じてテーラリングして、実務に活用しましょう。
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