年々、日本の防災訓練参加者数が減り続けています。2012年の9月1日「防災の日」に訓練に参加した人数は38万人でした。過去最も参加者の多かった1983年には1600万人もの参加者がいたことから、日本人がいかに防災訓練を行わなくなったかが証明されています。
一方で海外に目を向けると、2008年に開始されたアメリカ版の防災訓練「シェイクアウト」の登録者数は2015年には2120万人に達し、2012年時点で1500万人だったことを考えると、驚異的なペースで参加者の数が増加しているかがわかります。
それではなぜ、海外ではこの「シェイクアウト」がこれほどまでに広がりをみせたのでしょうか。今回はその理由について解説していきます。
目次
今、注目の「シェイクアウト」訓練とは?
「シェイクアウト」はアメリカ、カリフォルニア州で生まれたとされる防災訓練の名称で、直訳すると「地震を吹っ飛ばせ」という意味の造語です。もともとは日本式の防災訓練がモデルだとされており、そのノウハウが海を渡り、「シェイクアウト」という独自の形式に変化を遂げて、現在、日本国内へと“逆輸入”されるという流れになっています。
「シェイクアウト」訓練の参加から実施までの流れ
「シェイクアウト」訓練は市町村が主体となって実施しており、ホームページや自治体などを通じて募集が行われます。
参加登録から実施までの流れとしては、以下の4ステップが一般的です。
「シェイクアウト」訓練の参加から実施までの4ステップ |
1.ホームページ、自治体や学校を通じて参加登録 |
2.ホームページ、講演会の参加を通じて事前学習をする |
3.決められた日時に、合図とともにその場で訓練を開始 |
4.ホームページ、SNSを活用して訓練について発信する |
訓練内容は、「シェイクアウト訓練を実施する場所周辺」で起こりうる災害を想定したものが多く、より実践的な防災訓練として取り組まれています。
各地で行われる「シェイクアウト」訓練の実施日時は、「The Great Japan ShakeOut」のサイト内にある参加ページにて確認が可能です。
訓練参加の申し込みは至って簡単。参加を希望するエリアの参加登録ページにアクセスし、必要情報を入力・送信するだけで完了します。
出所:The Great Japan ShakeOut「世田谷区いっせい防災訓練(シェイクアウト訓練)参加者募集」
電話やファックスの申し込み・問い合わせにも対応しているので、一報入れるだけで参加できる手軽さが魅力的です。
参考:
The Great Japan ShakeOut「参加と準備の手引き」
「Drop」「Cover」「Hold on」安全確保のための3つのシンプルな動作
「シェイクアウト」で実際に行われる安全確保の動作は極めてシンプルです。予め決められた時刻になると、運営者の指示もしくは館内の放送などによって地震の発生が通知されます。参加者はそれに合わせて自身の身を確保するための3つの動作を行います。
安全確保のための3つのシンプルな動作 | |
1.Drop(姿勢を低く) | その場で姿勢を低くして、飛来物の衝突を避けます |
2.Cover(頭と首を守る) | 落下物から身を守るため、机やカバンで頭を保護 |
3.Hold on(動かない) | 姿勢を低くして災害が収まるまで身を隠します |
以上の3ステップとなります。「シェイクアウト」で行われる安全確保のための動作自体は、一度聞けば誰にでもすぐに実践できる内容に設定されています。
事前学習から実施後のSNSで参加者の自主性を引き出す
一方で、この動作の内容だけを聞くと、「なぜこれだけの動作で世界中に広まっているのか?」「これまでの防災訓練と何も変わりないのではないか?」といった疑問を持たれる方もいるかも知れません。
「シェイクアウト」では当日を迎えるまでの事前学習、当日行われた内容のフィードバック、実施後には反省や感想をSNS上で発信するというところまで、一連の流れを合わせて一つのセットとしている点が特徴です。
SNSで反省や感想を発信する際には、「シェイクアウト」訓練を通じて気付いたこと・学んだことを投稿に盛り込むことを忘れてはなりません。より濃い内容のアウトプットすることで、体験が自身の知見として定着しやすくなるからです。
さらに、こうしたSNSの発信が他者の目に留まれば、連鎖的に防災意識が広がるきっかけになり、より多くの人が「シェイクアウト」訓練へ関心を持つ好循環を生みます。
実施場所を選ばないカジュアルさも受け入れられる要因
従来の防災訓練の場合、特に会場を貸しきる形式で行われる訓練では、参加者の数に制限が生じる上、悪天候によって中止になった場合のリスクは小さくありません。
さらに「シェイクアウト」は従来の一般的な防災訓練とは異なり、各地で同時多発的に実施されるため、基本的に参加者の人数に制限がありません。そのため、同日に膨大な数の参加者が一斉に「シェイクアウト」を実施することで、より大きな社会的なムーブメントとして、参加者以外の人たちに向けても防災に対する意識を促す役割を果たします。
「シェイクアウト」の動作だけでなく日頃の意識も重要
「The Great Japan ShakeOut」のサイトで公表されているシェイクアウト直前学習資料では、「シェイクアウト」の基本動作を覚えるだけでなく、日頃の防災意識を高める必要性についても説いています。
資料内で言及しているのは、以下のような「もの」の固定についてです。
日頃から意識すべき防災意識の一例 | |
「うごく」ものの固定 | テーブル・ベッドは耐震マットを敷く |
「とぶ」ものの固定 | 引き戸・引き出しにラッチを取り付ける |
「たおれる」ものの固定 | タンス・冷蔵庫にL字金具を取り付ける |
「おちる」ものの固定 | 天井照明はヒートンとチェーンで固定 |
「われる」ものの固定 | ガラス・食器棚は飛散防止フィルムを貼る |
このように、自宅・会社内の各場所に防災意識を向けることで、災害時の被害は極めて小さく抑えられます。「シェイクアウト」の動作で身を守ることには限界があるため、日頃から上記のような防災のための取り組みを行うべきでしょう。
参考:
The Great Japan ShakeOut「シェイクアウト直前学習資料」
「シェイクアウト」国内での取り組み事例
2012年に京都大防災研究所教授である林春男氏らの呼び掛けによって「日本シェイクアウト提唱会議(効果的な防災訓練と防災啓発提唱会議)」が発足して以来、全国各地で「シェイクアウト」が実施されてきました。ここではその中の一例をご紹介します。
東京都杉並区
東京都の杉並区では、東日本大震災での教訓を忘れないために、毎年3月11日に「シェイクアウト」が行われています。事前に杉並区の公式twitterなどを通して参加が呼びかけられ、杉並区の公式ホームページ上で参加申し込みを行う他、訓練方法や注意点などのパンフレットを参照できます。
昨年、2015年3月11日に実施された回では、twitterでのシェイクアウト実施の呼びかけに対し多くの杉並区民・企業が呼応し、杉並区役所はもちろん、区内の小中学校、保育園の他、企業や飲食店など合わせて44,000人の参加者が、同じ時間、それぞれの場所で「シェイクアウト」を体験しました。
訓練の模様はSNSなどで拡散された他、 杉並区のyoutubeチャンネルにもアップロードされています。
北海道シェイクアウト
北海道でも、主に道内在住の個人・団体を対象に2012年から毎年9月1日の「防災の日」に合わせて「北海道シェイクアウト」が行われています。「北海道シェイクアウト2015」では、参加者の数が12万人を超えました。
実施後に北海道が行ったアンケート では、「頻繁に地震が起きる地域ではなく、生徒も教師も日頃考えることが少ない実態があるが、防災意識を高めるきっかけになった(小中学校)」、「国がなんとかしてくれるだろう、という他力本願的な意識がまだまだあると思う(企業)」、「北海道では石油ストーブを使う厳冬期にも行う必要がある(企業)」などの意見が集まるなど、多くの参加者の防災リテラシーの向上に貢献しています。
また、「シェイクアウト」自体に要する時間は大変短いということもあり、自治体によっては、消火訓練や、津波避難訓練など、その他の種類の防災訓練と併せて訓練が実施されるというケースもあります。
・総合防災訓練の一環として:埼玉県飯能市
・情報伝達確認訓練+シェイクアウト:千葉県千葉市
・帰宅困難者訓練+シェイクアウト:東京都千代田区
・津波避難訓練+シェイクアウト:兵庫県西宮市、神奈川県茅ヶ崎市
「シェイクアウト」が日本の防災訓練を変える?
日本の防災訓練をモデルとした最先端の防災訓練「シェイクアウト」が世界中の人たちに支持されている理由をお伝えしてきました。今後も年々参加者が増えていくことが予想され、日本国内でも、「防災訓練といえばシェイクアウト」と言われる日が近いかも知れません。