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避難所での「性暴力」を防ぐ。災害時に起きた“人”のトラブルと対策

大地震が発生したとき、避難所に辿り着ければ一安心だと思っていませんか?

確かに、大災害による被害から生き延びることができた安心感や、被災者同士の仲間意識から最初は問題なく過ごせるかもしれません。しかし、高いストレスに晒され続ける避難生活。そうした環境で不慣れな集団生活を送っていると、被災者同士のトラブルが起こることは避けられません。災害による被害の次に注意を払うべきは、“人”による被害なのです。では、実際に被災地ではどんなトラブルが起きるのでしょうか。

今回は、実際の災害時に避難所で起きたトラブル事例と、個人で最低限できる対策をまとめました。これは家族の安全を守るためにも知っておきたい情報です。ぜひ、万が一の備えに役立ててください。

避難所での性暴力


東日本大震災のとき、女性が性的被害を受ける事件が頻発しました。例えば、福島県内のある避難所では、30〜60代の女性が夜間に襲われる被害が立て続けに3件起きたのだそうです。気配や物音で、性的被害が起こったことは周囲の多くの人が気付いていたのですが、黙認し、避難所公然の秘密のようになっていたのだといいます。

ある中年女性は襲われたときに、「やめて!」と声をあげたため、警察が来る事態となりました。しかし、女性は「この年で襲われたなんて恥ずかしい。家族に迷惑がかかる」と被害届を出さなかったのです。ここでもやはり、被害を公にすることを避ける行動が取られました。

この事件が明らかにするのは、避難所では性的被害にあったとしても、被害を公にすることを避けたり、気付いても黙認するという事実です。そうした状況を生んでいるのは、災害によって生まれた避難所のコミュニティで、被害者も加害者も顔見知りが多いという中で、何か被害があったとしても「輪を乱すべきではない」という考えが広まっていることに要因があるのではないでしょうか。そうした考えは、良く言えば「絆」ですが、一方で、個々人の考えを押し殺す「同調圧力」となり得るのです。

これを裏付ける出来事も起きています。宮城県のある避難所では、男性リーダーが「ここはみんな家族だから衝立などいらんですよね」という一言に誰も反対できず、女性は着替えを布団の中で行ったのだそうです。これはわかりやすい同調圧力の事例といえるでしょう。

参考:『東日本大震災:暮らしどうなる? 避難所、仮設での暴力防げ』|毎日新聞2012年3月1日朝刊,
『くしろ男女いきいき参画通信』37号

対策:女性・子どもと男性で避難所を分ける


避難所で起こる同調圧力に対して、個人として対策するのは不可能でしょう。しかし、同調圧力によって引き起こされる被害を防ぐ方法はあります。

避難所で性暴力が起こるのは、個人のスペースに衝立などの仕切りがなかったり、あったとしても僅かに仕切られている程度で、ほとんどプライベートがないような環境が要因としてあるはずです。そうした環境に置かれ、精神的に抑圧された状況の人たちが多くなると、平常時にも増して、性的被害が発生する可能性は増大することでしょう。

それを避ける一番の方法は、女性・子ども、男性で避難所を完全に分けることです。家族同士は日中に会えるため、家族の仲が崩れることもないはずです。被害が起こるのは夜なので、夜寝る場を分けることで得られるメリットは十分にあるでしょう。

被災地で発生する略奪行為


被災地では被災者による略奪行為が発生します。例えば、東日本大震災のとき、食品会社の倉庫に残っていた食料や飲料を勝手に持ち去る被災者が続出したといいます。また、コンビニのATMを道具でこじ開けて、現金を持ち去ったり、ガソリンスタンドでガソリンタンクに穴を開けて、ガソリンが盗られたといった明らかな略奪行為も発生したのです。

こうした行為で盗られるのは主に生活必需品であり、生きるためにやむを得ないことと考える人は多いかもしれません。しかし、これを放置していれば、被災地は無法地帯となってしまうことでしょう。

また、こうした略奪行為を働く人自身も、後ろめたさが全くないわけではないはず。例えば、食料を手に入れても、他人に見えないように調理する人が増えたという事例もあり、これは自分だけが食料を余分に持っていることを人に知られたくないという心理もあるでしょうし、それをどこで手に入れたのかを知られたくないという考えがあることが想像できます。

対策:自分の持ち物を管理する

被災者からの略奪を避けるために、個人でできるのは、自分の持ち物をしっかりと管理することです。当たり前のことですが、これが最も大切なことでしょう。例えば、避難所であれば、個人のスペースに生活必需品がある場合、誰もいなくなるのを避けることや、自宅にあるものが持ち出されないように予めできるだけ回収したり、処分するといった対策は取っておきたいですね。

また、もしあなたが避難所の運営に携わる場合、ルールを策定してみるのはいいかもしれません。例えば、食料を持ちだしたことが判明したらペナルティを与えるといったことです。

ペットによるトラブル


2016年4月に発生した熊本地震では、ペット連れの被災者による避難所での鳴き声や糞尿をめぐるトラブルが発生しています。例えば、避難所で愛犬が小便をして、他の被災者から「離れた場所へ行って欲しい」といわれ、居づらくなって避難所を出たという人がいたのだそうです。

また、犬に水を飲ませていると、「人に飲ませる水もないのに、犬に飲ませるんかといわれた」という人も。避難所でこうしたことが起こった場合、ペットを車中泊させるなどして対策することがありますが、熱中症になってしまう事例もあるのだそうです。

参考:『「人の水もないのに犬に飲ませるのか?」ペット同伴避難でトラブル相次ぐ 唯一のペット避難所は…』|産経ニュース

対策:ペットが快適に車中泊できる環境を整える

ペットを連れていけない避難所の場合、ペットは車の中に泊めざるを得ないこと多いようです。そうしたとき、個人でできる対策として考えられるのは、車の中でもペットが快適に過ごせるような環境を整えることです。特に注意が必要なのは夏でしょう。夏は常に窓を開けておき、水も忘れずに常備しておくといった対策を取りましょう。

また、熊本地震の際、「殺処分ゼロ」を掲げる熊本市では、ペットと避難できるような取り組みが行われています。例えば、竜之介動物病院では、被災地唯一のペット同行避難所として開放しました。これは先駆的な取り組みではありますが、これが広まっていけば、被災したときにペット同行可の避難所を探して避難するという選択肢を取ることができるようになるのではないでしょうか。

炊き出し支援の団体によるトラブル

大災害が起きたときに被災地に支援する団体は、多くの被災者にとってありがたいものです。特に炊き出しで料理を振る舞ってくれる支援ほど助かることはないでしょう。

しかし、この炊き出しボランティアの方々がトラブルを起こした事例もありました。東日本大震災のとき、岩手県の陸前高田市、米崎小学校の体育館で避難所運営に携わった、防災士の佐藤一男さんは次のようなトラブルに遭遇したといいます。

ある時、とある炊き出しの団体が夕飯を調理し振る舞いました。その料理は品も量も多く、とても満足のいくものだったといいます。しかし、後で確認したところ、ストックしていた食材がなくなっていました。その団体は避難所でストックしていた食材を、勝手に使って料理していたのです。

食材の少ない中、この思わぬ食材の浪費は、避難所の調理班の心を折る事態に。スタッフの一人は、思わず「二度と来ないでください」と叫んだのだそうです。この後、数日は具が少なかったり、味の薄い料理など質素な食事をすることとなりました。

参考:「東日本大震災、体育館避難所で起きたこと」佐藤一男/防災士|SYNODOS

対策:炊き出し団体に「食材はどこから調達するか」確認する

こうした事態を避けるためには、炊き出し団体に対して、ストックの食材を使わないよう伝える、事前に食材を持っているか確認する、といった食材の調達先の確認を行う必要があるでしょう。

とはいえ、「支援される」立場からこうした確認を行うのは、支援者の善意を疑っているかのように思えて躊躇われるということはあるかもしれません。そんなときは冷静に優先順位を考えてみてください。非常時の余計なトラブルを避け、家族を守ることが最も注意を向けるべきことのはず。不安定な状況のときにこそ、何が最も大切なことなのかを忘れずに振る舞うべきです。

被災者の「お話し相手」支援団体によるトラブル


佐藤さんが体験した、被災地支援に来ている団体によるトラブルは他にもあります。

避難所や仮設住宅には、被災者の話し相手をするという活動をする団体がしばしばやって来ます。精神的にダメージを受けている被災者にとって、ただ話を聞いてくれる人というのはありがたいものです。この団体でも、そうした人たちの話し相手として重宝されていたことが想像できます。

しかし、その団体では、被災者から聞いた話の内容を他の家族に話したり、活動報告書にまとめたりしていたのです。個人の名前は伏せられているとはいえ、個人的なトラブルといった情報を事細かに公開されていたわけです。話をしていた被災者は、他の人に話されるつもりで話しているわけではありません。ボランティアの方を信頼して話していたことでしょう。

佐藤さんがボランティアの方に、そうした行動の理由を聞いたところ、「助成金で活動しているので、具体的な活動報告実績が必要」と回答されたとのこと。必要性ゆえの行動ではありますが、結果として被災者の信頼を裏切る行為を働かれたのです。

参考:「東日本大震災、体育館避難所で起きたこと」佐藤一男/防災士|SYNODOS

対策:ボランティア団体に相談内容を「公言しない」と確約を取る

この事態も炊き出し団体のトラブルと同様で、「事前に確認を取る」ことで対策できることです。予め、「相談内容を公言しない」という約束を取り、書類に残しておくべきでしょう。そうした対策を取ることは、支援団体の善意を裏切るということにはなりません。むしろ、本当に善意で支援している団体であれば、好意的に聞き入れてくれるはずです。

避難所で起こる“人”のトラブル、家族を守るための対策を!

妻や子ども、足腰の悪い親といった家族がいる場合、避難所での生活は多くの不安が残ります。性暴力や略奪行為といった犯罪行為から、ペットをどうするかという問題、支援団体とのトラブルなど、避難所では様々なトラブルが起こる可能性があります。そうしたトラブルの事例と対策は、家族を守るためにも、被災する前に知っておくべきことです。

こうした避難所でのトラブルとその対策を知った上で、被災したときの行動計画作りに活かしましょう。

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