災害や不測の事態に備える!中小企業におけるBCPの必要性と策定のポイント

 Business continuity planの頭文字を取ったBCPは「事業継続計画」の略称で、次の意義があります。災害や事故、不祥事などが生じた場合に損害発生を最小限に留める経営手法、災害や大事故時の人命救助や安否確認、復旧手順など非常時の対応マニュアル、平時から非常時に備えるための保守・運営業務全般です。この記事では中小企業のBCP策定の意義、運用方針、重要なポイントについて取り上げます。

中小企業がBCPを策定する意義

中小企業のBCP策定
 中小企業庁(経済産業省の外局)による2014年度中小企業白書では、企業全体に占める中小企業の割合は99.7%で、従業員も69.7%と約7割を占めています。中小企業は日本経済を支えている重要な存在であり、大企業がサプライチェーンを維持する上での生命線ともなっています。そのため、企業間取引の前提条件としてBCP策定を要請する企業が近年増えています。

 一方でみずほ総合研究所が行った中小企業のリスクマネジメントへの取組に関する調査では、BCPを策定している中小企業は全体の15.5%に留まっています。認知度については「よく知っており、必要である」と「聞いたことがあり、必要である」が合わせて約6割と過半数を占めますが、4割弱が「聞いたことがあるが必要はない」あるいは「聞いたことがなく知らない」と回答しています。中小企業のBCP認知度はまだ十分に浸透しているとは言えない状態です。

 BCPの必要性を感じている中小企業が約6割を占めていても、実際に策定した企業は15.5%と低いわけですが、特に従業員数が少ない零細企業ほど策定した企業の割合が低くなります。以上のことからBCP策定の必要性は理解していても、日々の事業活動を優先し、BCP策定にまで手が回っていない企業が少なくないことが考えられます。

 しかし、BCPは天災や事故などで大規模災害が発生したときに、企業の被害を最小限に抑え、企業活動を継続するために指針となる計画です。被災して企業活動の停止状態が続くと、最悪の場合は倒産・廃業も想定されます。企業規模にかかわらず、すべての企業にとってBCPは必要なものです。特に中小企業の場合、人材が限られているため、被災してしまった場合その損害に対してもちこたえられる体力が十分ではありません。それだけに、いざというときのためにBCPを策定することが重要になるのです。

 BCPを策定する具体的なメリットは被害の軽減のほか、復旧に要する時間の短縮、企業経営の安定が挙げられます。事前に起こり得るさまざまな事態を想定して対策を講じておけば、被害を最小限に食い止められます。災害の発生時に従業員各自が行うべきことをリストアップしておけば、復旧に要する時間を短縮できます。また、災害や緊急時の対応力を高めることで、企業の社会的信用度が増し、企業経営の安定化が図れます。

 BCPに基づいて災害時の通信方法の導入や機械などの転倒・落下防止措置を行う、非常用発電機や非常用燃料の準備をする、遠隔地のサーバーやクラウドサービスを利用するなど、設備投資のための資金が必要になることがあります。そのため、規模が小さい企業では資金面のハードルが高くなります。これに対し、政策金融機関である日本政策金融公庫ではBCPに必要な資金融資制度を用意しており、中小企業庁ではBCP策定に基づく設備投資をした中小企業を認定し、税制優遇措置を行う制度を創設するとしています。

参考:
日刊工業新聞 中小企業、BCP策定で融資・税制優遇 企業庁が法案提出
『2 BCPに係る取組の現状第』中小企業白書
中小企業庁 みずほ総合研究所調べ「中小企業のリスクマネジメントへの取組に関する調査」
そなえる.com 災害時のBCP(事業継続計画)を考える 「2014年度版中小企業白書」(経済産業省中小企業庁)
防災テック BCPとは何かゴリラでも分かるように解説して見た!
弥生株式会社 弥報Online 災害が起きても、うちの会社は事業を継続できる?中小企業にこそ必要なBCP対策
デジタル毎日 防災設備投資の中小企業に税優遇 災害後の事業継続狙い
日本政策金融公庫 社会環境対応施設設備資金

中小企業庁による策定運用指針

中小企業のBCP策定運用指針
 BCPを策定する方法は自社で作成するか、国際規格ISO23001を取得するという2つの方法があります。現在、策定されているBCPの大半は独自作成によるものですが、行政や各種団体が用意したテンプレートを使用して作成することも可能です。中小企業向けには中小企業庁が作成したBCP策定運用指針を利用できます。中小企業の特性や実状に基づいてBCPを策定し、継続的に運用する具体的な方法がわかるように作成されています。

 中小企業がBCP策定にかける時間と労力に応じて入門コース、基本コース、中級コース、上級コースの4通りがあります。入門コースはワードファイルを開き、順番に帳票等を入力し、まとめることで完成します。所要時間は、経営者1人で1~2時間が目安です。基本コース、中級コースはフロー図の項目ごとに順番に帳票等を入力し、まとめることで完成します。所要時間は、基本コースは経営者1人で1~2日程度、中級コースは経営者1人で延べ3~5日程度または経営者とサブリーダーを含め数人で2~3日程度が目安です。上級コースは中級コースの内容をより充実させるためのコースで、所要時間は、経営者とサブリーダーを含め数人で延べ1週間程度が目安です。

 入門コースはBCP策定・運用で最低限必要な要素を取り上げています。策定手順は基本方針の立案、重要商品の検討、被害状況の確認、緊急時の体制の整備、事前対策の実施の5つです。基本コースは経営者向けのコースです。経営者が考える対策をBCPのプロセスに従い、目標復旧時間や緊急連絡先など具体的情報を指定様式書類に記入し、BCP策定・運用を行います。

 中級コースはBCPのプロセスを学びながら、自社のBCP策定・運用を行う経営者向けのコースです。基本コースと同様に指定様式書類に記入し、体系的なBCP策定・運用を行います。上級コースはすでにBCP策定・運用を行っている企業が、複数の企業と連携して取り組む、またはより深い分析を行ってステップアップするためのコースです。

 例として、入門コースの策定手順を具体的にご紹介します。「基本方針の立案」ではBCP策定の目的を明らかにします。従業員や顧客の安全、企業活動の維持、サプライチェーンの責任遂行、雇用の維持など自社の方針を確認します。「重要商品の検討」では災害発生時に優先して製造・販売する必要がある重要商品・サービスを確認します。「被害状況の確認」では災害により企業が被る影響を想定します。地震ならライフラインや情報通信、道路の利用可否と、従業員や商品・設備など自社の経営資源への影響を検討します。

 「事前対策の実施」では自社の経営資源を確保する対策を検討します。現在の状況を把握し、これから実施すべき対策を挙げていきます。たとえば従業員の安否確認ルールの整備、代替要員の確保、重要なデータの適切な保管、設備の固定、緊急時に必要な資金の把握などがあります。「緊急時の体制の整備」では責任者を定め、災害発生時に責任者が被災する場合も想定し、代理の責任者も決める必要があります。

参考:
中小企業庁 中小企業BCP策定運用指針(コース案内、様式類のダウンロードなど)
経済産業省中小企業庁 中小企業BCP策定運用指針(第2版)―どんな緊急事態に遭っても企業が生き抜くための準備―
弥生株式会社 弥報Online 災害が起きても、うちの会社は事業を継続できる?中小企業にこそ必要なBCP対策
備える BCPとは―事業継続計画の基本と7つのポイント

BCP策定のポイント

中小企業のBCP策定ポイント
 BCPと防災対策の違いは、防災対策は自然災害のみが対象の自社対策ですが、BCPは想定外のリスクも対象とし、自社だけでなく取引先やライフラインなど社外も対象になります。また、不測の事態が発生した場合を想定し、予備機材の準備やレンタル計画など再調達を重視した対策を講じる点も異なります。

 BCP策定のステップは10段階に分けることができます。ステップ1で自社が遭遇する大規模災害を確認し、ステップ2で自社の事業存続に関わる重要業務を挙げます。ステップ3で中核事業を復旧させる目標時間を設定し、ステップ4で復旧に時間を要する資源を特定します。ステップ5で資金調達、ステップ6で対策と代替手段を考えます。ステップ7で従業員や取引先と非常時の共通認識を共有し、ステップ8で従業員や顧客の安否確認、取引先との連絡手段を考えます。ステップ9で今後、実施することを整理して計画を進め、ステップ10で一年間の活動を振り返り、BCPを見直します。

 一般的な企業のBCP策定の要素で最重要のポイントは、非常時対応マニュアルです。さらにいざというときにはすぐマニュアルを使用できるように、事前分析と保守運用の資料を常時更新していくことが必要です。非常時対応マニュアルは初動対応計画のことで、被害を最小限に食い止める防災対策と仮復旧のための準備作業があります。防災対策では災害発生直後の応急処置、救助活動、消火活動など業務時間内に災害が発生した場合の対応策を検討します。仮復旧のための準備では安否確認、緊急連絡、被害状況の確認、情報収集、対策本部の設置などの手順をまとめます。

 非常時対応が落ち着いたら、仮復旧計画に移ります。代替設備や非常用電源の確保、バックアップシステム体制、臨時的な仕入れ先の切り替え、他の担当者への引き継ぎなど業務を仮復旧させるために必要な設備、材料、手順書を事業計画として作成します。最後の本復旧計画は仮復旧で暫定的な対応をしていた各種業務や、代替設備などを通常の状態に戻していく作業で、緊急性が問われるものではありません。購入した設備の納品書や導入したサービスの契約書などをあとから参照できるようにしておきます。

 BCPを非常時に現実的に活用するには、日々のメンテナンスがポイントです。緊急連絡先や安否確認リストの更新、備蓄用品の買い替え、避難訓練や事前演習などを普段から継続して行う必要があります。BCPは実際に起こり得るさまざまな非常事態を想定し、常に点検と改善を継続することが重要です。

参考:
備えるjp BCPとは―事業継続計画の基本と7つのポイント
そなえる.com BCP策定のためのステップ

まとめ

 多くの中小企業は取引先とのつながりやネットワークの中で事業を行っています。中小企業でBCPを策定することは、緊急事態に備えるとともに、非常時こそ互いのつながりを深め、ネットワークを維持し、事業を続けることで社会に元気と希望を与えられます。中小企業がBCPを策定することは、より良い社会づくりに貢献することにつながるといえるでしょう。

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