津波による被害は、日本の歴史上、幾度となく人々の命を奪ってきました。そんななかで生まれた「津波てんでんこ」という言葉は、三陸地方に伝わる重要な防災の知恵です。人々の命を救うための深い意味が込められています。
この記事では、「津波てんでんこ」に込められた4つの意味と由来についてわかりやすく解説します。日本における津波のリスクや、津波発生時に企業が取るべき行動も紹介するため、ぜひ参考にしてください。
編集者:遠藤香大(えんどう こうだい)
トヨクモ株式会社 マーケティング本部に所属。2024年、トヨクモ株式会社に入社。『kintone連携サービス』のサポート業務を経て、現在はトヨクモが運営するメディア『みんなのBCP』運営メンバーとして編集・校正業務に携わる。海外での資源開発による災害・健康リスクや、企業のレピュテーションリスクに関する研究経験がある。本メディアでは労働安全衛生法の記事を中心に、BCPに関するさまざまな分野を担当。
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目次
「津波てんでんこ」の意味
「津波てんでんこ」とは、津波発生時に「てんでんばらばらになって、すぐに逃げよ」という意味の防災標語です。一見すると自己中心的に聞こえて、批判の対象となることもあります。しかし、これは長年の津波被害の経験から生まれた重要な教訓です。
京都大学防災研究所の矢守克也教授は、この言葉には4つの深い意味が込められていると指摘しています。それは、以下の4つです。
- 自助原則の強調
- 他者避難の促進
- 相互信頼の事前醸成
- 生存者の自責感の低減
(参考:矢守克也「『津波てんでんこ』の4つの意味」自然災害科学J.JSNDS31-135-46(2012), pp.35-43)
1つ目の意味:自助原則の強調
「自助原則の強調」とは、津波から命を守るためには、家族や友人のことも気にせず、まずは自分の命を守るために逃げることを意味します。津波の破壊力と速さは尋常なものではなく、助けようとして近づけば、共倒れになるリスクが高くなります。
そのため、自分の命は自分で守ることを最優先にするのが鉄則です。これは1人でも多くの人が助かるために必要な考えなのです。
2つ目の意味:他者避難の促進
「他者避難の促進」とは、避難を開始した人の行動が、周囲の人々の避難行動のきっかけとなることを意味します。1人が逃げ始めることにより、その姿を見た人々も避難を始め、連鎖的に避難の輪が広がっていきます。
つまり、てんでんこは、単に自分だけが助かるためのものではなく、周囲の人々の命も救う可能性を持つ行動と言えます。
3つ目の意味:相互信頼の事前醸成
「相互信頼の事前醸成」とは、家族や地域の人々が事前に「てんでんこ」で避難することを約束し合い、互いを信頼することです。
たとえば、親は学校にいる子どもが確実に避難することを信じ、子どもも親が自分を探しに来ないことを信じます。このような信頼関係があってこそ、迷いなく避難できます。もし事前に約束がなければ、親は子どもの安否を確認しようと探しに行き、その結果、津波の犠牲になってしまう可能性があります。
そのため、日頃から家族で避難方法を話し合い、お互いを信頼し合う関係を築いておくことが大切なのです。
4つ目の意味:生存者の自責感の低減
「生存者の自責感の低減」とは、大切な人を助けられなかった生存者の罪悪感を和らげる効果があるということです。てんでんこの約束があれば、「あの時、助けに行かなかった」という後悔や自責の念から、生存者はある程度解放されるでしょう。
そのため、被災後を生きる人々の心理的な支えとなる重要な意味を持っていると言えます。
津波てんでんこの由来
津波てんでんこは、1990年11月に岩手県下閉伊郡田老町で開催された第1回「全国沿岸市町村津波サミット」で生まれた言葉です。この言葉の元となったのは「命てんでんこ」で、これは三陸地方に古くから伝わる言葉でした。
てんでんことは、てんでんばらばらにという意味で、津波から「それぞれが別々に逃げる」という教訓が込められています。津波は発生してから極めて短時間で陸地に到達するため、避難の判断を一瞬でもためらうことが命取りになります。
そのため、津波てんでんこは、津波発生時に即座に避難するようにと、言い伝えられてきた教えなのです。
津波てんでんこの教訓が人命を救った「釜石の奇跡」
2011年の東日本大震災で、岩手県釜石市の鵜住居小学校と釜石東中学校の児童・生徒約570人が、迫りくる津波から全員生還を果たしました。これは「釜石の奇跡」と呼ばれ、防災教育の成功例として全国的に知られています。
釜石市では東日本大震災で約1,300人もの死者・行方不明者が出て、大槌湾に面した鵜住居地区は、津波で壊滅状態となりました。しかし、当日登校していた児童・生徒は全員無事だったのです。
地震直後、教師の「点呼は取らなくていいから、走れ!」という指示のもと、中学生たちは即座に避難を開始しました。「津波くるぞ、早く逃げろ」と叫びながら逃げる中学生の姿を見た小学生も、中学生とともに高台を目指しました。避難の途中では、中学生が小学生の手を引き、共に命をつなぎました。
この奇跡を可能にしたのは、日頃からの防災教育です。とくに津波てんでんこの精神を学び、定期的な避難訓練を重ねていたことが、緊急時の適切な判断と行動につながりました。学校は「助けられる人から助ける人へ」を目標に掲げ、地域全体で防災意識を高めていました。
日本における津波のリスク
日本は複数のプレートが重なる海溝やトラフが分布しており、海底地震による津波が発生しやすくなっています。特に三陸沿岸は、リアス式海岸という地形により津波が増幅されやすく、過去に何度も大きな被害を受けてきました。
これまで多くの被害をもたらしてきた津波の事例には、以下のようなものがあります。
津波の発生日 | 地震の名称 | マグニチュード | 津波の大きさ | 被害 |
---|---|---|---|---|
1993.7.12 | 北海道南西沖地震 | 7.8 | 10m超 | 死者202名、行方不明者28名、負傷者323名 |
2003.9.26 | 十勝沖地震 | 8.0 | 最大約4m | 死者1名、行方不明者1名、負傷者849名 |
2011.3.11 | 東北地方太平洋沖地震 | 9.0 | 最大約40m | 死者18,958名、行方不明者2,655名、負傷者6,219名 |
(参考:国土交通省)
津波発生時に企業が取るべき行動
津波が発生した際、企業は従業員の命を守るために適切に行動することが求められます。具体的には、以下の3つのステップに沿って行動します。
- 安全な場所へ避難する
- 従業員の安否を確認する
- 今後の方針について検討する
ステップ1.安全な場所へ避難する
津波の発生が予想される場合や、震度4程度以上の地震が発生した場合は、すぐに海岸から離れた高台などの安全な場所に避難します。
津波は何度も押し寄せる特性があるため、第一波が収まっても安全が確認されるまでは避難を継続することが重要です。事前にハザードマップで避難場所を確認し、避難経路を従業員に周知しておきましょう。
ステップ2.従業員の安否を確認する
安全な場所に避難したら、従業員の安否を確認します。安否確認の方法には電話やメールなどさまざまな方法がありますが、緊急時に短時間で安否確認を完了させるために安否確認システムを活用することがおすすめです。
安否確認システムは、災害が発生した際、従業員に自動で安否確認メッセージを通知するシステムです。1人ずつ連絡を取る必要がなく、担当者の負担を大幅に軽減することが可能です。
ステップ3.今後の方針について検討する
事業の早期復旧には、緊急時における迅速な対応が鍵となります。従業員の安否確認を行ったあとは、速やかに被害状況を把握し、事業継続に向けた方針の検討に着手しましょう。
具体的な確認事項としては、建物・設備の損壊状況、事業再開までの見通し、必要な修繕内容や代替手段の検討などが挙げられます。
また、出社可能な従業員数を把握し、取引先への対応方針も決定しなければなりません。これらの状況確認と検討結果を総合的に勘案し、今後の方針を策定していきます。
津波の被害を抑えるために企業ができること
津波の被害を抑えるために企業ができることは、主に以下の5つです。
- 津波の情報を集めておく
- 従業員の緊急連絡先を把握しておく
- BCPを策定しておく
- 防災グッズを備えておく
- 定期的に防災訓練を行う
前述したように、津波が発生した際には、安全を確保しながら迅速に避難する必要があります。しかし、災害発生直後の混乱している状況では、どこにどのように移動すればよいのかわからなくなることも多いです。そのため、平時から防災訓練を実施し、緊急時に落ち着いて行動できるように準備しておくことが重要です。
以下の記事では、企業における防災対策についてより詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
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安否確認のメッセージは、専用アプリやメールに加えて、LINEでも通知することが可能です。従業員が安否確認メッセージに気づかないという事態を防止できて、迅速に安否確認が完了します。
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津波てんでんこの教訓は従業員に共有しておこう
「津波てんでんこ」は、長年の津波被害の経験から生まれた教訓です。自分自身の命を最優先する「自助原則」、避難行動の連鎖を生む「他者避難の促進」、事前の信頼関係構築の重要性を説く「相互信頼の事前醸成」、そして生存者の心理的負担を軽減する「生存者の自責感の低減」という意味が込められています。
津波や地震は、就業時間外に発生する可能性もあります。そのような場合に従業員が迅速に避難できるように、津波てんでんこの教訓を共有しておきましょう。
「釜石の奇跡」の事例が示すように、日頃からの備えが、いざというときの迅速な避難行動につながります。そのため、企業は定期的に防災訓練を実施し、津波や地震が発生した際にも迅速に行動できるようにしておくことが重要です。
編集者:遠藤香大(えんどう こうだい)
トヨクモ株式会社 マーケティング本部に所属。2024年、トヨクモ株式会社に入社。『kintone連携サービス』のサポート業務を経て、現在はトヨクモが運営するメディア『みんなのBCP』運営メンバーとして編集・校正業務に携わる。海外での資源開発による災害・健康リスクや、企業のレピュテーションリスクに関する研究経験がある。本メディアでは労働安全衛生法の記事を中心に、BCPに関するさまざまな分野を担当。