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総務のやりがいのある仕事の1つ。「就業規則」の制定とは

就業規則は、会社を運営していく上での「法律」にあたり、従業員の労働条件や職場規律などさまざまなルールが定められています。
具体的には、就業規則は会社と社員との関係を規律する重要な規則として、労務面での最終的な決断にも欠かせない役割を果たし、総務担当者は就業規則の変更の必要性を検討したりする場面も多々あります。
自社の就業規則と向き合う場面が人一倍多い総務の仕事。

ここでは、知っているようで実は理解できていないことも多い就業規則の趣旨について、解説します。そのうえで、作成手順と内容、その周知義務についても紹介をしていきます。

そもそも就業規則とは?

就業規則とは、従業員の賃金や労働時間など労働条件に関すること、会社の規律、その他従業員に適用される各種の定めを明文化したもので、「職場のルールブック」に相当します。
そもそも会社は、考え方も環境も違う人間が大勢集まる場ですから、ルールもなく運営すると、従業員それぞれが違う方向を向いて足並みが揃わなかったり、思いがけないトラブルが発生する可能性があります。

そこで「うちの会社のルールはこうなので守るように。会社も皆さんのためにこういうことを徹底します。」という考えを文書として会社全体に周知することによって、スムーズな労務管理を実現したり、社員のモチベーションをアップしたりするために就業規則は存在します。

なお、社員の労働条件は雇用契約で定められるのが基本です。しかし労働契約法7条により、「合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合」には、異なる内容の合意をしてない限り、(雇用契約ではなく)就業規則の定める労働条件によるとしています。したがって、例えば雇用者が減給などの懲戒をしようとしても、規定が就業規則になければできません。また、雇用者は合理的なものでないかぎり、就業規則の変更により労働条件を労働者の不利益に変更することはできません(労働契約法8~10条)。

押さえておきたい就業規則作成のポイント

就業規則について今一度定義を確認した上で、実際の作成の流れを見ていきましょう。

<就業規則作成の流れ>

1.現状の把握・分析
就業規則作成の事前準備段階です。会社の方針やポリシー、従業員の構成、残業量やリスク等を明確にして現状分析を行います。これを省略し、雛型や他社のものを無造作に流用してしまうと、実態とそぐわず逆にトラブルをひきおこす就業規則になりかねませんので注意しましょう。
2.方向性の決定、資料・情報収集
就業規則を定めるにあたり、根幹となる方向性を決定します。またそれにあわせた資料や情報を集めます。
3.原案作成
体裁を整えた条文形式にします。この段階で就業規則の形になります。
4.意見の聴取
原案を従業員代表者へ提示し、意見を聴取します。必ずしも同意までとる必要はありませんが、今後のトラブルを避けるため、ここで出た意見は両者で協議し、納得のできるものを作成することが理想です。
5.労働基準監督署への届け出
就業規則に、従業員代表の意見書(署名・捺印のあるもの)を添えて、事業場管轄の労働基準監督署へ届け出ます。1部は監督署保管となりますので、必ず2部提出し、1部を返却してもらいます。
6.従業員への周知・徹底
最後に事業場のすべての労働者へ就業規則を開示して周知します。
周知方法は、直接配布、掲示、社内イントラへの掲載等、従業員がいつでも見られる状況であればかまいません。

<作成に際しての留意点>

常時10人以上の労働者を使用する場合、使用者は、就業規則を、労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は労働者の過半数を代表する者)の意見を聴いて作成しなければなりません。協議することや同意までは不要で、特に意見なしでもかまいませんが、聴取義務に反すると処罰(罰金)されます。

●「賃金規定」「退職金規程」「育児介護休業規定」なども、労基法にいう就業規則の一部にあたることに注意が必要です。「人事規定」といった文書も、就業規則に当たります。要は、名目の如何にかかわらず、規定の内容が労基法にいう就業規則に当たれば、就業規則の扱いを受けます。

●また「10人」のカウントの仕方ですが、繁忙期など一時的に10人以上となる場合は該当しません。さらに派遣労働者は含めません(派遣元の労働者として扱われます)。雇用形態が異なっても「常態として」10人以上が勤務していることが条件です。

●就業規則は、法令や労働協約に反してはいけませんし、個別の労働契約の労働条件が就業規則のそれに達しない場合は無効となります。(労基法92、93条)。

最低限就業規則にいれなければならないこと

就業規則の記載内容は、総則、業務命令権・人事権、労働条件、服務規律・懲戒などです。最低限就業規則に記載しなければならないことは2種類あります
1つは絶対的必要記載事項といわれるもので、必ず記載しなければならない事柄です。2つめはいわゆる相対的必要記載事項といわれるもので、各職場内でルールを定める場合は記載しなければならない事項です。つまり、決めた以上は、記載し届けなければならない事項です。

絶対的必要記載事項の部分
1、就業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交代制を採用する場合の就業時転換に関する事項、つまり労働時間関係の事項
2、賃金の決定、計算・支払の方法、賃金の締切り・支払の時期、昇給、つまり賃金関係の事項、
3、退職に関する事項(解雇事由を含みます)
これら3項目は、必ず記載しなければならない事項です。
もし絶対的必要記載事項に不備や欠けているところがあっても、その就業規則は労働者と使用者の権利・義務を規定する効力を持ちます。しかし、労働基準法違反であることは免れないとされています。
相対的記載事項の部分
1、退職手当関係
2、臨時の賃金・最低賃金額関係
3、費用負担関係(食費・作業用品等)
4、安全衛生関係
5、職業訓練関係
6、災害補償・業務外の傷病扶助関係
7、表彰・制裁関係
8、その他事業場の全労働者に適用されるルールです。

以上は、必要的な記載事項ですが、そのほかにいわゆる任意的記載事項といわれるそれ以外の事項もあります。例えば事業場の精神、服務規律などです。

作成にあたっては、平成28年3月厚労省労働基準局監督課作成のモデル就業規則の目次などが参考として公開されています。またインターネット上でも無料の雛形が多く紹介されています。
たしかに就業規則には、記載しておくべきポイントが多く、一から書き起こすとなると時間も労力もかかってしまいます。
しかし雛形は一般的に業種や企業規模を考慮していないため、仮にそのまま中小企業が使用すると、実情に合わないことがあります。また書籍などに載っているモデル就業規則の場合、その書籍の発行年月日によっては最新の労働基準法等、諸法令に対応していない可能性があります。特に、最近問題になっている、精神疾患社員の増加、セクハラ・パワハラ、問題社員対策、労働トラブルなどにも対応していないおそれがあります。
会社の実情や方向性に合わせた、その会社独自の「オンリー・ワン」の規則にするのが、就業規則の本来理想の姿です。いたずらにモデルの字面をなぞっただけの就業規則とならないよう心がけましょう。

実は知っている人の少ない就業規則の届出と社内周知

就業規則は労働者の意見書面を添付して、労働基準監督署に「遅滞なく」届け出なければなりません。届出は、各事業所ごとに所轄労基署に行います。ただ、本社も含め同じ就業規則であれば、本社所在地の労基署に届ければ足ります。届出を怠ると処罰(罰金)されます。もっとも、届出がなくても就業規則の効力がなくなるわけではありません。具体的に「何日以内」という規定はありませんが、施行してから常識的な範囲の期間内に届け出る必要があります。

そして、作成した就業規則は労働者に周知させなければなりません。周知させていない場合は、就業規則は効力がありません。その方法として、作業場の見やすい場所に掲示・備え付ける、書面を交付するなどの方法が定められています(労基法106条1項)。社内のホームページも利用できます。要旨だけの告知では足りません。周知は就業規則に命を与える重要な手続きです。

労働関係の中核を規定している就業規則をうまく活用すると、経営層の方針や方向性が社員に伝わり、一体感の醸成につながりやすくなります。また、労働条件が明示されている、育児や介護、病気の時に安心して休める制度がある、給与や退職金について明確に規定されている、など、会社のルールがきちんと定まっており、確認したいときにいつでも確認できる状況にあることは、労働者の会社に対する信用度を増すことにもつながり、定着率の向上にも役立ちます。総務は、労働者と経営層の間に立って、就業規則の作成や変更、運用に携わる重要な役割を担います。飾りではなく、組織の中で「生きた」就業規則になるかどうかは総務担当者の腕次第といってもよいでしょう。

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