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身近な働き方になる日も間近?「在宅勤務」のメリット・デメリット

ここ数年、在宅勤務やテレワーク(*)の導入を発表する大企業が相次いでいます。先鞭(せんべん)をつけたのは、一時期労働環境の過酷さで知られたIT業界でしたが、東日本大震災の教訓もあって、サービス・食品・自動車業界など多様な業界に広がりを見せ、積極的に取り組む自治体も多く現れています。

また平成25年6月には、「世界最先端IT国家創造宣言」が閣議決定され、「テレワーク導入企業数3倍(2012年度比)」「雇用型在宅型テレワーカー数10%以上」等の政府目標も掲げられるなど、国を挙げて在宅型の勤務が推し進められています。

しかし一方で、アメリカのヤフーのように、方針転換し在宅勤務の全面禁止を打ち出した企業も。ここでは在宅勤務のメリット・デメリットを整理したうえで、在宅勤務を導入した場合のコミュニケーション形成などで便利なツールをご紹介し、具体的に事例を挙げます。
*テレワーク:ITを活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方

在宅勤務のメリット・デメリットについて

早速、在宅勤務のメリット・デメリットとしてはどういったものがあるのか見ていきましょう。

在宅勤務のメリット

在宅勤務 メリットデメリット2
●生産性の向上
計画的かつ集中的な作業による業務の効率性向上が期待できます。日本テレワーク協会が実施した平成17年度在宅勤務実証実験によれば、在宅勤務時の方が圧倒的に集中できる時間が長いことが実証されています。

●BCP(事業継続計画)対策
地震や新型インフルエンザなどの予期せぬ災害が発生した時でも事業を継続していけるよう、対策を講じることが企業に求められています。在宅勤務のようにオフィス以外の場所での仕事を慣習化しておくことは、災害発生時のすばやい事業再開あるいは継続に役立ちます。東日本大震災が、在宅勤務導入に弾みをつけるきっかけとなりました。

●有能・多様な人材確保
育児期・介護期にさしかかった社員に働きやすい環境を提供することで、ワーク・ライフ・バランスの実現と共に、有能なスタッフの離職を防止することが可能となります。また通勤が困難な障がい者、遠方居住者など、多様で優秀な人材の雇用創出が期待できます。

●コスト削減(環境負荷軽減)
オフィススペース、ペーパーコスト、通勤・交通コストの削減が期待できます。平成22年度総務省実施調査によれば、在宅勤務実験を行った結果、電力消費量は40%削減、消費紙枚数は62枚/人・日削減という効果が検証されています。

在宅勤務のデメリット

在宅勤務 メリットデメリット3
●職場と家庭の境界がないことで損なわれる緊張感とメリハリ
通勤時間がなくなり、オフィスと自宅の境が曖昧になるため、公私の隔たりがなくなり仕事に対する意欲低下につながるおそれがあります。周囲の目がないことも緊張感の欠如をもたらす可能性があります。

●評価の難しさ
人事評価においては、常日頃、面と向かって接している相手だからこそ理解しあえているという信頼関係が大事です。遠隔でしか接することのできない部下の、納得いく評価は困難を伴いがちです。

●意思疎通と連携の難しさ
2013年2月、アメリカのヤフーは在宅勤務を全面禁止しました。その理由として同社CEOは「最適の職場づくりに重要なのは意思疎通と連携。そのためには全員が出社し、席を並べて仕事をする必要がある」と説明。その賛否をめぐり全米で激論が生じました。

在宅勤務社員とコミュニケーションや業務を円滑に進めることのできる、ツール4選

在宅勤務 メリットデメリット4
日本オラクル「Oracle UCM」「Oracle IRM」
文書ファイルやデジタルコンテンツを一元管理する製品「Oracle Universal Content Management (Oracle UCM) 11g」、ファイルの保護と管理を実現するセキュリティ製品「Oracle Information Rights Management (Oracle IRM) 11g」、ディレクトリやデータベースに散在するユーザー情報を仮想的に一元管理する製品「Oracle Virtual Directory」、不正アクセスを予防、検知し、強固な認証を行うアクセス制御製品「Oracle Adaptive Access Manager」などを組み合わせて提案。これによって、自宅や出張先など場所を問わず社員同士が円滑にコミュニケーションを図れるほか、個人用PCやモバイル端末でもセキュアに業務可能となります。
また同社は「Work@Everywhere」というコンセプトの下、時間と場所にとらわれない働き方を実践しており、在宅勤務に関する自らの取り組みやノウハウも公開しています。

IBM「IBM Lotus Sametime」
同社が提供するユニファイドコミュニケーション(UC)ソリューションでは、テキストチャット、ボイスチャット、Web会議、PBXとのテレフォニー統合などを実現できます。
また、自宅など離れた場所で働くチームメンバーの状況を把握するうえで力を発揮するのが在席確認の機能。オンライン/オフライン、現在いる場所、応答可/会議中/外出中など、他のメンバーの現状が一目で分かり、どこにいても円滑に連絡が取れるうえ、管理職も部下の状況を常におおまかながら把握できるのが特長です。東日本大震災後でもこれらのコミュニケーションツールは大いに活躍、同社の業務継続に特に支障が出なかったことで知られます。

サイボウズ「サイボウズ Office 8」「サイボウズ ガルーン 3」
直接のコミュニケーションや紙の受け渡しなどが出来ない在宅勤務環境では、オフィスと同等に仕事を行える「場(ワークプレース)」と「場所を問わずにアクセスできるネットワーク」を整備する必要があります。同社では、場(ワークプレース)を提供する「グループウェア」と、モバイルアクセスを実現する「リモートサービス」を用意、実際に自社の在宅勤務制度でも利用しています。

富士通「どこでもオフィス」
シンクライアントシステム(Citrix XenApp/XenDesktop/シンクライアント)、IPテレフォニーシステム(統合コミュニケーション)、高度な認証機能を備えたVPN接続サービス(FENICSⅡユニバーサルコネクト)、携帯電話各社の通信カード、Web会議サービスまで、必要な機器やサービスのすべてをワンストップで提供。利用者と端末(機体・環境条件)をセットで認証することによりアクセスセキュリティを強化している点が特徴。オフィスにいるのと同様に、内線電話の使用や会議も可能です。

実際に在宅勤務を行っている企業例

在宅勤務 メリットデメリット6
リクルートHD
仕事場所はどこでもよく、同社での呼び名は「リモートワーク」。2015年10月から、従業員一人ひとりが働き方を自律的に選択できる仕組みとして、契約従業員を含む全従業員(入社直後など一部除く)に導入されました。アンケートで「働き方に対する意識が変わった」とする者が約6割に上るなど着実な結果をあげており、現在も継続中です。日数制限なし、全社員対象という大規模な在宅勤務制度は画期的。

日産自動車
全社員を対象とし、2015年からは「月40時間以内なら日数制限なし」の在宅勤務制度を採用しています。チャット・音声テレビ会議システムをフル活用し、目的にかかわらず在宅勤務可能。社員は前日までに在宅勤務の開始・終了時間や外出予定、業務内容をメールで上司に報告する仕組みです。利用者の調査では計97%が、生産性が『向上した』『変わらない』と回答。

佐賀県庁
2008年1月、全国の自治体に先駆け、初の在宅勤務制度を導入。管理職を対象とするテレワークの一斉実施やタブレット端末活用等の工夫により、現在では約4000名の全職員が同制度を利用しています。会議の配布資料の多くが電子化したことで大幅なペーパレス化を達成するなど効果も顕著とされています。2016年、日本テレワーク協会が主催する「第16回テレワーク推進賞」の会長賞を受賞。

まとめ

この半年間だけでも、様々な観点で在宅勤務に関するニュースが多く世間に流れました。既に一般化しているアメリカなど海外に倣い、日本でも「在宅勤務」は一つのブームを迎えようとしています。まだ日本での割合は約15%ですが、政府の後押しや企業の努力によって、更に社会に定着させることは可能でしょう。

ただし上述したように、まだ克服しきれないデメリットも残っています。また依然、「特殊な働き方」という見方が根強く、社会や職場での理解が追いついていないことも事実です。
今後深刻化が増す労働力不足問題、いつどこに生じてもおかしくない自然災害・・山積する課題に対応するためにも一層の普及が期待されます。

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