日本は火山活動が活発な国であり、火山の周辺では噴火による被害を受ける可能性があります。
今回の記事では、火山の噴火によって想定される被害や対策、企業が行っておきたい準備について紹介します。
監修者:木村 玲欧(きむら れお)
兵庫県立大学 環境人間学部・大学院環境人間学研究科 教授
早稲田大学卒業、京都大学大学院修了 博士(情報学)(京都大学)。名古屋大学大学院環境学研究科助手・助教等を経て現職。主な研究として、災害時の人間心理・行動、復旧・復興過程、歴史災害教訓、効果的な被災者支援、防災教育・地域防災力向上手法など「安全・安心な社会環境を実現するための心理・行動、社会システム研究」を行っている。
著書に『災害・防災の心理学-教訓を未来につなぐ防災教育の最前線』(北樹出版)、『超巨大地震がやってきた スマトラ沖地震津波に学べ』(時事通信社)、『戦争に隠された「震度7」-1944東南海地震・1945三河地震』(吉川弘文館)などがある。
目次
火山の噴火で想定される被害
火山による被害といっても、噴火の規模や種類によって被害はさまざまです。
ここでは、火山噴火による代表的な被害を紹介します。適切な対策を考えるためにも、どのような被害が考えられるのかを知っておきましょう。
火砕流
火砕流とは、火山灰・岩石・火山ガスなどが一体となって山の斜面を流れ落ちる現象です。大規模な場合は地形の起伏に関係なく、時速100km以上という速さで山肌を下ります。
また、その温度は数百℃にも上り非常に危険です。住宅や森林などが火砕流に覆われると一気に炎上するため、火山噴火からの避難においては、火砕流が発生する前に避難することが重要です。
溶岩流
溶岩流とは、高温の溶岩が斜面を流れる現象です。沼地や川に入り込んだ場合、しばしば激しい二次爆発が起こります。また、住宅地、農地、山中などで広範囲な火災の原因になります。
火砕流とは違い速度が遅く、場合によっては発生してからでも避難が可能です。地形にもよりますが、時速1km〜2kmほどの速度で斜面を流れます。
しかし、中心温度はおよそ1000℃に達し、大きな被害をもたらすため、発生時は迅速に避難しましょう。
火山灰・火山泥流
火山灰とは、噴煙に含まれる直径2mm以下の粒のことです。いわゆるものを燃やした時の「灰」とは違い、火山ガラスや鉱物などが細かく砕かれたものであることに注意が必要です。車のスリップ現象を引き起こすほか、農作物に被害が出ることもあります。
そのほか、火山灰が肺に入ったり皮膚や粘膜に触れたりすると、呼吸障害、のどの痛み、結膜炎などの健康障害を引き起こします。火山灰が発生したときは、長袖の衣服を着用し、マスクやゴーグルを装着しましょう。
火山泥流は、積もった火山灰に大量の雨が降ることで起こります。土石流のように斜面を流れ、その速度は秒速40mに達します。
噴石
噴石とは、噴火に伴って火口から飛来した石のことです。その多くは火口の近くに落下するものの、小さな噴石であれば、風に乗って数km〜数10kmもの距離を飛散する可能性があります。
大きさは人間の拳程度のものから背丈以上のものまでさまざまです。小さいものでも屋根や壁を突き破るほどの力があります。
直接接触すると大きな怪我を負うため、火山噴火の際には頭を守りながら避難しましょう。
火山ガス
火山ガスとは、溶岩に溶けていた二酸化炭素、二酸化硫黄、硫化水素などの成分が気体となって放出されたものです。人間が吸引した場合、気管支障害や中毒などの健康被害を引き起こします。
火山ガスは目に見えず、においのない成分もあるため、気付くのが困難です。
避難する際は決められたルートを選び、火山ガスが溜まりやすいことを示す看板を見かけたら、その場所には近づかないようにしましょう。
噴火警戒レベルごとに必要とされる火山対策
レベル1|「活火山」に留意
レベル1は、火山活動は落ち着いている状態です。火山活動の状態によっては、火口内で火山灰の噴出が見られます。
ただし、活火山である以上、突然警戒レベルが引き上げられる可能性もあります。そのため、情報を逃さないよう心がけて生活しましょう。
火山周辺では立ち入り規制が行われる場合があります。登山をする方は、安全な経路や最新の噴火情報をすぐに確認できるように準備しておきましょう。
レベル2|火口周辺規制
レベル2は、火口周辺では生命に影響が出る噴火の可能性があると判断され、火口周辺への立ち入りが禁止されている状態です。
山頂の火口から小規模の噴火が発生していたり、噴火の可能性があると判断されたりする状況のため、周辺住民は注意して生活しましょう。
火山噴火情報をすぐに確認できるようにし、状況が変化した際にはすぐ避難できるようにしておくことが大切です。
登山中の人は火口からできる限り離れ、立ち入り禁止エリアの外に避難しましょう。
レベル3|入山規制
レベル3では、居住地域の近くまで重大な影響を及ぼす噴火が発生すると予測される状態です。住民は情報に注意しながら通常の生活を続けますが、避難に時間を要する方や身体の弱い方は避難準備を始めます。
また、周辺地域で生命に影響が出る噴火の可能性があると判断されるため、火山への立ち入りは禁止されます。
以後、情報の変化に注意し、レベルが引き上げられた際にはすぐ避難行動をとれるよう準備しましょう。
レベル4|高齢者等避難
レベル4は、居住地域に重大な被害をもたらす噴火の可能性が高まっていると判断される状態です。この段階になると、居住地域に噴火警報(居住地域)(もしくは噴火警報)が発表されます。
避難に時間を要する方や身体の弱い方は避難を始めましょう。それ以外の方でも警戒が必要な地域に居住している場合は、避難準備を行い、常に最新の情報を確認しておきます。
噴火警戒レベルが引き上げられたら、すぐ避難できるようにしておきましょう。
レベル5|避難
レベル5は、居住地域に重大な被害をもたらす噴火が切迫している、もしくは既に発生した状態です。この段階になると、全ての人が避難する必要があります。
危険な地域から順次避難しましょう。想定される被害は火山や噴火の規模によって異なりますが、火砕流や火山泥流が居住地域に到達した場合、大きな被害が出る可能性があります。
危険な場所から離れて身を守りましょう。
会社レベルでできる火山対策の備え
火山の噴火に対して、会社が備えておくべきことはあるでしょうか。ここからは、会社でできる噴火への備えについて紹介します。
オフィスが火山の近くにある場合は参考にして、噴火に備えておきましょう。
火山に面した窓ガラスの強化
噴火が発生すると、噴石による窓ガラスの破損が想定されます。火山によっては噴石は10km先まで飛来する可能性があるため、たとえオフィスと火山が数km離れていても、油断せずに対策しておきましょう。
噴火の可能性があるときは、窓ガラスから離れて破損に備えます。
また、飛散防止用フィルムを貼って補強したり、カーテンを設置したりして対策をしておくといいでしょう。
噴石以外にも、空気の振動(空震)の影響で窓ガラスが割れるケースもあります。
避難訓練
噴火時に落ち着いて適切な行動をとるため、避難訓練を実施しておきましょう。避難経路やハザードマップを確認し、職場から避難所までの道を歩いてみると、避難の手順が分かりやすくなります。
また、防災グッズや備蓄品の確認も避難訓練とあわせて行っておきましょう。
災害マニュアルの確認・周知も行っておくといいでしょう。
【自宅と会社で比較!】災害時に備える防災グッズチェックリスト
メインサーバーのバックアップ
噴火による災害でが破損したり消滅したりして業務停止状態になると、営業機会や社会的信頼を失うことにつながり、顧客満足度も低下します。
噴火によって建物が損害を受けた場合や、火山灰の影響でコンピュータが壊れた場合に備え、メインサーバーのバックアップやコールドスタンバイを行っておきましょう。データセンターを利用すると、自然災害に強い建物にサーバーを保管してもらえます。
これらの対策はサイバー攻撃の対策にもつながります。大切なデータを守るために活用しましょう。
リモートワークへの対応
リモートで仕事ができる体制を整えておくと、オフィスが被災して出社できないときでも業務を止めずに済みます。
テレワーク実現のためには、社外の端末から業務に必要な情報にアクセスし、ほかの従業員とコミュニケーションがとれる環境を整えておかなくてはなりません。
また、セキュリティを万全にしておくことも重要です。オフィスが噴火による被害を受けても、サーバーやデータが無事であればオフィス外で仕事ができます。
企業の火山対策に役立つツール
オフィスの火山対策には、災害時に事業を止めないためのツールを導入することが有効でしょう。
企業が火山対策を行う際に、役に立つツールを3つ紹介します。
リモートアクセスツール
リモートアクセスツールは、オフィス外でも社内データにアクセスできるようにするツールです。導入すれば、社外でも社内と変わらない環境でアプリケーションの起動やファイルの編集、閲覧などの操作ができます。
このようにリモートワークできる環境が整っていれば、オフィスに出社できないときでも仕事ができるため、業務を止める必要がありません。
DR対策ツール
DR対策とは、Disaster Recovery対策の略で、災害復旧対策とも訳されます。自然災害やシステム障害などの事業継続に支障が出る状況において、システムを復旧させる方法を検討することです。
DR対策としては、社内システム、データ、サーバーのバックアップや、復旧対策に優れたツールの導入をしておきましょう。ツールを導入しておくと、非常時にも素早く対応できます。ソフトを選ぶ際はセキュリティやサポート体制を基準にして選ぶといいでしょう。
安否確認サービス
従業員が社外にいる状況で自然災害が起こった場合、企業は従業員が無事なのかを確認する必要があります。災害発生時、通信が遮断されてしまうと、電話やメールでの連絡が難しくなります。
迅速な連絡のためには安否確認サービスの導入がおすすめです。安否確認サービスとは、社員への安否確認メールの送信から集計、分析までを自動で行うツールです。
一斉連絡や状況の共有なども可能なため、迅速に安否を確認でき、事業継続に向けた人員配置を考えることができます。
火山対策で噴火に強い仕組みを作ろう
火山噴火は頻繁に起こるものではありませんが、発生すると大きな被害を引き起こす場合もあります。
オフィスが火山の近くにある場合、日頃から火山の情報に関心を持ち、窓ガラスの破損対策や避難訓練、災害時に事業を止めないための対策を行っておきましょう。
監修者:木村 玲欧(きむら れお)
兵庫県立大学 環境人間学部・大学院環境人間学研究科 教授
早稲田大学卒業、京都大学大学院修了 博士(情報学)(京都大学)。名古屋大学大学院環境学研究科助手・助教等を経て現職。主な研究として、災害時の人間心理・行動、復旧・復興過程、歴史災害教訓、効果的な被災者支援、防災教育・地域防災力向上手法など「安全・安心な社会環境を実現するための心理・行動、社会システム研究」を行っている。
著書に『災害・防災の心理学-教訓を未来につなぐ防災教育の最前線』(北樹出版)、『超巨大地震がやってきた スマトラ沖地震津波に学べ』(時事通信社)、『戦争に隠された「震度7」-1944東南海地震・1945三河地震』(吉川弘文館)などがある。