腰痛が労働災害と認められる要件とは?具体的な予防対策も解説

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遠藤 香大(えんどう こうだい)

職場における腰痛は、作業負担や不適切な作業姿勢により発症するケースが多く、労働災害として認定されるリスクを伴います。

企業側は、労働災害認定の条件や、労働基準法に基づく法的責任を正しく理解し、適切な対策を取る責任が求められます。従業員の腰痛を防止し、再発を防ぐことは企業のリスク管理と信頼性向上にも直結します。

この記事では、労働災害としての腰痛の認定条件、企業の法的責任に加え、腰痛予防のための具体的な対策や職場環境の改善方法について詳しく解説します。

腰痛が労働災害として認められる要件

従業員の腰痛が業務中や通勤中に発生したものである場合、労働災害として認定される可能性があります。しかし、腰痛やぎっくり腰は日常生活の中でも容易に発症するため、業務中に起きたとしてもその原因が業務にあるかどうか(業務起因性)の判断が難しい場合があります。

労働災害として認定されるためには、特定の要件を満たす必要があり、企業はその判断基準を理解することが大切です。従業員の健康を守り、企業の信頼性を高めるために、腰痛が労働災害として認定される要件について整理しておきましょう。

労働災害認定のための基本要件

腰痛が労働災害と認定されるには、「業務災害」または「通勤災害」のいずれかに該当しなければならなりません。具体的な各要件について解説します。

業務災害の要件

業務災害の要件は以下の2つです。

業務遂行性従業員が業務中、使用者の管理下にある状態で腰痛が発生した場合が該当します。たとえば、会社の指示での作業中に起こった負傷がこれに当たります。
業務起因性業務内容と腰痛の発生との間に因果関係があることが必要です。重い荷物の運搬や無理な姿勢を取る作業が日常的に求められる職場では、腰痛が業務起因性を満たす可能性があります。

通勤災害の要件

通勤中の腰痛でも、「合理的な通勤経路での負傷」という条件を満たせば通勤災害として認定されることがあります。

合理的な通勤経路での負傷自宅と職場間の合理的な経路で起こった負傷が対象です。職場から他の勤務地への移動中や、就業日の移動中であれば、通勤災害として労災認定を受ける可能性があります。ただし、寄り道など通常の経路から逸脱した場合は対象外となります。

労働災害と認定される腰痛の例

腰痛が労災として認められる主なケースを紹介する。従業員が該当するかを判断する際の参考にしてください。

【ケース1:転落や転倒による腰痛】高所作業中の転落や、デスクワーク中に椅子にうまく座れずに転倒して腰を打撲した場合、業務遂行性と業務起因性が認められるため、労災認定される可能性が高くなります。

【ケース2:反復的な重労働による腰痛】重い荷物を頻繁に運ぶ作業などで腰痛が慢性的に悪化した場合も、業務遂行性と業務起因性が満たされるため、労災として認められる可能性があります。

【ケース3:ぎっくり腰など突発的に生じた腰痛】ぎっくり腰は日常動作の中でも起こる可能性が高いため、一般的には労働災害として認められません。しかし、腰に負担のかかる姿勢や動作で過度の力が加わった場合であれば、業務上として認定されることがあります。

腰痛の労災認定には、業務との因果関係の立証が重要です。とくに日常生活でも発症する可能性がある腰痛については、業務による過重負荷の存在を客観的に示すことが求められます。

企業としては、従業員が負傷した場合は、速やかに医療機関を受診させ、診断書を提出してもらうことが重要です。

さらに労働災害について詳しく知りたい方はこちらの記事も参考にしてください。労働災害についての基礎知識を解説しています。

腰痛が労働災害に認定された場合の企業側の法的責任

従業員の腰痛が労働災害として認定されると、企業はさまざまな法的責任を負うことになります。次に、企業の法的責任について詳しく説明します。

労働基準法に基づく企業側の責務の存在

労働契約法第五条では、企業に対して従業員の健康と安全を守るための「安全配慮義務」を課しています。

【労働者の安全への配慮】第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

(引用:労働契約法(労働者の安全への配慮)第五条

「安全配慮義務」とは、企業が従業員に対して安全な作業環境を提供する義務です。企業側が安全配慮義務に違反した場合、労働契約法には罰則規はないものの、従業員から損害賠償を請求される可能性もあります。そのため、企業は労働災害を未然に防ぐための措置を講じる必要があります。

安全配慮義務の具体的内容

安全配慮義務の詳細について確認しておきましょう。安全配慮義務には以下のような内容が含まれます。

作業環境の整備

従業員が安全に働ける環境を整える義務があります。具体的には、作業台の高さや照明、通路の幅など、作業に適した環境を提供するなどです。

従業員の健康管理

定期的な健康診断や、腰痛予防のための教育を行い、従業員の健康を維持する努力が求められます。

発症時の適切な対応手順

腰痛が発症した場合の初期対応や医療機関への連携について、明確な手順を定めておくことが重要です。

腰痛が労働災害と認定されて生じる企業のデメリット

従業員の腰痛が労働災害として認定されると、企業は次のようなデメリットが生じることがあります。

  • 損害賠償請求
  • 解雇制限
  • 労災保険料の増加
  • 重大事故のペナルティ

損害賠償請求のリスク

労働災害が認定されても慰謝料や逸失利益は別途発生し、会社に損害賠償を求められることが多いです。裁判例を挙げると、腰痛に対して後遺障害14級9号が認定され、障害補償給付として、合計約54万円の支払い命令が出されています。

損害賠償が発生する理由としては、以下が挙げられます。

  • 労働災害から慰謝料や逸失利益が支払われないため、従業員は別途会社に請求を行うケースがある
  • 労災による休業補償は給与の約6割であるため、残りの4割を会社が負担する場合がある

解雇制限

労働災害の認定により、従業員が治療中または治療終了後30日間の解雇は制限されています(労働基準法第19条)。例外的に解雇が許可される場合もあるが、長期休業中であっても解雇はできない点に留意が必要です。

労災保険料の増加

労災保険のメリット制により、100人以上の従業員を雇う会社などでは、過去の労災支払い実績に基づき保険料が増加することがあります。重大な労災事故が発生すれば、保険料が最大40%増額する可能性も生じます。

重大事故のペナルティ

重大事故として認定されると、ペナルティが課される場合があります。

たとえば、腰痛により重大な後遺障害が残った場合などの労働災害事故には、以下の追加的なペナルティが課される可能性が出てきます。

使命停止処分公共入札に参加している場合、重大な労災事故により入札停止措置が取られることがある
刑事罰労働安全衛生法違反などにより、会社や責任者に罰金や懲役が科されることもある
行政処分建設業や派遣業などの許認可業種では、労災事故が行政処分の対象になる可能性がある

このように腰痛が労働災害として認定されるデメリットは多いです。しかし労災隠しには罰則があります。

労災隠しの罰則について詳しく知りたい方は以下の記事もぜひ参考にしてください。

また労災保険制度への加入をご検討の方は、こちらの記事で種類や手続き、給付について詳しく解説しています。

労働災害を起こさないための効果的な腰痛予防対策

腰痛の労働災害を未然に防ぐためには、職場でのリスク評価の実施、作業環境や方法の改善、従業員教育の徹底など、総合的な取り組みが重要です。

ここでは、各対策について具体的に説明します。

リスク評価の実施

腰痛リスクの低減には、まず職場での腰痛リスク要因を洗い出し、定期的に評価することが不可欠です。従業員の作業環境や業務内容を確認し、腰痛発生のリスクを把握します。

たとえば、定期的に「作業時の姿勢」「持ち上げ動作」「負荷のかかる作業時間」などに着目し、現状を把握するチェックリストを設けると、効果的にリスク要因を特定できます。

作業環境の改善

腰痛リスクを少なくするには、作業環境の改善が重要です。具体的な対策は次のようになります。

  • 設備・機器の導入
  • 作業姿勢の改善と適切な器具の導入
  • 作業スペースの確保
  • 照明や温度管理
  • 作業時間と休憩時間の管理

それぞれについて説明しています。

設備・機器の導入

負荷を軽減するため、リフトや台車などの腰への負担を軽減できる補助機器を導入し、適切な機器を活用するよう指導します。また、腰用のサポートベルトなどを支給することで腰への負担を和らげることができます。

作業姿勢の改善と適切な器具の導入

作業姿勢が腰痛の発生に大きな影響を及ぼすため、持ち上げ作業では膝を使う正しい姿勢の指導や、作業台の高さ調整、椅子の見直しなどが有効です。

作業スペースの確保

広い作業スペースを確保し、動きやすい環境を整えることで作業効率を高め、無理な姿勢や力の入りすぎを防ぎます。

照明や温度管理

環境が暗いと無理な姿勢で作業しがちになり、腰痛の原因となります。また、室温が低いと筋肉が硬直しやすくなるため、適切な照明と快適な温度管理を行います。

作業時間と休憩時間の管理

同じ姿勢を長時間続けないようにし、定期的に休憩時間を設けて腰への負担を軽減します。労働時間の管理を徹底し、長時間労働や過重労働を回避することが腰痛予防には効果的です。

作業方法の見直し

従業員の腰痛予防には作業手順の改善も効果的です。具体的な方法には、次のような取り組みが含まれます。

作業手順の標準化持ち上げ方や運搬の手順を標準化し、腰に負担がかからない作業方法を習得させることにより、個人差に左右されない安全な作業環境が実現できます。
休憩時間の確保作業と作業の間に休憩を挟むことにより、疲労の蓄積や腰痛のリスクを軽減します。
2人作業の実施重い物を持つ際には、無理に1人で運ぶのではなく、2人で協力して作業するよう推奨します。これにより、腰痛のリスクを抑えることができます。

従業員教育の実施

腰痛予防には、従業員への教育と意識啓発も大切です。教育内容には、以下のようなポイントを押さえましょう。

  • 正しい作業姿勢の徹底
  • 腰痛予防体操の導入
  • 健康管理意識の向上
  • 正しい姿勢や動作を取得する研修
  • 定期的な啓発

それぞれのポイントを解説します。

正しい作業姿勢の徹底

従業員に対して正しい姿勢を保つ重要性を教えましょう。たとえば重い物を持つ際に膝を曲げて腰を守る姿勢を徹底させるなどが挙げられます。研修や実演を行うことにより、全員が正しい動作を理解できるように促すことが重要です。

腰痛予防体操の導入

職場での体操やストレッチを推奨し、勤務中の簡単な運動により、腰回りの筋肉をリラックスさせることにより、腰痛の予防効果が期待できる。

健康管理意識の向上

従業員の健康に関する意識を高めるため、健康診断を実施し、産業医や保健師と連携して早期の異常発見と対応ができる体制を整えましょう。

正しい姿勢や動作を取得する研修

腰痛予防に必要な正しい動作を研修で習得してもらいます。とくに持ち上げ作業や前傾姿勢を取る業務の多い職場では、具体的な動作指導を行うと効果的です。

定期的な啓発

腰痛予防について定期的に研修や啓発活動を行い、全員が最新の知識と意識を持ち続けられるようサポートします。また、ストレッチや体操の推奨、腰痛の初期症状への早期対応の大切さも伝えましょう。

従業員全体の健康管理を把握して企業価値を高めていく

本記事では、従業員の腰痛が労働災害として認定される条件、企業の法的責任、予防策について解説しました。法的リスクや保険料増加、企業価値の低下といった負担を避けるため、職場環境の改善や従業員教育を通じて腰痛予防を徹底することが重要です。

従業員全体の健康管理を十分に把握できていないとお考えの企業は、トヨクモの『安否確認サービス2』の活用をおすすめします。災害時の安否確認はもちろん、従業員の体調報告ツールとして活用された事例もあります。

安否確認サービス2を使い、社内へ腰痛予防に取り組むよう周知すれば、日頃から従業員に健康管理への意識を高めてもらうことができるでしょう。

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