労災認定基準をわかりやすく解説|手続きの流れや受けられない場合の対処法も
遠藤 香大(えんどう こうだい)
どれだけ気を付けていても、労災(労働災害)が起こる可能性はあります。いつ起こるかわからないため、もしものときに備えて労災保険について理解を深めておきましょう。
この記事では、労災認定基準についてわかりやすく解説します。労災認定を受けるまでの流れや、認定を受けられなかった場合の対処法も紹介するため、ぜひ参考にしてください。
目次
労災(労働災害)の種類
労災(労働災害)とは、労働者が仕事に関連して被った負傷、疾病、障害、または死亡を指します。これらの災害が発生した場合、労災保険制度による補償が行われます。
労働災害については、こちらの記事で詳しく解説しています。
労災は主に以下の3つに分類されます。
労災の種類 | 概要 |
---|---|
業務災害 | 労働者が職務中に業務が原因となって被った災害。ただし、私的な行為が原因の場合や故意による場合は対象外となる。 |
複数業務要因災害 | 複数の職場で同時に働く労働者が、それらの仕事による負荷が重なって発生した災害。主に脳・心臓疾患や精神障害などが対象。 |
通勤災害 | 合理的な経路・方法による通勤中に発生した災害。自宅と職場の往復や、複数の職場間の移動時の事故が該当。ただし、私的な目的で経路を大きく逸脱した場合は対象外となる。 |
業務災害の認定基準
労災保険制度における業務災害の認定基準は、負傷か疾病かによって異なります。ここでは、それぞれの認定基準について確認しておきましょう。
業務上の負傷で労災認定を受ける基準
業務上の負傷で労災認定を受けるためには、業務起因性が認められる必要があります。業務起因性とは、業務と傷病との間に一定の因果関係が存在することを指します。
さらに、業務起因性の前提条件として、業務遂行性の条件を満たしておかなければなりません。業務遂行性とは、労働者が労働契約に基づいて事業主の支配下にある状態を指します。
業務遂行性は、以下の3つの類型に分類されます。
- 事業主の支配・管理下で業務に従事している場合
- 事業主の支配・管理下にあるが業務に従事していない場合
- 事業主の支配下にあるが、管理下を離れて業務に従事している場合
事業主の支配・管理下で業務に従事している場合
「事業主の支配・管理下で業務に従事している場合」とは、所定労働時間内や残業時間中に職場で働いている状態のことを指します。この場合、通常の業務行為中の事故や、施設・設備の管理状態に起因する災害は、特別な事情がない限り業務災害として認められます。
たとえば、工場で機械操作中の事故や事務所での転倒事故などが該当します。
事業主の支配・管理下にあるが業務に従事していない場合
「事業主の支配・管理下にあるが業務に従事していない場合」とは、休憩時間中や始業前後に会社施設内にいる状態のことを指します。この時間帯は実作業を行っていないため、私的行為による事故は業務災害とはなりませんが、会社の施設・設備に起因する事故は業務災害として認められます。
たとえば、休憩室の棚の上から落下してきた物に当たり、負傷した場合などが該当します。
事業主の支配下にあるが、管理下を離れて業務に従事している場合
「事業主の支配下にあるが、管理下を離れて業務に従事している場合」とは、出張や営業活動など、会社施設外で業務を行っている状態のことを指します。この場合、明らかな私的行為による逸脱がない限り、業務災害として認められます。
例えば、取引先への移動中の交通事故や出張先での事故などが該当します。
労働災害によって死亡者や休業者を出した事例は、以下の記事から確認できます。
業務上の疾病で労災認定を受ける基準
業務上の疾病とは、事業主の支配下にある状態で、有害因子にさらされたことによって発症した疾病のことを指します。単に勤務中に発症した病気を指すわけではありません。
原則として、業務上の疾病と認定を受けるには、以下の3つの要件を満たしている必要があります。
要件 | 概要 |
---|---|
労働の場に有害因子が存在している | 化学物質、強い身体的負荷、病原体など、健康に影響を与える要因が職場に存在している |
健康障害を起こしうるほどの有害因子にさらされた | 有害因子への接触が、疾病を引き起こすのに十分な量や期間であった |
発症の経過および病態が医学的にみて妥当である | 有害因子への接触から発症までの過程が医学的に説明可能である |
たとえば、退勤後や休日に症状が出現した場合でも、業務中に有害因子にさらされたことが原因と認められれば、業務上の疾病として労災認定を受けられる可能性があります。
業務災害として認められないケース
以下のような場合には、業務災害として認められません。
- 就業中の私的な行為や恣意的行為が原因で災害が発生した場合
- 労働者が故意に災害を発生させた場合
- 個人的な怨恨による第三者から暴行を受けた場合
- 業務中に地震や台風などの災害によって被災した場合
これらのケースが業務災害として認められない理由は、災害の発生が業務に起因せず、私的または個人的な要因によって引き起こされているからです。つまり、業務との因果関係が認められないことが、不認定の根拠となっています。
ただし、業務中に自然災害によって被災した場合でも、業務災害として認められるケースがあります。事業場の立地条件や作業条件、作業環境などにより、自然災害が発生した際に被害を被りやすい業務の事情がある場合は、業務災害と認められます。
複数業務要因災害の認定基準
複数業務要因災害とは、複数の事業労働者が被った傷病などのうち、複数の事業場での業務が原因となって発生したものを指します。ここでいう複数事業労働者とは、同時期に複数の異なる事業主のもとで働く労働者のことです。
認定にあたっては、それぞれの職場での労働時間やストレスなどの負荷要因を総合的に評価して判断します。
なお、複数の事業場で働いている場合でも、1つの事業場での業務による負荷のみで労災認定の基準を満たす場合は、通常の業務災害として処理されます。
複数業務要因災害として認められないケース
以下のような場合は、複数業務要因災害として認められません。
- 転職など、時期の異なる複数の職場での業務による場合
- 正社員としての仕事と個人事業主の仕事を組み合わせている場合
これらのケースが認められない理由は、複数業務要因災害が「同時期に異なる事業主のもとでの労働」という要件を重視しているためです。
通勤災害の認定基準
通勤災害とは、労働者が通勤途中で被った負傷、疾病、障害、または死亡のことを指します。ここでいう「通勤」とは、就業に関連した以下の3つの移動を、合理的な経路および方法で行うことを意味します。
- 住居と就業の場所との間の往復
- 就業の場所から他の就業の場所への移動
- 単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動
上記の移動には、業務の性質を有する移動は含まれません。また、通勤途中で経路を逸脱したり、移動を中断したりした場合、その逸脱や中断している間、およびそれ以降の移動については、通勤とは扱われません。
ただし、例外として、合理的に認められた行為による逸脱や中断の場合は、その後の移動も通勤として認められます。
通勤災害の要件を詳しく見ていくと、以下の通りです。
要件 | 概要 |
---|---|
就業に関し | 就業と関連した移動であること。遅刻を避けるための早出なども認められる |
住居 | 労働者が実際に居住している場所。寮やアパート、緊急時の宿泊施設も含む |
就業の場所 | 業務を開始・終了する場所。外勤の場合は最初の訪問先から最後の訪問先まで |
合理的な経路および方法 | 一般的に用いられる経路や交通手段。交通事情によっては、迂回経路も認められる |
業務の性質を有するもの | 会社の送迎バスでの移動など、業務の一環として行われる移動は通勤とはならない。業務災害として認定される |
往復の経路を逸脱し、または中断した場合 | 買い物や私用での寄り道。ただし、日用品の購入など、生活に必要な最小限の行為は認められる |
例えば、通常の電車やバスを利用した自宅から会社までの往復中の事故は、通勤災害として認められます。
通勤災害として認められないケース
以下のような場合は、通勤災害として認められません。
- 合理的な理由なく、著しく遠回りとなる経路を選択した場合
- 映画館での映画鑑賞など、私的な目的で経路を大きく逸脱した場合
- 飲酒や私的な娯楽のために通常の経路を中断した場合
これらのケースが認められない理由は、通勤の本来の目的である「就業のための移動」から逸脱していると判断されるからです。
ただし、以下のような場合は逸脱・中断の例外と定められており、その後の移動は通勤として認められます。
- 日用品の購入その他これに準ずる行為
- 職業訓練、学校教育法第1条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
- 選挙権の行使その他これに準ずる行為
- 病院または診療所において診察または治療を受けること、その他これに準ずる行為
- 要介護状態にある配偶者、子、父母、孫、祖父母および兄弟姉妹並びに配偶者の父母の介護
(参考:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署|労災保険給付の概要)
通勤災害については、以下の記事でより詳しく解説しています。
新型コロナウイルスに感染した場合も労災保険の対象となる?
新型コロナウイルス感染症への感染も、一定の要件を満たす場合は労災保険の対象となります。対象となるケースは、従事する業務の性質によって判断基準が異なります。
医師、看護師、介護従事者など、新型コロナウイルス感染症患者の診療や看護、介護に従事する場合は、業務外で感染したことが明確な場合を除き、原則として労災保険の対象となります。
一方、その他の労働者の場合は、業務による感染経路が明らかな場合に労災保険の対象となります。また、感染経路は特定できないものの、複数の感染者が確認された職場での勤務や、接客業など顧客との近距離での接触が頻繁にある業務など、感染リスクが高い業務に従事していた場合には、労災認定を受けることが可能です。
パワハラで疾病が発生した場合も労災保険の対象となる?
職場でのパワーハラスメントが原因で精神障害を発症した場合も、労災保険の対象となります。厚生労働省は、労働者の精神障害が業務上の災害として認められるかを判断するために、「心理的負荷による精神障害の認定基準」を定めています。
具体的には、発病前のおおむね6か月間に発生した業務上の出来事について、強い心理的負荷が認められる場合に、認定要件の一つを満たすとされています。パワハラについては、上司等から身体的攻撃や精神的攻撃を受けた場合が対象です。
なお、ここでいう「上司等」には、職務上の地位が上位の者だけでなく、業務上必要な知識や経験を持つ同僚・部下や、集団による行為で抵抗が困難な場合も含まれます。
評価にあたっては、指導・叱責等に至る経緯や状況、攻撃の内容や程度、繰り返しの有無、就業環境への影響、会社の対応状況などが総合的に判断されます。治療が必要なほどの暴行や、執拗な精神的攻撃を受けた場合などは、特に強い心理的負荷があったと評価されます。
自然災害によって事故が発生した場合も労災保険の対象となる?
基本的に、従業員が業務中に台風や地震などの自然災害によって被災した場合は、労災保険の対象とはなりません。しかし、台風や地震などの被害を受けるような環境下で仕事をしていたと判断された場合には、労災保険の支給が認められます。多くの従業員が被災した東日本大震災以降、自然災害による業務中の被災を労災と認める動きが広がっています。
また、通勤中に被災した場合も、通勤災害として労災保険給付の対象となります。ただし、発生時に従業員が通常の経路・方法で通勤していることが必須です。私的な寄り道や別の目的での行動がある場合、労災保険の適用は認められません。
企業は、従業員が通勤途中に自然災害に遭遇する可能性を見極め、悪天候が予想されるときには、公共交通機関の運行状況に応じた対応策の準備や在宅勤務の推奨などを行うことが求められます。また、災害発生時のガイドラインを従業員に事前に配布するなど、周知を徹底することも重要です。
地震発生時の労災については、以下の記事でより詳しく解説しています。
労災が起きたときの手続きの流れ
労災事故が発生した際は、適切に補償を受けるために、速やかに対応する必要があります。企業の担当者は、以下の手順に従って必要な手続きを進めていきましょう。
①病院で診察を受けるように指示を出す
労災事故の発生を従業員や目撃者から確認したら、従業員の安全を最優先に考え、直ちに医療機関での受診を指示します。この際、受付で「業務上の災害である」ことを伝えるよう案内することが重要です。
②受診した病院について確認する
次に、従業員が受診した医療機関の情報を確認します。労災指定医療機関で受診した場合は、窓口での治療費支払いが不要です。一方、労災指定外の医療機関の場合は、いったん従業員が治療費を立て替える必要があります。
なお、労災事故の治療には健康保険を使用できないため、誤って使用しないように従業員に共有しておきましょう。万が一、健康保険を使用したことが判明した場合は、労災保険への切り替え手続きが必要となります。
③申請に必要な書類を用意する
受診した病院について確認できたら、労災保険給付の請求書を準備します。労災指定病院で受診した場合は、「療養給付たる療養の給付請求書」を病院に提出し、病院から労働基準監督署に請求が行われます。
労災指定外の病院の場合は、「療養給付たる療養の費用請求書」に領収書を添付して労働基準監督署に提出することで、後日、立て替えた治療費が支給されます。
④労働基準監督署の調査を受ける
請求書の提出後、労働基準監督署が事故の状況や業務との関連性について調査を行います。調査では、事故の発生状況や業務内容、勤務状況などについて確認が行われ、これらを総合的に判断して労災認定の可否が決定されます。
労災認定を受けられない場合の対処法
労災認定を受けられなかった場合でも、判断の見直しを求めることができます。
認定結果に不服がある場合には審査請求を行う
労災不支給の決定を受けた場合、まず最初に取れる手段が審査請求です。労働基準監督署を管轄する都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官に対して行います。
請求は、不支給決定を知った日の翌日から3か月以内に行う必要があります。
なお、審査請求を行う前には、審査請求で主張すべき点を明らかにするために、不支給となった理由を確認しておきましょう。労働局に対して保有個人情報の開示請求を行うことで確認できます。
審査請求の結果に不服がある場合には再審査請求を行う
審査請求の結果にも納得がいかない場合、または審査請求から3か月経過しても結果が出ない場合は、労働保険審査会に再審査請求を行うことができます。再審査請求は、審査請求の決定書を受け取った日の翌日から2か月以内に行う必要があります。
労働保険審査会の裁決に不服がある場合には取消訴訟を行う
再審査請求の裁決を受けても納得がいかない場合は、裁判所に取消訴訟を提起することができます。訴訟の提起は、裁決を知った日から6か月以内、または裁決があった日から1年以内に行わなければなりません。
労災に加えて自然災害への備えも欠かせない
労災事故が発生した場合、企業の担当者は従業員の安全確保を第一に考え、速やかに医療機関への受診を促すとともに、適切な労災申請手続きを進める必要があります。また、労災認定が受けられなかった場合でも、審査請求などの救済手段が用意されているため、状況に応じて活用を検討しましょう。
一方で、労働災害に加えて、自然災害に備えることも重要です。特に近年は地震の発生頻度が高く、いつ発生するかわかりません。災害時にどれだけ迅速に行動できるかが、従業員の安全確保や事業の存続に関わるため、自然災害への備えも企業の重要な課題となっています。
自然災害に備えるなら安否確認システムの導入がおすすめ
災害発生時に従業員の状況を迅速に把握し、適切な対応を取るためには、安否確認システムの導入が効果的です。災害時の混乱した状況下でも、自動で安否確認メッセージを一斉配信し、従業員の状況を素早く確認できます。自社の従業員を守るために、平常時からの備えを整えておきましょう。
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