労災保険法(労働災害補償保険法)とは?近年の改正内容も解説
遠藤 香大(えんどう こうだい)
労災保険法は、労働災害補償保険法の略称で、労働者が業務に関わる事故や病気に見舞われた際、適切な補償を提供するための法律です。これに基づいて運営される制度が、労災保険(労働者災害補償保険)です。この記事では、法律・労災保険の概要や、近年の改正内容について解説します。労災保険について知りたい担当者や経営者は、ぜひ参考にしてください。
目次
労働者災害補償保険法とは
労働災害補償保険法(以下、労災保険法)とは、業務や通勤の最中にケガや疾病を負った労働者に対して、保険を素早く給付して保護する目的で定められた法律です。昭和22年に初めて制定されました。
業務中もしくは通勤中に生じた事故は、労働災害(以下、労災)と呼びます。労災で被害を受けた労働者に対して、社会復帰の支援と安全衛生の確保をすることも、労災保険法の目的です。
労災の概要や事例をまとめた関連記事として、以下も参考にしてください。
労災保険とは
労災の発生時に、医療費や休業期間中の給与を補う社会保障として、労働者は一定条件のもとで労災保険を受給できます。ここでは、認定される事故の種類、補償内容、対象者を解説します。
労災保険の対象となるケガ・疾病
労災保険の対象にあたる事故は、大きく分けて2種類あります。
1つめは、業務災害です。職場での業務中に負ったケガや、仕事中の外出先で災害に見舞われたケースは、業務災害として労災保険の対象に含まれます。
業務災害の詳細は、こちらの関連記事でも紹介しています。
2つめは、通勤災害です。通勤中の路上で負傷したときや、会社からの帰宅中に発生した災害の被害は、通勤災害にあたります。
通勤災害における労災受給の手続きは、こちらの関連記事を参考にしてください。
労災保険の保障内容
労災保険の給付で受けられる保障には、さまざまな種類があります。以下の表で、主な給付の種類と内容を確認しましょう。
労災保険の補償の種類 | 給付内容 |
---|---|
療養(補償)給付 | 労働者が仕事中に負ったケガや病気の治療費が給付されます。病院での診療費や手術費、入院費用が対象です。 |
休業(補償)給付 | 労災によって休業し、給与を受け取れない場合に給付されます。 |
障害(補償)給付 | 労災で負ったケガや病気で労働者が障害を抱えたとき、等級に応じて一時金や年金などが給付されます。 |
遺族(補償)給付 | 労災で亡くなった労働者の遺族に対して、一時金や年金を給付する制度です。遺族の人数に応じて給付額は異なります。 |
ここでは紹介していない保障内容もあります。労災保険の詳細や手続きについては、以下の関連記事も参考にしてください。
労災保険の適用者
労災保険の給付対象は、原則としてすべての労働者です。1人でも労働者を雇用する企業は、労災保険の加入対象であり、被雇用者全員が労災保険の適用を受けられます。
各企業には、さまざまな雇用形態が存在します。正社員や契約社員だけでなく、パートタイマーやアルバイト雇用の労働者も、労災保険の被保険者です。ただし、事業主は適用範囲に含まれず、特別加入の手続きをする必要があります。
労災保険の補償内容、対象者は以下の記事で詳しく解説しています。
近年の改正内容
労働者を取り巻く環境は、つねに変化を続けています。労働環境の実情を踏まえ、労災保険法は近年いくつかの改正がなされました。ここでは、給付額や認定基準の変更、加入対象者の追加など、主な改正内容を解説します。
複数事業労働者への対応強化
2020年9月1日付けの労働保険法改正によって、複数事業労働者に対する労災保険の保障内容が変更されました。
複数事業労働者とは、複数の事業場で雇用されている労働者のことです。同一の事業主が保有する複数の事業場は、1つの事業場として扱います。労災の発生時点では複数の事業場に勤めていないケースでも、労災の原因が生じた時点で複数の事業場に雇用されていれば、複数事業労働者にあたります。
該当の法改正を通じて、複数事業労働者が給付を受ける労災保険は、給付額と労災認定基準の面で、以前よりも内容が拡大されて保障がより強化されました。具体的な変更内容は、以下で紹介します。
(参考:厚生労働省|労働者災害補償保険法の改正について~複数の会社等で働かれている方への保険給付が変わります~)
保険給付額について
労災によるケガや病気で会社を休んだケースでは、労災保険の休業(補償)給付が受けられます。保険の給付額を算定する材料は、雇用元の事業場から支払いを受けている賃金の額です。
従来は、労災が発生した勤務先の賃金額のみが考慮され、保険の給付額が決められていました。つまり、複数事業労働者が労災によって療養で仕事を休んだとしても、その期間の休業給付は、1つの事業場から受ける賃金のみ計算に入れられる仕組みです。
現在は法改正によって、複数事業労働者が労災保険の給付を受けるときは、勤務先すべての賃金をもとに、給付額が決められるルールに変更されました。
この改正を通じて、複数事業労働者が受け取れる保険給付額は増加します。
例として、事業場Aで15万円、事業場Bで30万円の賃金を毎月受け取る労働者が、事業場Aで労災に遭ったケースを想定します。従来の法令では、事業場Aの賃金15万円を踏まえて、保険給付額が算出されました。一方で、現在の法令では、事業場AとBの賃金を合算した45万円が、給付の基礎額にあたります。
仕事での負荷(労働時間やストレス)の総合評価
労働者が仕事で受けた負荷が原因で特定の病気にかかったときも、労災保険の給付対象です。脳や心臓の疾患、精神障害は、長時間労働や仕事上の過度なストレスが原因で発生するケースがあります。これらの労災を認定する際は、労働者が仕事で受けた負荷を評価したうえで判断します。
複数事業労働者でも、仕事での負荷による労災認定のプロセスは同一です。従来の法律では、個別の事業場ごとに負荷を評価し、それぞれで労災の認定判断を下していました。一般に、仕事の負担は事業場ごとに分散されると想定できます。つまり、個別の事業場単位で、労災に認定するほどの負荷ではないと判断されると、給付が受けられない仕組みでした。
法改正以降は、各事業場で労災が認定されなかったときに、すべての事業場における負荷を総合的に評価して、労災を判断するプロセスが追加されました。従来の評価方式では労災を認定されなかった労働者であっても、新たな評価方式では労災給付を受けられる可能性があります。
フリーランスの特別加入(労災保険法施行規則の改正)
2024年11月1日付けで、労災保険法施行規則が一部改正されました。施行規則とは、法律の具体的な運用方法を定めた規則のことです。
改正後は、労災保険に「特別加入」できる対象として、新たにフリーランスが追加されます。特別加入とは、労災保険への加入条件を満たしていない方が、特定の要件を満たすことで保険に加入できる制度です。従来、中小事業主や一人親方などが、労災保険に特別加入できる対象として定められていました。
特別加入の対象になるフリーランスは、企業からの業務委託や、消費者からの委託を受けて事業に携わる方です。加入する際は、特別加入団体の連合フリーランス労災保険センターを通じて申請します。保険料は、加入者であるフリーランス労働者自身の負担です。自身の所得水準に適した給付基礎日額を選んで申請し、承認されるとその額に応じて、治療費や休業給付が受けられます。
労災保険法や施行規則における最新の改正内容は、厚生労働省のWebサイトから確認できます。つねに新しい制度内容を確認しましょう。
(参考:厚生労働省|令和6年11月から「フリーランス」が労災保険の「特別加入」の対象となります)
企業は労災保険加入だけでなく、労災対策も重要
労働者を1人以上雇用する企業には、労災保険への加入が義務づけられています。労災保険の制度を利用することで、万が一の事態で労災が生じたとしても、保険の給付で従業員の生活を守れる点がメリットです。
労災保険に加入するだけでなく、労災への対策も重要です。労災が発生すると、大切な従業員の安全が脅かされ、ケガや病気を抱えるおそれがあります。従業員が働けなくなると、企業は人手不足に陥ることが想定されます。もしも労働環境が原因で事故が発生すると、刑事訴訟や、企業の評判低下に関わるリスクを抱える点もデメリットです。
労災の発生を未然に防ぐには、法令の遵守や労働環境の整備に取り組むことが重要です。従業員と企業を守るために、災害への対策を事前に講じましょう。
労災対策の詳細や具体例は、以下の関連記事で紹介しています。合わせてご覧ください。
地震発生時の従業員の怪我は労災として認定されやすい
2011年の東日本大震災以降、業務時間中の地震や津波による従業員の怪我や死亡は、労災に認定されやすくなっています。
たとえば、仕事中に地震が発生し、事務所に津波が到達してケガや死亡につながったケースは、業務災害として労災にあたります。通勤もしくは退勤中に地震や津波の影響で生じた事故は、通勤災害です。そのほか、仕事の休憩時間中に被災したときも、勤務中と同様の扱いで労災に認定されます。
地震と労災の関係については、こちらの関連記事も参考にしてください。
企業が労災対策を進めるうえでは、地震の被害を拡大させないための施策が大切です。対策のひとつとして、安否確認システムの活用をおすすめします。安否確認システムとは、地震に代表される災害の発生時に、安否確認の連絡を自動で実施できるツールです。
トヨクモは、安否確認システムとして『安否確認サービス2』を提供しています。従業員へのメッセージ送信から回答の集計までを自動化できるため、被害状況を素早く把握できます。毎分100万通以上のメールを送信できる超高速メール配信システムを使用して、国内の通信トラフィックがピークに達する前に安否確認通知の配信完了が可能です。
また、安否確認サービス2で提供される掲示板機能を使うことで、今後の方針や対策などを、従業員とスムーズに共有できます。災害時でも迅速で的確な対応が取れることで、従業員が混乱せずに行動でき、労災の発生を未然に防げるでしょう。
労災保険法と最新の改正内容を把握しておこう
この記事では、労働災害補償保険法(労災保険法)の概要や、近年改正、新設された制度について解説しました。業務中や通勤中に発生した事故は労災に認定され、医療費や休業補償は保険金の給付を受けられます。
従業員を雇う企業には、労災保険への加入義務があります。労災保険の基礎知識や最新の制度内容を把握し、不測の事態が起きても従業員を守れる体制づくりが大切です。
また、企業には労災の発生を防ぐための施策も求められます。とくに災害時は、従業員の混乱を防いで、安全を確保するために、スピーディで明確な情報提供と対処が重要です。
トヨクモの『安否確認サービス2』を利用すると、災害時の安否確認メッセージ送信と回答集計を自動化できるため、迅速な対応で被害の拡大を防げます。労災対策を講じて従業員の安全を守るために、導入をぜひご検討ください。