転倒による労働災害リスクを減らす!従業員の安全を守る効果的な対策

遠藤 香大(えんどう こうだい)のサムネイルアイコン

遠藤 香大(えんどう こうだい)

転倒による労働災害は年々増加しており、全労働災害の約4分の1を占めています。さらに、その約4割は1カ月以上の休業を伴う重症事故となっています。このような状況を受け、厚生労働省が策定した第14次労働災害防止計画でも「転倒災害」が重要課題に位置付けられており、企業においても早急な対策が求められているのが現状です。

転倒リスクを放置すると、従業員の安全が損なわれるだけでなく、長期休業による人員不足や医療費の増加といった経営上の負担も発生しかねません。

この記事では、コストを抑えつつ実践できる具体的な安全対策と、労災防止を通じて経営リスクを軽減する方法について紹介します。

労働災害全体に占める転倒災害の現状と企業リスク

労働災害の中で増加している転倒災害は、一見軽症に思われがちだが、企業経営に深刻な影響を及ぼす可能性があります。企業が安全対策を怠れば、労働災害の発生に伴うリスクが経営に深刻な影響を及ぼしかねません。ここでは、転倒災害の現状と、企業が直面する経営リスクについて解説します。

労働災害全体のなかで転倒事故が占める割合

厚生労働省が発表する「第14次労働災害防止計画」によると、2023年の労働災害全体のなかで転倒事故はもっとも件数が多く、さらに前年と比べ増加傾向にあります。また、転倒でのケガの約6割が1ヶ月以上の休業を必要とするものでした。

▲出典:第 14 次労働災害防止計画(3)事故の型別 p5 

また、厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」でも、以下のように転倒は全労働災害の23%と4分の1を占めています。「転ぶだけで労働災害?」と意外に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、他の災害種別と比べて転倒による怪我のリスクは高いといえます。

▲出典:職場のあんぜんサイト 厚生労働省

労働災害についての基礎知識が知りたい方はこちらの記事も参考にしてください。事例や労災保険、対応手順について具体的に解説しています。

転倒事故が増えている背景

近年の転倒事故増加の背景には、高年齢の従業員の増加という社会課題が大きく関係しています。加齢に伴う筋力や反射神経の低下により、転倒リスクは自然と高まり、とくに女性の場合は骨粗しょう症などの影響で重症化しやすくなっています。

厚生労働省の「高年齢労働者の労働災害発生状況」によれば、60代女性の転倒事故発生率は20代女性の約16倍にも上ります。

▲出典:令和3年 高年齢労働者の労働災害発生状況|厚生労働省

また、高齢者は比較的軽作業の多いサービス業に従事する傾向があり、その受け皿となっているのが中小企業です。しかし人員やコストの制約から安全衛生対策が大企業に比べて十分とはいえない状況にあります。

このような職場環境と高齢労働者の身体特性が重なり、転倒事故の増加を招いているのです。

転倒事故による労働災害発生で企業が抱える経営上のリスク 

転倒事故による労働災害は、企業にとっても経営上のリスクを生みます。具体的には以下のような問題が発生します。

  • 休業補償と医療費負担
  • 人員不足による業務停滞
  • 社会的信用の低下

それぞれについて解説していきます。

休業補償と医療費負担

労働災害が発生すると、企業には労災保険による休業補償や医療費負担が発生します。被災者への補償は法的に義務づけられており、民事責任に基づく損害賠償請求が加わることもあります。

また、企業には労働者の安全配慮義務があり、これを怠ると安全配慮義務違反として損害賠償を請求されるリスクがあるため、適切な安全対策の実施が必須です。

人員不足による業務停滞

労働災害により従業員が長期離脱した場合、人員不足が生じ、業務停滞や生産性の低下が発生します。とくに現場管理者が被災した場合、安全管理体制そのものが揺らぎかねません。

職長や安全衛生責任者は法的責任も負うため、代替要員の確保も容易ではありません。結果として、業務の大幅な遅延や生産性の低下を招くことになります。

社会的信用の低下

労働災害は企業の社会的評価に大きな影響を与えます。刑事責任や行政処分により営業停止などの処分を受ければ、取引先との関係悪化は避けられません。

また、安全配慮を怠った企業というイメージは、新規取引や人材採用にも支障をきたします。その影響は長期にわたり、企業の存続すら脅かしかねません。

職場での転倒事故の主な要因と危険箇所

職場でおこる転倒事故の典型的なパターンとしては以下のように「滑り」「つまずき」「踏み外し」の3つです。

▲出典:転倒による労働災害が増加しています︕厚生労働省

日常的に「この程度なら問題ない」と見過ごしがちな段差や床の劣化、通路の障害物が、実は重大な事故につながっています。とくに高齢労働者にとって、些細な環境の乱れが重大な転倒リスクとなりえます。

次に転倒につながる主な危険要因を説明してきますので、企業は認識しておきましょう。

床面状態

床面状態は転倒事故の大きな要因となっています。たとえば、油や水による床の滑り、排水溝などの凹凸、出入口付近の段差、掃除不足による床面の汚れなどが典型的な危険箇所です。

とくに雨天時や清掃後は床面が滑りやすくなるため注意が必要です。また、長年の使用による床材の劣化や剥離も見逃せない危険要因となっています。

設備・作業環境要因

「設備・作業環境要因」も転倒事故の原因となります。照明が不十分な場合、足元や周辺が見えづらくなり、段差や障害物を見落としやすくなります。

さらに、通路幅が狭いと作業動線が悪くなり、無理な体勢での作業が転倒を引き起こす原因にもなります。他にも工具や物が通路に散乱していると、それを避けようとする際にバランスを崩してしまう危険性もでてくるでしょう。

作業方法に起因する要因

「作業方法に起因する要因」も見逃せません。従業員が無理な姿勢で作業していたり、重量物の運搬による姿勢が乱れていたりすると、バランスを崩して転倒するリスクが高まります。

とくに高齢社員は筋力や体幹力、バランス能力が若年層よりも低下しているため、安定した姿勢で作業できる環境を整えることが重要です。

高齢従業員の身体的な変化とリスク要因

高齢の従業員の多い企業では、高齢従業員の身体的な変化とリスク要因についても把握しておきましょう。

加齢に伴いバランス感覚や筋力が低下し、視力や認知能力にも変化が生じます。たとえば「つまずきやすい」「段差の認識が遅れる」「急な体勢の立て直しが難しい」などの特徴があります。

こうした身体的な変化に加え、高齢従業員は新しい設備や手順への適応が遅れることもあります。さらに、長年の経験から「自分は大丈夫」という過信があったり、若い頃からの作業習慣が抜けきらなかったりするため、リスクを見過ごしやすいのも特徴です。体力の衰えを周囲に知られたくないという心情から、無理な作業を行ってしまうケースといえるでしょう。

ちなみに、中小企業が高齢者を含む労働者の安全な労働環境を整えるために、労働災害防止対策や転倒・腰痛予防の専門家による運動指導などの取り組みに対して補助を行うエイジフレンドリー補助金という制度があります。

補助要件に該当するようであれば、これらを活用し、高齢従業員の視点に立った職場環境に役立てることができます。

(参考:「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(エイジフレンドリーガイドライン)」厚生労働省

また労働災害の保険を検討している方は、補償内容や申請方法について載っているこちらの記事も参考にしてください。

効果的な転倒防止策:低コストで始める現場改善

工場や作業場での転倒事故による労働災害は、従業員の安全を脅かすだけでなく、企業にとっても多大なコストを伴います。とくに高齢者が多い職場では、そのリスクが一層高まるため、ここでは以下のように費用対効果が高く、すぐに取り入れやすい転倒防止の取り組みを実施することが重要です。

  • 安全な床材や滑り止め設置などの設備改善
  • 照明や通路幅など作業環境の整備
  • 危険箇所の見える化、注意喚起のための表示やサインの工夫
  • 4S活動(整理・整頓・清掃・清潔)の実践
  • 転倒防止に有効な安全靴を選ぶ
  • 日常的な設備点検と管理

具体的な施策について解説します。

安全な床材や滑り止め設置などの設備改善

工場において、床材は転倒事故に大きく影響する要素です。滑りやすい床面を防ぐためには、滑り止め効果のある床材の選定が必要です。

たとえば、エポキシ樹脂の床や、ゴム製のマットを使用することによって、滑りを大幅に軽減することができます。また冬場などに凍結が心配な箇所は凍結しにくい材料の使用やヒートマットの設置を行いましょう。

工場内での油や水のこぼれの恐れがある箇所では、適切な排水設備や清掃体制を整えることも重要です。

階段や通路の端など、転倒リスクが高い箇所には、滑り止めテープやマットを設置することで安全性を向上させることができます。このような設備改善は、初期投資が比較的低く抑えられ、効果も直ちに実感できるため、非常に実用的です。

照明や通路幅など作業環境の整備

作業環境の整備も、転倒防止に重要な要素です。十分な照明が確保されていることにより、視認性が向上し、転倒リスクを軽減できます。とくに暗くなりやすい通路や階段は、明るい照明を設置することが望ましいです。

また、通路幅についても考慮する必要があります。通路が狭いと、従業員がすれ違う際にバランスを崩すリスクが高まります。可能であれば、通路の幅を広げるか、物品を配置する際には通路を確保することで、動線の確保を行うことが重要です。

ほかにも動線の見直しをしましょう。効率的で安全な作業動線を確保すれば、無駄な動きやリスクを減少させることができます。たとえば、頻繁に物品を運搬する作業の場合、運搬ルートを見直し、スムーズに移動できるようにすることにより、転倒リスクを軽減できます。

危険箇所の見える化、注意喚起のためのサインや表示の工夫

危険箇所を見える化するためには、適切な表示やサインが欠かせません。視認性の高い標識や注意喚起のポスターを配置することによって、従業員の意識を高めることができます。たとえば、転倒リスクのある場所には「滑りやすい」と明示したサインを設置すれば、従業員の注意を喚起できるでしょう。

さらに、定期的に研修を行い、転倒防止に関する情報を共有することも重要です。職場での危険箇所を具体的に説明し、実際に注意が必要なポイントを確認することにより、従業員の安全意識を高めることができます。

注意喚起には、厚生労働省が配布している転倒危険のステッカー及びマーカーを使用するとよいでしょう。

4S活動(整理・整頓・清掃・清潔)とKY活動の実践

4S活動(整理・整頓・清掃・清潔)とKY活動を実践することで、職場の安全性を向上させることができます。4S活動の内容は以下のとおりです。

整理必要なものと不要なものを区分し、不要なものを取り除くこと
整頓必要なものを決められた場所に配置し、いつでも使える状態を維持すること
清掃ゴミや汚れを取り除き、職場を清潔に保つことで問題点を明確にすること
清潔ゴミや汚れを取り除き、職場を清潔に保つこと・作業者も汚れのない状態を維持すること

4Sを実践することにより、作業環境が整い、転倒リスクが低下します。清掃を定期的に行うことも重要です。床に物が落ちていたり、液体がこぼれていたりすると、転倒の原因となるため、清掃作業を習慣化し、清潔な作業環境を維持する必要があります。

また、KY活動(危険予知活動)は、業務開始前に職場の潜在的な危険を話し合い、転倒への対策を決定することです。忙しい時間帯において4S活動がおろそかになることが多いです。過去に自社でおきた転倒事例を参考にしたKY活動も同時に実施し、転倒リスクを軽減しましょう。

転倒防止に有効な安全靴を選ぶ

転倒の主な原因である「滑り」と「つまずき」を軽減するためには、安全靴の選定が重要です。効果的な安全靴に求められる性能は以下の5点になります。

  • 靴の屈曲性
  • 軽量性(900g/足以下が推奨)
  • 靴の重量バランス
  • つま先部の高さ
  • 靴底と床の耐滑性のバランス

耐滑性能の高い靴底は、日本工業規格(JIS)やJSAA規格に基づくもので、動摩擦係数が0.2以上のものを選ぶとよいです。また、靴底の摩耗に注意し、寿命が来る前に交換することも大切になります。

日常的な設備点検と管理

転倒事故を未然に防ぐためには、日常的な設備点検と管理が不可欠です。定期的に設備や環境を点検し、問題が発見された場合には迅速に対応する体制を整えることが求められます。たとえば、床面のひび割れや劣化が見つかった場合は、即座に修繕作業を行うことが重要です。

また、管理者や現場責任者は、定期的に従業員に安全確認を行うよう促すことが必要です。問題があれば報告する仕組みを設けることにより、問題の早期発見と改善が可能となります。

ほかにも労働災害を防止するための対策全般について詳しく知りたい方はこちらの記事も参考にしてください。発生時に企業が負う責任と事例について詳しく紹介しています。

転倒による労働災害防止に効果的な従業員教育

転倒による労働災害は、とくに高齢従業員や身体的負担の大きい作業を行う従業員にとって大きなリスクとなります。そのため、従業員自身の安全意識を高め、リスクを認識するための教育や訓練が不可欠です。そこで転倒防止に効果的な従業員教育について紹介します。

年齢や作業内容に合わせた転倒予防教育

従業員の年齢や職務に応じた転倒予防教育を実施することは、効果的な取り組みのひとつとなります。たとえば、高齢者従業員には加齢に伴う身体的変化や転倒リスクの理解を深める転倒予防体操などを始業前に取り入れるとよいでしょう。

一方、若年層には疲労や作業姿勢、不安全行動(ポケットに手を入れて歩く、ながらスマホをする、通路を走るなど)が引き起こすリスクを周知し、意識を高めることができます。

教育内容は、座学だけでなく、実際の作業環境に即した実践形式にすると、より具体的にリスクを認識できるようになるのでおすすめです。

ヒヤリ・ハット制度の導入

職場内でのヒヤリ・ハット(事故の未遂)制度の導入は、転倒災害を防ぐための有効な手段です。積極的にヒヤリ・ハットの報告をしてもらうことにより、企業は現場での安全策を考えらえ、従業員は自らの行動や職場環境に対する危険を認識し、改善策を考える機会が増えます。

定期的に報告された事例を共有し、職場全体で学び合う文化を醸成することが大切です。このような報告制度は、従業員の安全意識を向上させるだけでなく、職場環境の改善にもつながります。

経営者のサポートとリーダーシップ

経営者の強力なサポートとリーダーシップは、転倒防止の取り組みを成功に導く重要な要素です。安全教育や訓練に対する経営者の理解と支援があれば、従業員は安心して参加し、自発的にリスクを認識しやすくなります。

たとえば、ヒヤリハットの導入に対し「仕事が増える」「ミスを責められている気がする」と思う従業員もいるでしょう。しかし、経営者が自らヒヤリ・ハット制度を推進し、「ミスを責めるのではなく、従業員の安全を守るため」と報告の重要性を強調することによって、従業員はこの制度に対する意義を理解し、積極的に活用するようになります。

経営者の姿勢が従業員に強いメッセージを伝えれば、職場全体の安全意識が高まり、転倒による労働災害の防止につながります。

会社が従業員を守る転倒防止対策の進め方

転倒は注意していても起こる事故です。企業は、従業員を危険から守る姿勢を常に持つことが重要です。これにより、従業員は安心感を得られ、職場全体の安全文化が築かれていきます。

企業の積極的な取り組みによって、転倒による労働災害を効果的に防止し、従業員の安全を確保することができます。この結果、生産性の向上にもつながるのです。

また、企業は労働災害に対してだけでなく、自然災害が発生した際にも従業員を守る責任があります。そのためには、事業継続計画(BCP)の策定も重要です。BCPとは、災害などの緊急事態が発生しても事業を中断させない、または中断しても迅速に復旧させ、従業員や関係者の安全を確保するための計画です。

BCP策定には、トヨクモの「BCP策定支援サービス(ライト版)」が効果的な解決策となりえます。最短1ヶ月でBCPマニュアルを作成でき、月額15万円(税抜)からと低価格です。社内リソースが限られている企業や専門知識のない企業に最適といえます。

転倒防止や危機管理に真剣に取り組む経営者は、ぜひこの機会にトヨクモの「BCP策定支援サービス(ライト版)」を検討してみてはいかがでしょうか。

イベント・セミナー

オンライン

トヨクモ防災DAY 2025

  • 開催:2025/01/28
  • オンライン

お役立ち資料


私たちのサービス

もしもの安心を、
かんたんに。

被災時情報収集・対応指示を効率化

想定外に、たしかな安心「安否確認サービス2」
パソコンとスマートフォンで安否確認サービスを開いている