職場での熱中症が労働災害になる条件とは?企業がするべき予防と対策も解説

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遠藤 香大(えんどう こうだい)

近年、記録的な猛暑が続いており、熱中症により搬送される方は毎年数万人を超え、死亡者も高い水準となっています。とくに屋外や高温環境で作業する従業員の健康被害が近年増加傾向にあり、熱中症が労働災害として認定されるケースも増えています。

企業において従業員の熱中症対策は重要な問題です。そこでこの記事では、従業員の熱中症が労働災害に該当する条件や、企業が行うべき熱中症対策について詳しく解説します。

職場での熱中症による労働災害の発生状況

近年、日本の夏は気候変動の影響で猛暑日が増加しており、職場での従業員の熱中症が深刻な問題となっています。

ここでは厚生労働省の統計データに基づき、職場における熱中症の発生状況と企業が負うべき責任について解説していきます。

熱中症の発生状況と傾向

厚生労働省の統計によると、以下のように2018年以降の職場における熱中症の死傷者数は高水準で推移しており、2023年は1106件が報告されています。また死亡者数は2021年以降、右肩上がりで増加傾向にあり、従業員の熱中症は深刻な問題となっています。

▲出典:職場でおこる熱中症 熱中症の発生状況(2014~2023年) 厚生労働省

この統計によると発生時期には、次の特徴がみられます。

  • 7月から8月に全体の約75%が集中
  • とくに梅雨明け直後の発生率が高い
  • 午前10時から午後4時までの時間帯に多発

時間帯としては午後3時台に発生することが多く、次いで午前11時台、また帰宅後に体調不良となり病院搬送されるケースも少なくありません。

また熱中症にかかりやすい従業員の特徴として、以下が挙げられます。

  • 熱中症対策をしていないベテランの一人親方
  • 経験年数が少ない一人親方
  • 働き盛りの50代、次いで30代、40代
  • 暑熱順化できていない作業開始直後の労働者

長年現場で作業をしてきて「自分は大丈夫」だと熱中症対策をしていない一人親方が熱中症にかかるケースも少なくありません。夏場の環境は以前と異なり過酷になっているため、過信は禁物です。

業種別の発生状況

熱中症による労働災害は、業種によって発生率に大きな差があります。リスクが高いのは、屋外作業を伴う建築業や運送業と、工場内作業がメインとなる製造業です。

▲出典:職場でおこる熱中症 熱中症による業種別死傷者数(2019~2023年計) 厚生労働省

建設業や運送業では、直射日光を浴びる中での作業や、身体に負担のかかる業務が行われるため、熱中症のリスクが他の業種よりも高まります。とくに建設業では、猛暑日の現場作業が続く場合、体温が異常に上昇し、重篤な熱中症に至るケースが多く報告されています。

一方、製造業やその他に含まれる工場内作業は、屋内にもかかわらず熱中症が多発しているのが現状です。工場内は暑くなりやすい環境であることが原因です。機械や設備からの放熱で工場内の室温が上昇し、危険な状態になることもあります。このため、屋内作業でも従業員の体調管理や環境整備は不可欠です。

熱中症の重症度別の分析

労働災害として報告される熱中症の事例は、その重症度によっても異なります。軽度の熱中症であれば、めまいや脱力感、発汗異常などが主な症状として現れるが、重症化すると意識障害や昏睡状態、最悪の場合、早急に処置をしなければ死亡に至ることもあります。

厚生労働省が発表している「職場のあんぜんサイト」によると、熱中症は下表のとおり症状により重症度I〜Ⅲ度に分類できます。

重症度症状対応方法
重症度Ⅰめまい、立ちくらみ、なまあくび、多量の発汗、筋肉痛など現場での応急処置
重症度Ⅱ頭痛、嘔吐、倦怠感、判断力の低下など早急な医療機関への受診
重症度Ⅲ意識がない、呼びかけに応じない、けいれんなど救急搬送

医療施設では主に重症度Ⅱ~Ⅲの熱中症患者が搬送されてきます。患者には現場で適切な処置がされずに症状が急激に悪化したり、無理して作業を続けて重症化したりするケースが多くみられます。

熱中症は早期対応が遅れると、症状が急変しやすく、最悪の場合、早期に死亡する可能性があります。そのため、企業は常に従業員の休憩時間の確保や健康状態の把握に努めることが重要です。

また、職場内で体調不良が発生した際に迅速に発見できるよう、従業員同士での体調確認や応急処置の教育も徹底し、重症化防止を図ることが求められます。

熱中症が労働災害認定される条件とは?

職場で発生する熱中症は、特定の条件を満たすと「労働災害」として認定され、労働災害保険の対象となります。公益財団法人労災保険情報センターによると、労働災害としての熱中症認定には、以下の「一般的認定要件」と「医学的診断要件」の2つの条件を満たす必要があります。

【一般的認定要件】
業務上の突発的またはその発生状態を時間的、場所的に明確にし得る原因が存在すること当該原因の性質、強度、これが身体に作用した部位、災害発生後発病までの時間的間隔等から災害と疾病との間に因果関係が認められること業務に起因しない他の原因により発病(または増悪)したものでないこと
【医学的診断要件】
作業条件および温湿度条件の把握一般症状の視診(けいれん、意識障害等)及び体温の測定作業中に発生した頭蓋内出血、脳貧血、てんかん等による意識障害等との鑑別判断

【一般的認定要件】
業務上の突発的またはその発生状態を時間的、場所的に明確にし得る原因が存在すること当該原因の性質、強度、これが身体に作用した部位、災害発生後発病までの時間的間隔等から災害と疾病との間に因果関係が認められること業務に起因しない他の原因により発病(または増悪)したものでないこと
【医学的診断要件】
作業条件および温湿度条件の把握一般症状の視診(けいれん、意識障害等)及び体温の測定作業中に発生した頭蓋内出血、脳貧血、てんかん等による意識障害等との鑑別判断

(引用:公益財団法人労災保険情報センター

労働災害の基礎知識について詳しく知りたい方は、こちらの記事もぜひ参考にしてください。

一般的認定要件

まず、職場での熱中症が労働災害と認められるには、以下の一般的な条件を満たす必要があります。

業務における明確な原因

熱中症が発生した要因が業務上の環境や状況に関連している必要があります。たとえば、業務中に暑さにさらされていたり、時間や場所が特定できる環境で発生したりする場合が該当します。

因果関係の認定

業務の環境や状況が身体にどのように影響を及ぼしたかを考慮し、熱中症の発症と仕事環境との因果関係が認められる必要があります。たとえば、高温の屋外で業務を行い、休憩が不十分な状況が続いたことなど、業務と体調不良の直接的な関係性が求められます。

業務に関係しない原因ではない

労働災害として認定されるには、業務外の要因で発病した場合でないことが条件となります。たとえば、持病の悪化が主な原因である場合や帰宅後の自宅での環境が暑い場合は、労働災害には認定されません。

医学的診断要件

さらに、熱中症の労働災害認定には以下の医学的な判断が必要とされます。

作業条件および温湿度条件の確認

発生当時の作業条件や環境の温湿度状況を把握し、労働環境が熱中症を引き起こし得るものであったかどうかを確認します。

身体症状の観察と体温測定

熱中症の代表的な症状であるけいれんや意識障害などが発現しているかどうかを視診により確認し、体温の測定も行います。

他の意識障害との鑑別

頭蓋内出血や脳貧血、てんかんなど作業中でも起こり得る熱中症以外の疾患による意識障害との鑑別が行われ、熱中症による意識障害であるかを判断します。

熱中症が労働災害として認定される事例

熱中症が労働災害として認定される事例として、「高温の屋外で休憩を取らずに多忙な作業を続けていた」場合や、「身体的負荷の高い環境下で業務を行い、熱中症リスクが高まっいた」などが挙げられます。認定には医師の診断も必要です。

業務環境が熱中症の原因とされる状況下であれば、労働災害認定の対象となります。しかし、業務外の要因や持病の悪化が主因の場合は認定対象外です。

また、通勤中に熱中症を発症した場合も、一定の条件を満たせば「通勤災害」として労災保険の対象となる可能性があります。

以下の記事では通勤災害について紹介しています。興味のある方はこちらも参考にしてください。

企業が取るべき熱中症予防の基本対策

職場での熱中症予防には、従業員が安全に働ける環境を提供することが不可欠です。企業は労働災害リスクを回避するための効果的かつ実施可能な対策を講じることが求められています。以下に企業が取るべき基本的な対策を示します。

作業環境の改善

職場の温度と湿度を適切に管理することが熱中症対策の基本です。たとえば、エアコンや扇風機を活用して空気の流れを確保し、室内の温度を適度に保つようにしましょう。

屋外作業が中心の場合、日陰を確保するためにテントやパラソルを設置して、定期的に涼しい場所で休憩をとれるようにするなどの工夫も重要です。とくに、熱中症のリスクが高い真夏の時期には、職場全体で冷却グッズを活用したり、ミスト扇風機の設置をしたりするとよいでしょう。

水分補給と塩分摂取の指導

汗をかくと体内の水分と塩分が失われるため、適切な水分補給と塩分の摂取が欠かせません。従業員には、こまめな水分補給の重要性を伝え、水やスポーツドリンクを随時飲める環境を整えましょう。

さらに、塩分補給を促すために塩飴や経口補水液の提供を行い、高温の作業を行う際は水分・塩分摂取の指導を徹底する必要があります。

休憩時間や作業時間の管理

長時間の作業や過度の労働は、熱中症の発症リスクを高めます。休憩時間の確保はもちろん、気温が高い時間帯の作業を避けるために、シフトの調整が望ましいです。たとえば、早朝や夕方など比較的涼しい時間に作業を集中させるといった配慮などが考えられます。

また、作業が長時間に及ぶ場合や、高温下での作業時には定期的な休憩時間を設け、体温が上昇するリスクを抑えるよう促すとよいでしょう。

事前研修と熱中症の兆候に関する啓発

熱中症リスクの高い従業員に対しては熱中症の基本知識と予防策に関する研修を行い、体調変化の兆候に気づけるよう指導することが重要です。

頭痛、めまい、吐き気などの初期症状や、重篤化の際の対処法について周知し、異変を感じた場合にはすぐに上司や同僚に報告するように指導します。

また作業開始前と作業開始後に簡単な健康チェックを行い、体調が悪い場合は休養させるような配慮も大切です。

さらに、迅速な対応ができるよう、応急処置方法や連絡体制を整えておくことも重要です。社内で連絡網を整えておけば、真夏の時期の熱中症警報を周知でき、従業員に警戒態勢を取らせることもできるでしょう。

以下の記事では熱中症だけでなく「労働災害を防止するための対策」について具体的に説明されています。ぜひ参考にしてください。

緊急発生時の連絡体制にはトヨクモの『安否確認サービス2』がおすすめ

トヨクモの『安否確認サービス2』は、従業員の安否を迅速に確認できるシステムです。災害時はもちろん、日頃の従業員の健康管理や、熱中症の発症時にも有効です。

従業員の体調変化を記録する機能を提供しており、日々の体調チェックや異変時の迅速な対応に役立ちます。

とくに、夏場の業務においては熱中症の早期発見と即時対応が不可欠であり、安否確認サービス2導入により労働災害のリスク軽減が期待できます。

企業は従業員の安全確保を第一に考え、予防の呼びかけやスムーズな連絡体制などを組み合わせ、万全の熱中症対策を実現しましょう。

上田組:『安否確認サービス2』による熱中症リスク管理と迅速な情報共有

建設業を営む上田組では、季節雇用の従業員も多いため、情報共有や安否確認に課題を抱えていました。そこでトヨクモの安否確認サービス2を導入し、夏季における熱中症リスクが高まる時期に、「熱中症警報」や「体調管理の注意事項」を社内全体に迅速に通知しました。これにより、従業員の体調管理がしやすくなり、予防意識も向上しています。

このシステム導入により、従来の手作業での確認方法に比べ、回答率が50%から75〜90%へと向上し、全社の防災意識や対策も強化されました。また、定期的な安否確認訓練を通じて、危機管理能力が向上し、効率的な体調確認体制の構築にも成功しています。

トヨクモ 安否確認サービス2導入事例 株式会社上田組

熱中症の労働災害リスクを減らすために企業ができること

企業における熱中症対策は、従業員の生命と健康を守るだけでなく、企業の持続的な発展にとっても重要な課題です。予防策として、作業環境の改善、適切な休憩時間の確保、水分・塩分補給の徹底などを徹底しましょう。

また、定期的な研修や訓練を通じて従業員の意識向上を図り、作業環境の定期的な見直しと改善を行うことも不可欠です。これらの対策は、法的責任を果たすだけでなく、企業の社会的信頼性向上にもつながります。

今後は、気候変動による熱中症リスクがさらに高まると予想され、より一層の予防対策の強化と、迅速な対応体制の整備が求められています。企業は従業員の安全を最優先に考え、継続的な改善に取り組むようことが重要です。

トヨクモの『安否確認サービス2は、従業員の体調を把握したり、熱中症警報を周知するために、各種連絡機能を活用できます。また、導入すると熱中症に限らず緊急時に従業員やその家族の安否確認をスムーズに行えます。興味がある方は、30日間の無料お試し期間があるため、お気軽にお申込みください。

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