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労働災害時に活用できる保険制度とは?補償内容や申請方法を詳しく解説

企業には従業員を守る義務があり、常に安全に働ける職場環境を整えておく必要があります。しかし、十分な体制を整えていても労働災害が発生し、従業員が被災する可能性もゼロではありません。労働災害が起こったときは、労災保険制度を活用して従業員やその家族の生活を守らなければいけません。

この記事では、労働災害における保険制度の概要や補償内容を紹介します。申請方法も解説しているので、あわせて参考にしてください。

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編集者:坂田健太(さかた けんた)

トヨクモ株式会社 マーケティング本部 プロモーショングループに所属。防災士。
2021年、トヨクモ株式会社に入社し、災害時の安否確認を自動化する『安否確認サービス2』の導入提案やサポートに従事。現在は、BCP関連のセミナー講師やトヨクモが運営するメディア『みんなのBCP』運営を通して、BCPの重要性や災害対策、企業防災を啓蒙する。

労働災害における保険制度とは

労働災害が起こったとき、事業者は労災保険制度を活用して、従業員やその家族を守る必要があります。

労災保険制度とは業務によって従業員が怪我や疾病などを患った場合、必要な給付を通じて被災従業員の社会復帰を支援する制度です。労災保険制度で支払われる給付金は、基本的に事業主が負担する保険料で賄われています。

まずは、労災保険制度の詳細を解説します。

加入条件と手続き方法

労災保険は原則、従業員を1人でも雇用しているすべての企業に適用されます。業種の規模は問わないため、どのような事業規模であっても労災保険が適用されます。

なお、労災保険に加入する際の手続きは以下のとおりです。

  • 労働保険の保険関係成立届を所轄の労働基準監督署または公共職業安定所に提出する
  • その年度分の労働保険料を概算保険料として申告・納付する

保険関係成立届とは、労働保険の適用事業所と加入者である従業員との保険関係が成立したときに提出する書類です。従業員を雇用した日の翌日から換算して10日以内に届け出なければいけません。従業員の雇用が決まったら、忘れずに手続きしましょう。

(参考:厚生労働省|労働保険の成立手続

適用者

労災保険は雇用する従業員の雇用形態に決まりはなく、パートやアルバイトなどの非正規雇用者も対応となります。しかし、労災保険の適用者は事業主に雇用されている従業員に限定されるため、事業主本人は対象外です。

労働者以外の方でも、業務の実態や被災状況から見て従業員に準じて保護するのが相応しいと判断された場合に特別に加入できる「特別加入制度」があります。2024年11月からは従来の労災保険の対象ではなかった一部のフリーランスも労災保険の特別加入対象となり、幅広い人を支援できるようになります。

労災保険特別加入制度によって一定の条件を満たせば、従業員と同様に給付を受けられます。たとえば、従業員と同じように労働する事業主や建築事業などに多い一人親方などは、労災保険特別加入制度の対象になることが多いです。

ただし、労災保険特別加入制度が適用されていても、従業員と同等の労働をしていないときに起こった労働災害は補償対象外になります。経営に関わる業務中に発生した労働災害は認められないため注意が必要です。

(参考:厚生労働省|令和6年11月から「フリーランス」が労災保険の「特別加入」の対象となります

(参考:厚生労働省|労災保険への特別加入

保険適用となる労働災害の種類

労災保険の適用となる労働災害は、以下の2種類があります。

  • 通勤災害
  • 労働災害

それぞれについて解説します。

通勤災害

通勤災害とは通勤中に生じた事故や疾病、障害、死亡のことです。自宅からの出社時や帰宅時、業務での外出先からの移動などが含まれます。

ただし、通勤災害として認められるのは、あらかじめ申告したルートを通って移動したときに限られます。平常時と大きく異なる道を通って通勤・移動したときは、通勤災害として認定されないケースもあるため注意が必要です。

通勤中や移動中はいつ事故に巻き込まれるか分からないため、従業員には正規のルートを通って移動するよう指導しておくことが重要です。

業務災害

業務災害とは業務中に生じた事故や疾病、障害、死亡のことです。自社内のみならず、業務によって訪問した場所で労働災害が起きた場合も業務災害として認定されるケースがあります。なお、業務災害として認定されるかどうかは以下の2点を考慮したうえで判断されます。

  • 業務遂行性:事業主の指示のもと業務を遂行しているかどうかで判断する
  • 業務起因性:業務が原因で事故が起こったかどうかで判断する

上記の判断項目から分かるように、業務外で事故や怪我などを負った場合は業務災害として認定されないため注意しましょう。

なお、労働災害の詳細や従業員が被災したときの対応方法などは、以下の記事で詳しく解説しています。労働災害への理解を深めたい方は、あわせて参考にしてください。

労働災害における保険の補償内容

労働災害における保険の補償内容は以下のとおりです。

  • 療養(補償)給付
  • 休業(補償)給付
  • 障害(補償)給付
  • 遺族(補償)給付
  • 葬祭料
  • 傷病(補償)年金
  • 介護(補償)給付
  • 二次健康診断等給付

それぞれについて解説します。

療養(補償)給付

療養(補償)給付とは、業務中また通勤中に怪我をしたり疾病にかかったりした場合に受け取れる給付制度です。「療養の給付」と「療養の費用の支給」の2種類があり、それぞれの違いは以下のとおりです。

  • 療養の給付:労災病院や労災保険指定医療機関・薬局などを受診した際、無料で治療を受けられる
  • 療養の費用の支給:上記以外の医療機関や薬局などを受診した場合に、かかった費用を支給する

どちらの制度も傷病が治ゆするまで受けられるため、治療にかかる費用負担を軽減できます。

ちなみに、治ゆとは、傷病の症状が安定して医学上一般的に認められた医療を行っても効果が期待できない状態を指します。

(参考:厚生労働省|療養(補償)等給付 の請求手続

休業(補償)給付

休業(補償)給付とは、業務中また通勤中に怪我をしたり疾病にかかったりしたことによって療養が必要な場合に受け取れる給付制度です。

休業3日目までは事業主が労働基準法に基づき休業補償(1日につき平均賃金の60%)を補償する義務があります。4日目以降からは、労災保険法に基づいた休業補償が従業員へ給付されます。

なお、給付対象となるのは、以下の3つの条件を満たした場合に限られるため注意が必要です。

  • 業務中また通勤中に生じた怪我や疾病などによる療養
  • 労働できない
  • 賃金をもらっていない

1つの事業所にのみ勤めている従業員の場合は、以下の計算式に沿って支給額が決定します。

休業補償給付=(給付基礎日額の60%)×休業日数休業特別支給金=(給付基礎日額の20%)× 休業日数
※給付基礎日額とは原則、労働基準法の平均賃金に相当する額を指す

(引用:厚生労働省|休業(補償)等給付 傷病(補償)等年金 の請求手続

傷病(補償)年金

傷病(補償)年金とは、業務中または通勤中に負った怪我や疾病などに対して、療養開始後1年6ヵ月を経過、もしくはその日以降以下の条件を満たすと受け取れる給付制度です。

  • 怪我や疾病が治っていない
  • 怪我や疾病による障害の程度が傷病等級表の傷病等級に該当する

傷病等級に応じて、以下の金額を受け取れます。

第1級第2級第3級
傷病(補償)年金給付基礎日額の313日分給付基礎日額の277日分給付基礎日額の245日分
傷病特別支給金(一時金)114万円107万円100万円
傷病特別年金算定基礎日額の313日分算定基礎日額の277日分算定基礎日額の245日分

※算定基礎日額とは原則、業務中または通勤中による怪我など原因である事故が発生した日、もしくは診断によって発病が確定した日以前の1年間に従業員が受け取った特別給与の総額(算定基礎年額)を365で割った額を指す。

(参考:休業(補償)等給付 傷病(補償)等年金 の請求手続

障害(補償)給付

障害(補償)給付とは、業務中または通勤中に負った怪我や疾病などによって、体に一定の障害が残ったときに受け取れる給付制度です。障害の程度に応じて、以下の給付を受けられます。

障害等級受けられる給付
第1級~第7級・障害(補償)等年金
・障害特別支給金
・障害特別年金
第8級~第14級・障害(補償)等一時金
・障害特別支給金
・障害特別一時金

具体的な支給額は、以下のとおりである。

▲出典:厚生労働省|障害(補償)等給付 の請求手続

なお、障害等級が第1または2級で胸腹部臓器や神経系統、精神の障害があり、介護を受けている場合は後述する介護(補償)給付を受給できます。

(参考:厚生労働省|障害(補償)等給付 の請求手続

介護(補償)給付

介護(補償)給付とは障害(補償)給付または傷病(補償)年金の受給者のうち、障害等級・傷病等級が第1級の方と第2級の「精神神経・胸腹部臓器の障害」を有している方が介護を受けている場合に受け取れる給付制度です。

障害の状態は常時介護と随時介護に分けられ、それぞれの状態は以下のとおりです。

障害の状態
常時介護①精神神経・胸腹部臓器に障害があり、常に介護を必要とする②両目を失明する・両腕を亡失するなど①と同程度の介護を必要とする
随時介護①精神神経・胸腹部臓器に障害があり、日常生活の一部に介護を必要とする②障害等級第1級または傷病等級第1級に該当するものの、常時介護が必要な状態ではない

なお、介護(補償)給付の支給要件は以下のとおりです。

給付要件支給額
常時介護親族や友人などから介護を受けていない介護費用にかかった額(ただし、上限は177,950円)
親族や友人などから介護を受けている・介護費用を出していない、もしくは出した費用が81,290円を下回る場合:一律81,290円・介護費用を出しており、81,290円を上回る場合:かかった費用分(上限177,950円)
随時介護親族や友人などから介護を受けていない介護費用にかかった額(ただし、上限は88,980円)
親族や友人などから介護を受けている・介護費用を出していない、もしくは出した費用が40,600円を下回る場合:一律40,600円・介護費用を出しており、40,600円を上回る場合:かかった費用分(上限88,980円)

(参考:厚生労働省|介護(補償)等給付 の請求手続

遺族(補償)給付

遺族(補償)給付とは、労働災害によって亡くなった従業員の遺族に対して支給される給付制度です。受給資格者のうちの最先順位者に対して支給され、その給付額は遺族の人数によって異なります。

遺族の人数遺族(補償)年金遺族特別支給金(一時金)遺族特別年金
1人給付基礎日額の153日分(例外あり)300万円算定基礎日額の153日分(例外あり)
2人給付基礎日額の201日分算定基礎日額の201日分
3人給付基礎日額の223日分算定基礎日額の223日分
4人以上給付基礎日額の245日分算定基礎日額の245日分

なお、遺族(補償)給付の受給資格があるのは労働者の収入によって生計を維持していた配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹とされています。しかし、妻以外の遺族については高齢・年少・一定の障害状態にあるという条件がある点に注意しましょう。

たとえば、従業員が障害のない20歳の息子を養っていた場合、遺族(補償)給付の対象から外れるため、遺族(補償)一時金が給付されます。遺族(補償)一時金の支給額は、以下のとおりです。

遺族(補償)一時金遺族特別支給金遺族特別一時金
給付基礎日額の1,000日分300万円算定基礎日額の1,000日分

(参考:厚生労働省|遺族(補償)等給付 葬祭料等(葬祭給付) の請求手続

葬祭料

葬祭料とは、労働災害によって亡くなった従業員の葬祭を行った場合に支給される給付制度です。通常、葬祭を行うに相応しい遺族に対して支給されるものの、社葬を行った場合は企業に対して給付されます。

葬祭料の給付額は、315,000円に給付基礎日額の30日分を加えた額です。この額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は、給付基礎日額の60日分を受け取れます。

(参考:厚生労働省|遺族(補償)等給付 葬祭料等(葬祭給付) の請求手続

二次健康診断等給付

二次健康診断等給付とは、労働安全衛生法に基づいて行われる定期健康診断等のうち、直近に行われた健康診断において、脳・心臓疾患に関する一定の項目に異常が見られた場合に受け取れる給付制度です。具体的には、以下の項目すべてに異常が見られた場合が適応となります。

  • 血圧検査
  • 血中脂質検査
  • 血糖検査
  • 腹囲の検査またはBMIの測定

なお、血圧検査と腹囲の検査またはBMIの測定で異常なしと診断された場合であっても、産業医が総合的な判断のもと異常の所見があると診断した場合は適応となる点に注意しましょう。二次健康診断等給付は、二次健康診断と特別保健指導を無料で受けられます。

(参考:厚生労働省|二次健康診断等給付 の請求手続

労働災害における保険の申請方法

労働災害における保険を活用する場合は、以下の手順で申請しましょう。

  • 該当する補償に合わせた請求書を作成する
  • 請求書と必要書類を労働基準監督署に提出する

それぞれについて解説します。

1.該当する補償に合わせた請求書を作成する

まず、受けたい補償に合わせた請求書を用意し、必要事項を記載します。請求書には事業主の署名が必要となるため、手続きを行う場合は迅速に対応しましょう。

なお、記載内容は利用する給付制度によって異なります。請求書を用意したら詳細をチェックし、必要に応じた準備をしてください。各請求書は以下からダウンロードできます。

厚生労働省|主要様式ダウンロードコーナー(労災保険給付関係主要様式)

2.請求書と必要書類を労働基準監督署に提出する

請求書を作成したら補償に応じて必要となる書類を準備し、労働基準監督署に提出します。労働基準監督署は請求書や書類などを考慮したうえで労働災害に該当するかを判断し、給付の有無を決定します。

なお、給付制度ごとに以下のような手続き期限が設けられており、その期限を過ぎると給付を受けられる権利が失効する点に注意しましょう。そのため、該当する従業員がいる場合は、早急に手続きを進めてください。

手続きの期限該当する給付制度
3ヵ月・二次健康診断等給付
2年・療養(補償)給付
・休業(補償)給付
・介護(補償)給付
・葬祭料
5年・障害(補償)給付
・遺族(補償)給付

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編集者:坂田健太(さかた けんた)

トヨクモ株式会社 マーケティング本部 プロモーショングループに所属。防災士。
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