第14次労働災害防止計画とは|指標や8つの重点対策について解説

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遠藤 香大(えんどう こうだい)

2023年4月から、第14次労働災害防止計画が始まりました。この計画は、すべての労働者の安全と健康を確保することを目指しているものであり、事業者と労働者が協力して取り組むことが求められています。労働災害の防止は企業の義務であるため、第14次労働災害防止計画について理解しておきましょう。

この記事では、第14次労働災害防止計画の概要や指標について説明します。後半では、8つの重点対策についても解説するため、労働災害防止計画について理解を深めたい方や、労働災害防止の取り組みを見直したい方は参考にしてください。

第14次労働災害防止計画とは

第14次労働災害防止計画とは、労働災害を減少させることを目的に、国が重点的に取り組む事項を定めた中期計画のことです。事業場の規模や、雇用形態、年齢などにかかわらず、すべての労働者の安全と健康を確保し、多様な働き方において一人ひとりが潜在力を十分に発揮できる社会の実現を目指しています。

厚生労働省は2023年3月8日に第14次労働災害防止計画を策定し、3月27日に公示しました。計画期間は2023年4月から2028年3月までの5年間となっています。

第14次労働災害防止計画のアウトプット指標・アウトカム指標

第14次労働災害防止計画では、目標達成の進捗状態を把握するために、後述する重点対策ごとにアウトプット指標アウトカム指標を定めています。

アウトプット指標とは、事業活動を通じて直接発生した成果物や事業量を数値で表したものです。一方、アウトカム指標とは、事業の実施によって得られる効果や成果のことです。

第14次労働災害防止計画で目指す社会について

第14次労働災害防止計画の目指す社会を簡単に言えば、誰もが安全で健康に働ける社会です。中小事業者を含めたすべての事業者において、事業場の規模、雇用形態、年齢などにかかわらず、働く人々の安全と健康を確保し、一人ひとりが持てる力を最大限に発揮できる社会の実現を目指しています。

この社会の実現に向けて、事業者や労働者などすべての関係者が安全衛生対策の重要性を認識し、真摯に取り組まなければなりません。また、消費者やサービス利用者に対しても、事業者が行う安全衛生対策の必要性や、事業者から提供されるサービスの料金に安全衛生対策にかかる費用が含まれることへの理解が求められています。

労働者の安全衛生対策を費用ではなく人的投資と捉えている点も、第14次労働災害防止計画の特徴です。近年、労働者の安全衛生対策は、人材確保の面でもプラスに働くと考えられ始めています。このようななかで、安全衛生対策に積極的に取り組む事業者が社会的に評価される環境づくりの実現も望まれています。

第14次労働災害防止計画の8つの重点対策

労働災害防止計画では、労働者の安全と健康を確保するために8つの重点対策を定めています。これらの対策は、事業者と労働者が協力して取り組むべきものです。

  • 自発的に安全衛生対策に取り組むための意識啓発
  • 労働者(中高年齢の女性を中心に)の作業行動に起因する労働災害防止対策の推進
  • 高年齢労働者の労働災害防止対策の推進
  • 多様な働き方への対応や外国人労働者等の労働災害防止対策の推進
  • 個人事業者等に対する安全衛生対策の推進
  • 業種別の労働災害防止対策の推進
  • 労働者の健康確保対策の推進
  • 化学物質等による健康障害防止対策の推進

以下、それぞれの対策について詳しく説明していきます。

自発的に安全衛生対策に取り組むための意識啓発

この対策では、事業者の自発的な安全衛生への取り組みを促進するための環境整備を目指しています。

事業者には、安全衛生対策や産業保健活動の意義を理解し、必要な安全衛生管理体制を確保したうえで、事業場全体として主体的に労働者の安全と健康保持増進のための活動に取り組むことが求められます。また、国や労働災害防止団体が提供する支援、労働安全衛生コンサルタントの活用を通じて、自社の安全衛生活動を推進することも期待されています。

一方、国や関係機関は、この取り組みを支援するため、安全衛生優良企業公表制度やSAFEコンソーシアム、健康経営優良法人認定制度などの既存の制度を活用し、安全衛生対策に積極的に取り組む事業者の見える化を進めます。また、人的資本可視化指針に基づく健康・安全関連情報の開示支援や、中小事業者向けの実利的なメリットの研究・周知、労働災害防止団体との連携による支援など、多角的な取り組みを行います。

労働者(中高年齢の女性を中心に)の作業行動に起因する労働災害防止対策の推進

この対策は、転倒災害が多発している中高年齢の女性労働者を中心とした労働災害防止を図るものです。

事業者には、加齢による骨密度低下が顕著な中高年齢女性の転倒災害リスクへの認識と対策が求められています。具体的には、運動プログラムの導入やスポーツ習慣化による筋力維持・転倒予防の取り組み、非正規雇用労働者を含むすべての労働者への安全衛生教育の徹底、そして「職場における腰痛予防対策指針」に基づく対策を実施します。

一方、国と関係機関は、これらを支援するため、健康経営優良法人認定制度などの関連施策との連携、転倒防止のための装備・設備の普及促進、介護職員向けのノーリフトケア導入支援などに取り組みます。

アウトプット指標アウトカム指標
転倒災害対策(ハード・ソフト両面)を実施する事業場
⇨2027年までに50%以上

卸売業・小売業、医療・福祉分野の非正社員への安全衛生教育実施率
⇨2027年までに80%以上

介護・看護作業でのノーリフトケア導入事業場の割合
⇨2023年比で増加
転倒の年齢層別の死傷年千人率
⇨2027年までに男女とも増加に歯止め

転倒による平均休業見込日数
⇨2027年までに40日以下

社会福祉施設における腰痛の死傷年千人率
⇨2027年までに2022年比で減少

高年齢労働者の労働災害防止対策の推進

この対策では、高齢化が進む職場での労働災害を防ぐため、「エイジフレンドリーガイドライン」に基づいた取り組みを進めます。

事業者は、高年齢労働者の就労状況に配慮した安全衛生管理体制を整え、職場環境の改善に取り組むことが求められます。特に転倒災害のリスクが高いことにより、その予防対策を重点的に実施します。また、健康診断情報を電子的に管理し、プライバシーに配慮しながら保険者と連携して疾病予防や健康づくりを進める「コラボヘルス」にも取り組みます。

それに対し、国や関係機関は、ガイドラインの普及啓発を行います。さらに、転倒防止対策の検討を進め、健康診断情報の活用やコラボヘルス推進のための費用支援も行います。

アウトプット指標アウトカム指標
高年齢労働者の安全衛生確保の取組を実施する事業場の割合
⇨2027年までに50%以上
60歳代以上の死傷年千人率
⇨2027年までに男女とも増加に歯止め

多様な働き方への対応や外国人労働者等の労働災害防止対策の推進

この対策では、テレワークや副業・兼業の増加、外国人労働者の増加という働き方の多様化に対応した労働災害防止を目指します。

事業者は、「テレワークガイドライン」に基づいてテレワークを導入し、労働者の安全と健康の確保に取り組まなければなりません。外国人労働者に対しては、安全衛生教育マニュアルなどを活用した教育や健康管理を行います。

一方、国や関係機関は、各種ガイドラインの周知や健康管理ツールの普及を進めます。同時に、外国人労働者向けに視覚的な教材を用いた効果的な安全衛生教育の手法開発を促進していきます。

アウトプット指標アウトカム指標
外国人労働者向けのわかりやすい労働災害防止教育を実施する事業場の割合
⇨2027年までに50%以上
外国人労働者の死傷年千人率
⇨2027年までに労働者全体の平均以下

個人事業者等に対する安全衛生対策の推進

この対策は、労働者だけでなく、危険有害作業を請け負う一人親方などの安全と健康も確保することを目指すものです。

事業者は、「個人事業者等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会」での議論を通じて、個人事業者の業務上の災害実態の把握、自主的な安全衛生確保の措置、注文者による保護措置のあり方などについて検討を進めていきます。

国や関係機関は、2023年4月から、事業者に対して労働者以外の人に対しても安全衛生対策を義務付ける新しい規則を施行し、その内容の周知徹底を図ります。たとえば、有害物質を扱う作業場では、そこで働くすべての人に対して、事業者は労働者と同じ安全対策を実施しなければなりません。また、検討会での議論を踏まえ、個人事業者等への効果的な支援策も検討していきます。

業種別の労働災害防止対策の推進

業種別の労働災害防止対策では、特に労働災害が多発している4つの業種(陸上貨物運送事業、建設業、製造業、林業)について重点的な取り組みを行います。陸上貨物運送事業では荷役作業時の墜落・転落防止と腰痛予防、建設業では高所作業における墜落・転落防止と熱中症対策、製造業では機械によるはさまれ・巻き込まれ防止対策、林業では伐木作業時の安全対策を中心に進めます。

各業種の自業者は、関連するガイドラインに基づく安全衛生管理体制の確立、作業環境の改善、保護具の適切な使用、安全衛生教育の実施などが求められます。一方、国や関係機関は、デジタル技術の活用も含めた新たな安全対策の検討や、関係機関と連携した指導・支援を行います。

アウトプット指標アウトカム指標
荷役作業における安全ガイドラインに基づく措置を実施する陸上貨物運送事業等(荷主含む)の事業場割合
⇨2027年までに45%以上

墜落・転落災害防止のリスクアセスメントに取り組む建設業の事業場割合
⇨2027年までに85%以上

機械による「はさまれ・巻き込まれ」防止対策に取り組む製造業の事業場割合
⇨2027年までに60%以上

伐木等作業の安全ガイドラインに基づく措置を実施する林業の事業場割合
⇨2027年までに50%以上
陸上貨物運送事業の死傷者数
⇨2027年までに2022年比で5%以上減少

建設業の死亡者数:2027年までに2022年比で15%以上減少
製造業の機械による「はさまれ・巻き込まれ」死傷者数
⇨2027年までに2022年比で5%以上

減少林業の死亡者数(伐木作業の災害防止を重点)
⇨2027年までに2022年比で15%以上減少

労働者の健康確保対策の推進

この対策では、メンタルヘルス対策、過重労働対策、産業保健活動という3つの観点から、労働者の健康確保対策を推進します。

メンタルヘルス対策では、事業者はストレスチェックの実施とその結果に基づく職場環境の改善、ハラスメント防止対策に取り組みます。過重労働対策では、時間外労働の削減、年次有給休暇の取得促進、勤務間インターバル制度の導入などを進めます。また、産業保健活動では、事業場の状況に応じた産業保健スタッフの確保と必要なサービスの提供、治療と仕事の両立支援を行います。

一方、国や関係機関は、産業保健総合支援センターを通じて支援を実施し、健康経営の視点を含めた意識啓発も強化していきます。

アウトプット指標アウトカム指標
年次有給休暇の取得率
⇨2025年までに70%以上

勤務間インターバル制度を導入している企業の割合
⇨2025年までに15%以上

メンタルヘルス対策に取り組む事業場の割合
⇨2027年までに80%以上

従業員50人未満の小規模事業場でのストレスチェック実施割合
⇨2027年までに50%以上

必要な産業保健サービスを提供している事業場の割合
⇨2027年までに80%以上
週労働時間が40時間の雇用者のうち、60時間以上の雇用者の割合
⇨2025年までに5%以下

仕事や職業生活に関する強い不安、悩み又はストレスを感じる労働者の割合
⇨2027年までに50%未満

化学物質等による健康障害防止対策の推進

この対策では、化学物質による健康障害防止対策、石綿・粉じんによる健康障害防止対策、熱中症・騒音による健康障害防止対策の3つを実施します。

化学物質対策では、事業者による自律的な管理を推進し、化学物質管理者の選任、リスクアセスメントの実施とその結果に基づく対策、ラベル表示やSDS(安全データシート)による情報提供を行います。

石綿・粉じん対策では、建築物の解体時の事前調査や適切な防止対策を実施します。また、熱中症・騒音対策では、暑さ指数の管理や、「騒音障害防止のためのガイドライン」に基づいた作業環境測定や健康診断、労働衛生教育を実施します。

一方、国や関係機関は、これらの対策を支援するため、中小事業者向けの支援や専門家による相談体制の整備、各種ガイドラインの周知徹底を進めます。

アウトプット指標アウトカム指標
義務対象外の危険有害性が把握されている化学物質のラベル表示・SDS交付を実施する事業場の割合
⇨2025年までに80%以上

義務対象外の危険有害性が把握されている化学物質のリスクアセスメントを実施する事業場の割合
⇨2025年までに80%以上

義務対象外の危険有害性が把握されている化学物質のリスクアセスメント結果に基づく防止措置を実施する事業場の割合
⇨2027年までに80%以上

暑さ指数を把握・活用している事業場の割合
⇨2027年までに2023年比で増加
化学物質の性状に関連する死傷災害件数
⇨第13次労働災害防止計画期間比で5%以上減少

熱中症による死亡者数の増加率
⇨第13次労働災害防止計画期間と比較して減少

労働災害の防止に向けて企業でできること

2023年4月から始まった第14次労働災害防止計画の目標を達成するには、事業者と労働者の協力が不可欠です。労働災害の防止は企業の義務であるため、計画の内容をもとに、労働災害防止の取り組みについて見直しましょう。

以下の記事では、労働災害を防止するための対策について詳しく解説しています。

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