自然災害やパンデミック(感染症の爆発的な流行)など、予期せぬトラブルによって事業の継続が危ぶまれることがあります。有事の際に事業を早期に復旧し、継続するための備えとして大切なものがBCP(事業継続計画)をもとにした訓練です。
今回はBCP訓練の進め方やポイント、1年に実施すべき回数について、BCP訓練の概要と必要性とともに解説します。
目次
BCP訓練とは
BCPとは、「Business Continuity Plan」の頭文字を取った言葉で、日本語に訳すと「事業継続計画」です。これは、自然災害などの緊急事態発生時に、企業の経営に関する被害を最小限に抑え、被害が出た場合も早期に復旧させながら事業を継続するための計画を指します。
BCP訓練とは、あらかじめ定めたBCPに沿って行う有事に備えるための訓練です。
BCP訓練の目的
BCP訓練の目的は、BCPの内容や重要性を全従業員に周知することと、BCPの効果検証です。
自然災害などの緊急事態が発生した際、事業を存続させるためには経営陣や部門長が瞬時に判断や指示をしなければなりません。しかし、緊急時は、いつもとは違う状況のなかで迅速に情報収集をし、冷静な判断をして、適切な行動をすることは困難です。
そこで、日頃から訓練をして、BCPで定められた内容を把握し、緊急事態時に迅速な情報収集/冷静な判断/適切な行動ができるように備える必要があります。
また、BCP訓練を行うことでBCPそのものの検証ができ、実現不可能だったり適切な行動が明記されていなかったりなど、計画の課題が見えてくるでしょう。よりよいBCPを作るため、実情に合わせて計画の内容を修正・更新することができます。
介護事業者は義務化されている
2021年4月に施行された「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」により、介護事業者はBCP策定・BCP訓練の実施などが義務化されました。
これには、3年間の経過措置が用意されていましたが、2024年4月からは義務となるため、必ず行わなければなりません。
介護事業者がBCP訓練を義務化された理由として、自然災害などの緊急事態発生時であっても介護やサービスを継続して提供できる体制の構築が求められる点があげられます。
BCP訓練の必要性とは
会社を経営していく上でBCP訓練は必要です。その理由は以下の通りです。
- 会社、従業員を緊急事態から守るため
- 自然災害やパンデミックに備えるため
- 計画やマニュアルの検証をするため
ここからは、BCP訓練の必要性について詳しく解説します。
会社、従業員を緊急事態から守るため
BCP訓練は、会社と従業員を緊急事態から守るうえで必要な訓練です。
BCPを策定するだけではなく、その計画を有効に活用するためにもBCP訓練が必要です。
また、訓練を通じて以下の効果を得られます。
- 自分の役割や必要な行動を知ることができる
- 緊急事態の対応の問題点や課題がわかる
- 自然災害や感染症の理解を深めることができる
自然災害やパンデミックに備えるため
BCP訓練をすると、自然災害やパンデミックに備えることが可能です。
日本は地震や津波/火山噴火/台風や豪雨災害/雪害など多くの自然災害が発生します。また、新型コロナウイルスやインフルエンザなどの感染症が社内で爆発的に流行するというリスクも抱えています。
BCP訓練によって連絡系統や対応策が整備されていれば、対応がスムーズになり、被害を少なくすることが可能です。いつどこで起きるかわからないからこそ、事前に対策しておくことが重要です。
計画やマニュアルの検証をするため
策定したBCPやマニュアルの検証ができるという点もBCP訓練のメリットです。なぜなら、BCP訓練をすることで、策定したBCPやマニュアルに実現不可能な内容はないか、記述が不足している内容はないか、もっと適切な内容はないかなどを検証し、修正点・改善点を見つけることができるためです。
また、継続的にBCP訓練をすれば、定期的な見直しにつながり、その時々の社会や会社の状況に適したBCPに更新することができます。
BCP訓練の種類
BCP訓練には複数の種類があり、それぞれで訓練の内容が異なります。BCP訓練の種類は以下の通りです。
- 机上訓練
- 電話連絡網・緊急時通報診断
- 代替施設への移転・対応訓練
- 総合訓練
それぞれの訓練の概要をご紹介します。
机上訓練
机上訓練は、その名の通り机の上でシミュレーションする訓練です。広い場所が不要で、比較的簡単に行える訓練です。机上での訓練の種類には、大きくわけて、ワークショップ訓練とロールプレイング訓練があります。
ワークショップ訓練は、グループに分かれて与えられた想定について各自が議論をしながら対応を考える訓練です。比較的初心者でも参加しやすい訓練で、緊急時という平時とは異なる状況で何が発生するのかを予測し対応する力を養うイメージトレーニングに近い形式で行います。
ロールプレイング訓練は、緊急時の想定をもとに、各自が役割分担などをした上で、それぞれの役割に応じた柔軟な対応を考える訓練です。詳細な被害状況を設定したシナリオに沿って訓練を進めていきます。
訓練には運営側の入念な準備が求められるほか、ルールやタイムスケジュールの明確化が必要です。
また、訓練本番でも、各グループの対応状況に応じたシナリオを付与したり、適切な対応ができないグループにはヒントを与えたりするなど、積極的な関与が求められます。
電話連絡網・緊急時通報診断
電話連絡網・緊急時通報訓練は、有事の際に速やかに連絡を行うことを目的とする訓練です。
企業は災害や緊急事態が発生したときに従業員の安否確認をします。安否確認を行うことで、出社可能な従業員数の把握、出社可能時期の予測や優先度の高い業務についての事業継続体制づくりなどを行うことができます。連絡に関する訓練を行うことで、連絡系統や連絡手段が明確になり、連絡先が最新かどうかを再確認することが可能です。
また、安否確認の専用ツールを導入して、訓練を実施することもおすすめです。安否確認システムを導入すれば、有事の場合の連絡をスムーズに行え、正確かつ迅速に安否確認ができます。
代替施設への移転・対応訓練
既存の施設が使用できなくなった場合に、バックアップとしての代替施設に移動し、そこでBCPにもとづいた対応が可能かを検証する訓練です。
必要に応じて、倉庫が使えずに材料や商品などが保管できない、事業所が使えずに対応できないなどのケースについても想定して訓練を行いましょう。
総合訓練
総合訓練は、緊急事態となってBCPが発動されてから、対応が一段落つくまでの流れをすべて実施するような訓練です。最初から最後まで通して行うと、時間経過によって発生する課題や実施すべき対応がどのように移り変わっていくかを具体的にイメージできるようになります。
また、自治体と合同で行う訓練もあります。自治体との合同訓練は、地域に存在する様々なステークホルダー(利害関係者)との連携を確認する機会にもなるでしょう。消防と協力して消防訓練をすれば、消防署から訓練の評価も得られます。
BCP訓練の進め方・ポイント
BCP訓練は、基本的に以下の手順で進めます。
①訓練の目的・方法を定める
②シナリオを作成する
③訓練を実施する
④振り返りをする
それぞれの手順と、訓練を適切に進めるためのポイントを解説します。
訓練の目的・方法を定める
まずは、訓練の目的と方法を定めます。
BCP訓練をする目的はさまざまですが、主な目的としては緊急時の各自の役割・対応の認識/対応の精度や速度の向上/対応の課題発見/マニュアルの検証/緊急時対応・BCPの社内外への周知などが挙げられます。最初に目的を明確にし、目的に応じた方法を決めましょう。
また、BCP訓練にはその目的に応じてさまざまな種類があります。先に挙げた訓練の種類について、それぞれの概要と特徴を把握し、目的に合った方法を選択しましょう。
シナリオを作成する
訓練の目的と方法が決まったら、シナリオを作成します。
BCP訓練を適切に進めるには訓練計画と準備が必要です。緊急事態の想定や、被害状況の予測をもとにシナリオを作成しましょう。シナリオを具体的に作成できれば、リアリティが出て参加者の「わがこと意識」(自分のこととして自分に引きつけて考える意識)を向上させるきっかけになります。。
また、シナリオには従業員の役割に応じて想定される課題も盛り込みましょう。シナリオに課題が盛り込まれていると、単にBCPに記載された通りに行動するだけでなく、どのようなことに留意しながら行動すべきかなども考えることができます。
そうなることで、より効果的な訓練へとつなげることができるでしょう。
訓練を実施する
シナリオが完成して準備が整ったら、訓練を実施します。いつ、どのような方法で、どの程度の時間で訓練をするのかをしっかりと参加者に周知しましょう。
また、参加者には訓練を行う目的をはっきりと伝えておくことも大切です。訓練を行う目的が伝われば、参加者自身が何をすればよいのかがより明確化され、「わがこと意識」が向上しやすくなります。
訓練の実施においては、緊急事態で使用するシステム・ツールなども活用しましょう。安否確認システムなどを導入しているところは、必ずシステムを訓練で使用して、本番でも遅滞なく利用できるようにしておきましょう。
安否確認システムは、BCP発動時に自動で一斉送信したり、返信の有無を自動で集計したりする機能が搭載されているものもあります。一般的に、電話やメールのように通信障害の影響を受けにくく、確実性が高い点が特徴です。
安否確認サービスはさまざまなものが存在しますが、例えば、トヨクモの「安否確認サービス2」がおすすめです。安否確認サービス2はBCPに必要な機能が多数搭載されています。初期費用は無料で、30日間の無料お試しもできます。安否確認システム導入をご検討中の方は、問い合わせてみてはいかがでしょうか。
振り返りをする
BCP訓練は実施したら終わりではなく、後日になってからでも構わないため、できるだけ早い段階で必ず振り返りを行ってください。
訓練後は、緊急時の状況を理解できていたか、自分の行動は正しかったのかなどを従業員からフィードバックをもらうようにしましょう。なるべくさまざまな立場の人たちの意見を集めて、課題や改善点を見つけて、実情に合ったものにBCPを更新します。
BCP訓練は年に何回実施するべきか
BCP訓練は定期的に行い、その都度必要に応じて修正します。BCP訓練はどの程度の頻度が適切なのでしょうか。記事の最後に、BCP訓練の適切な頻度を解説します。
年1回以上の実施が必要
介護サービス事業者は年1回のBCP訓練が義務づけられています。そのため、必ず年に1回はBCP訓練を行いましょう。なお、入所系は年2回以上の訓練が必須です。
それ以外の事業についても大規模な訓練は年1回、部門ごとの訓練は半年に1回程度を目安で行います。定期的な訓練をすることで、万が一の場合にスムーズに対応できるでしょう。
社員研修として行うことも
企業によっては、BCP訓練を新入社員研修や社員研修・管理職研修で行うこともあります。社員研修で企業がBCPを重要視していることを伝えれば、全社員のBCPに対する意識向上につながるでしょう。
日頃からのBCP訓練で災害に備えよう
自然災害やパンデミックなどの緊急事態発生時に企業が生き残るためには、日頃から継続的にBCP訓練を行い、全社員がBCPを把握して適切な行動を取れるようにしておくことが大切です。
最低でも年に1回以上のBCP訓練をして、万が一に備えましょう。