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BCP訓練のシナリオ作成をシナリオ例とともに解説|訓練の種類や運用方法も紹介します

自然災害・テロ・感染症など、企業はさまざまな外部リスクを抱えています。そういったリスクに対応するため、BCP(事業継続計画)に改めて注目が集まっています。

BCPは策定するだけで終わりではなく、緊急事態発生時に実際に機能することが重要です。そのためには、日頃からの訓練が必要です。

今回は、BCP訓練を行うにあたってどのようにシナリオを作成すればよいかについて、実例を挙げてご紹介します

BCP訓練には具体的なシナリオが必要 

BCPは「Business Continuity Planning(事業継続計画)」の略称です。

内閣府の調査によると、BCPを「策定済み」と回答したのは、⼤企業で70.8%(2年前の調査⽐2.4%増)、中堅企業では40.2%(2年前の調査⽐5.8%増)という数値が出ています。

このことから、⼤企業を中心にBCPの策定は進んできていることがわかります。

また「策定済み」と「策定中」を合わせると、⼤企業は約85%、中堅企業は約52%となり、中小企業でも過半数の企業がBCPの導入に取り組んでいることがわかるでしょう。しかし、BCPを策定した後の訓練や改善がされずに、実効性が失われているケースも散見されます。

従業員にBCPの内容を周知し、実効性を高めるためには、BCP訓練が必要です。そして、BCP訓練には具体的なシナリオが欠かせません。緊急事態下での具体的なシナリオを想定し、その状況下で策定した通りの対応を行えるかどうかを、訓練で確かめて改善し続けることが求められます。

BCP訓練作成のシナリオ例

BCP訓練のシナリオの例として、高知県が提示している事業継続訓練マニュアルを紹介します。本マニュアルでは、主に「机上型BCP訓練」を紹介しています。

机上型BCP訓練とは、設定された想定状況に対し、各担当者が定められた時間内に対応内容などを検討して発表するものです。対象者や目的に応じて訓練の難易度を調整できる点が特徴です。

訓練が未経験の企業

BCP訓練を行ったことがない企業を対象に初級の訓練が用意されています。これは、BCP策定を行ったばかりの企業や、初めて策定したBCPを訓練で検証してみたい企業に向けた訓練です。

主に災害発生直後の初動対応を対象としています。訓練を行う目的や状況説明、課題設問の提示が行われたのち、参加企業の担当者が10分程度の討議時間の中で「どう対応し、何を実行するか」を話し合います。

話し合った後は、共有とフィードバックを行いましょう。話し合った結果を各々が発表し、質問や討議の時間を通じて対応の可否や問題点を振り返ることが重要です。最後は司会者によるまとめや講評を行います。

出題される課題は災害発生後から3日間程度のシナリオで、災害を疑似体験し、BCPへの理解を高められる点が特徴です。

訓練を経験済みの企業

BCP訓練を経験したことがある企業に対しては、初動対応後の長期的な事業継続における対応に焦点を当てた課題が用意されています。訓練の目的は、自社が策定したBCPの検証や、検証によって明らかになった課題への検討です。

初動対応が終わり災害発生から数日が経過した状況で、「どのようにして被害や影響を復旧しながら事業継続を図るか」を考えます。実践的な課題に対して自分たちがどう対応するべきかを協議し、内容をまとめて発表を行います。

発表や質疑応答を通じて、自社のBCPを客観的に検証し、問題点を洗い出してBCPの修正・改善につなげる契機となるでしょう。

BCP訓練のシナリオ作成手順

BCP訓練を行うときは、実践的で具体的なシナリオ作成が求められます。

ここからは、BCP訓練のシナリオ作成手順を紹介します。

どのような緊急事態が発生するかを想定する

最初に、どのような緊急事態が発生するのかを想定します。自然災害や、テロなどの人災のほかにも新型コロナウイルス感染症やインフルエンザなどの爆発的な流行、大規模な交通の乱れやインフラの事故などが挙げられるでしょう。

なおシナリオは現実にありえない想定ではなく、例えば、自然災害ならば地域のハザードマップをもとにしたシナリオにするなど、従業員に「荒唐無稽だ」と思われないような内容にすることが重要です。

その上で、訓練の目的や、訓練を通じて従業員に習熟してほしいポイントを明確にしましょう。

シナリオの骨子を作成する

次に、シナリオの骨子を作成しましょう。

シナリオの骨子は訓練の目的や従業員の習熟度に合わせることがコツです。たとえば、BCPを初めて策定した後に行う訓練の場合は、できるだけ簡単なものにしておきましょう。

被災後しばらく日数が経過した後の、復旧段階における事業継続を想定するシナリオを作成しても、難易度が高いため満足のいく結果は得られません。そういったケースでは、災害直後の初動対応を想定した骨子を作ることが適切です。

訓練を重ねて習熟度が上がってきたら、役割分担をもとにした対応や、協力して課題解決にあたらなければならないシナリオの作成に移行しましょう。

連携できる登場人物を設定する

次に登場人物を設定します。シナリオを作成する際は、幅広い視点でさまざまな関係者を想定しましょう。緊急事態時は、自社の社員だけでなく、社外の人とも連携する必要があります。シナリオに取引先/顧客/地域住民などの社外の人物を採用すると、よりリアリティのある訓練が行えます。

被害状況を設定する

シナリオを作成する際は、被害状況についても細かく設定しておく必要があります。

過去の自然災害や緊急事態時の事例を参考にし、できるだけリアリティのある内容にしましょう。インターネットで自治体の被害想定を確認したり、過去の災害における企業の対応記録などを検索することもできます。

また、訓練後の評価と検証においても問題点や改善点を見つけやすくなるでしょう。

具体的なシチュエーションを設定する

被害状況と同時に、シチュエーションを設定することも重要です。自社の施設や従業員、家族が置かれている状況を細かく定めましょう。

具体的なシチュエーションが用意されていれば、従業員が状況を想像しやすくなります。また、次回の訓練を前回の被災後の状況に設定するなど、継続性のあるシナリオの作成も可能になるでしょう。

机上訓練は細かい状況設定を負担の少ない形で行えるため、さまざまな状況下での対応検証に向いています。

訓練成功のポイント3選 

BCP訓練は、緊急事態時のBCP活用や、安全の確保、事業継続能力の向上を目的に行われます。BCP訓練を成功させるには、さまざまなポイントを押さえなければなりません。

ここからは、BCP訓練を成功に導くポイントを説明します。

従業員に訓練の意味や目的を伝えておく

BCP訓練の主体は従業員です。従業員に訓練を実施する意味や、訓練の目的をしっかり伝えておかなければ、訓練は成功しません。

緊急事態が発生すると平時とは異なる状況におかれてしまい、何も考えないゼロの状態から対応することは不可能なことや、社内外でどのような人物と連携するのかは事前に説明しましょう。

どんな能力やスキルを養成する必要があるのか、使用するツールやシステムにどこまで習熟が必要かという点も、あわせて周知しておくことが重要です。。

訓練の意味や目的を理解すれば、効果があらわれやすくなり、BCPの浸透にもつながります。

シナリオは具体的に設定しておく

シナリオを具体的で詳細な内容にしておくと、訓練は成功しやすくなります。

自然災害には、地震や津波/火山噴火/台風や豪雨災害などさまざまな種類があります。「地震の発生に伴い大規模な津波が発生して従業員の安否が不明」「大雨で崖崩れが発生して本社付近の交通が寸断された」「台風により自社が停電になった」など、具体的な状況設定を行うと、参加者が状況を想像しやすくなるでしょう。

被害状況や果たすべき行動について明確にしておけば、従業員の緊張感が維持され、訓練でどう動くべきかが明確になります。

なお、緊急事態に使用するシステムやツールがある場合には、それらの使用訓練も同時に行えるようなシナリオにしましょう。例えば、安否確認システムを導入している場合には、上記のように「従業員の安否が不明である」というシナリオを入れましょう。

トヨクモの「安否確認サービス2」は、、このような訓練でも稼働できる体制を整えていますので、訓練実施時にはぜひ相談をして、使用訓練もあわせて行えるようにしましょう。

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訓練後の評価をする

訓練はただ実施するだけでは意味がありません。訓練後きちんと評価を行い、それを参加者に共有することも、訓練を成功させるポイントのひとつです。

BCP訓練では従業員の行動や意思決定プロセスなどを記録し、また授業員自身に訓練後の自己評価などのフィードバックを収集することで、検証や評価が行える体制を作ります。これにより、策定したBCPの課題や改善点が見えてきます。

また、従業員のBCPへの理解度や非常時の対応の習熟度を把握することも重要です。数値評価できるような仕組みを用意してから訓練に臨むと効果的です。

従業員と評価やフィードバックを共有し、課題や問題点を明らかにするとともに、解決策を模索するような訓練を目指しましょう。このような訓練によって、従業員の「わがこと意識」(自分に引きつけて自分のことのように考えること)が向上します。。

BCP訓練が必要とされる理由

BCP訓練は、なぜ必要なのでしょうか。日本は地震や津波のほかにも、火山噴火、台風や豪雨などの自然災害が多い国です。

世界的にみても、地球温暖化による大規模な洪水といった自然災害の発生が増えてきている状況です。

さらに、感染症が爆発的に流行することを指す、パンデミックという未曽有の事態も経験しました。

それらに対して企業や団体として対策を行い、企業や団体と従業員の安全を守るとともに、事業を継続させることによって社会的責務を果たすことがBCPの目的です。

BCP訓練を運営する人の訓練も必要

BCP訓練では多くの場合、運営者は企業や団体のファシリティマネージャーです。

運営者はBCP訓練を進行し、評価や解析を行います。その際、運営者の習熟度が低いと、訓練全体の効果が低下してしまいます。

そのため、企業・団体の中で運営者を育成する仕組みをつくりましょう。例えば、BCP策定当初は、なるべく初動対応を中心とした簡単なBCP訓練を実施しながら運営のノウハウを学んでいき、次第に総合的な訓練に移行する形がおすすめです。

また企業・団体の中で、運営経験者が運営初心者にそのノウハウを引き継いでいくような体制を作ると、新たな運営者への引継ぎが簡単になります。

適切なシナリオで効果的な訓練をしよう!

BCP訓練は、策定したBCPの意味や内容を従業員に浸透させるだけでなく、策定したBCPの課題や問題点も発見できます。訓練のシナリオは、訓練の成否に大きく関わります。策定したBCPを生かし、緊急事態が起きたときに事業継続を果たすためにも、適切なシナリオ作成を行い事業継続力を高めましょう。