防災・BCP・リスクマネジメントが分かるメディア

BCP訓練の種類やワークショップ訓練のメリットとデメリットを紹介

BCP(事業継続計画)とは、企業が自然災害やテロ、感染症の爆発的な流行などの緊急事態に遭遇した際に発動されるものです。

被害を最小限に抑え、被害が出た場合でも迅速に復旧させながら事業を継続させるための計画のことです。

BCPを策定したあとは、緊急事態時に想定したとおり機能するかを検証する訓練が必要です。本記事では、ワークショップ訓練の種類や目的、メリット・デメリットについて解説します。

BCP訓練の「ワークショップ訓練」とは

BCPを策定したあとは、訓練によってその内容を検証することが必要です。

訓練にはさまざまな種類がありますが、そのうちのひとつに「ワークショップ訓練」があります。これは、グループにわかれて資料を広げて議論をしたり、想定をもとに実施すべき対応などについて議論をしたりする机上の訓練です。策定したBCPの理解を深めることと、BCPの課題を見つけ出して修正/改善することが目的です。

BCP訓練の種類

BCP訓練は主要なものとして3種類あり、机上で討論しながら行う訓練と、実際に体を動かして行う訓練そして司会者の進行による集合研修などがあります。ここからは、それぞれの訓練の内容や目的について解説します。

机上訓練:ワークショップ訓練

机上訓練のひとつであるワークショップ訓練では、参加者がグループに分かれて、事前に設定された被害状況などの情報を見ながら、互いに意見交換をします。

例えば、策定されたBCPに欠陥はないかや、想定しきれていない部分はないかなど、ワークショップのお題に従って討論することで、BCPへの理解を深め、緊急事態における課題とその解決方法について共有することが目的です。

意見交換/議論た内容は付箋にまとめて模造紙などに貼り、あとで全体に向けて発表します。

少人数でも開催することでき、また詳細な訓練シナリオなどが必要でないことから、比較的簡単な訓練といえます。

意見交換・議論の過程でBCPの問題点などを発見し、BCPの修正や改善などにもつなげることも可能です。

机上訓練:ロールプレイング訓練

ロールプレイング訓練とは、提示された緊急事態のシナリオをもとに、参加者が与えられた役割に従って、シナリオを応じて対応をすすめる訓練です。訓練を実施する際は、訓練に使うシナリオの作成が重要です。災害の種類や規模、けが人や施設被害、ライフライン/交通機関の途絶など社内外の状況を細かに設定しましょう。

ロールプレイング訓練には2種類あります。

1つ目はシナリオ提示型で、シナリオのなかに何をすべきかの指針や対応があらかじめ記載されていて、参加者はそれらを標準的な対応としながら、各自の対応を検証します。

2つ目はシナリオブラインド型です。大まかなシナリオだけを提示し、各人が役割のなかで何をすべきかの指針や対応などは示さずに、参加者はその場の判断で対応を考えていきます。

実動訓練

実動訓練は、BCPで決められた内容を実行できるかを、実際に対応しながら確認する訓練です。シナリオのもとに各人が役割に従って個々に行動したり、緊急時に使用することになる機器やシステムを操作したりします。

また、安否確認システムを使って社員の安否を把握する訓練や、避難経路を使って安全な場所へ移動する避難訓練なども実動訓練に含まれます。

このほか、ケガ人や急病人への応急手当訓練、初期消火や通報などの火災対応訓練についても必ず行いましょう。

集合研修

BCPの訓練には、座学で学んだり、司会者の進行で意見交換/議論したりする集合研修という形式もあります。

優れたBCPを策定できたとしても、従業員全員がその内容を理解していなければ、緊急時にうまく機能しません。そういった事態を防ぎたいときは集合研修が有効です。

集合研修を通して社員が災害やBCPの知識を体系的に習得したり、自社で策定したBCPへの理解を深めたりすることができます。

その後の意見交換や議論によって自社のBCPの問題点を洗い出したり、BCPの修正・改善につなげたりすることも可能です。

ワークショップ訓練の目的

ワークショップ訓練は、計画/マニュアルと、付箋や模造紙/ホワイトボードがあれば比較的小さな部屋でも実施できます。ただしこのとき、いたずらに実施するのでなく、訓練の目的をしっかり設定した上で実施することが重要です。

ここでは、ワークショップ訓練を行う目的について、主要な3つを解説します。

BCPの確認・理解

第1の目的は、緊急時にBCPが現場でどのように機能するかを確認し、理解を深めることです。

個々の対応を検討するなかで、対応を実施するタイミングや実施時に必要な情報/人員/資材/設備などについて、問題がないかを精査します。

訓練で参加者が「分かりにくい」「できない」と感じた項目をピックアップすれば、策定したBCPの問題・課題を洗い出すことができ、改善へとつなげられます。

訓練時はわずかな「気づき」も見逃さないように、事前に評価項目を作成してチェックしたり、事後に参加者に自己評価をしてもらったりするなど工夫しましょう。

実施手順の確認と改善

第2の目的は、BCPの実施手順の確認と改善です。

自然災害や事故などの緊急事態への対応は、時勢や社会の状況によって変化します。「企業の組織の変革」「取引先や顧客の変化」「国や業界のガイドラインの改変」など、状況の変化はさまざまです。定期的に訓練を行って、状況の変化に応じた修正・改善を続ける必要があります。

問題点を洗い出し、BCPを見直したうえで実動訓練へとつなげると、いっそう効果があがるでしょう。

緊急事態への「わがこと意識」の向上

第3の目的は、緊急事態に対する「わがこと意識」の向上です。

「わがこと意識」とは、ある事柄について、自分のことのように引きつけて考えることです。いわゆる「他人事」の反対の概念で、「わがこと意識」が高いと、実際の対応力向上につながると言われています。

いくらBCPの策定に力を注いでも、実施する側の「わがこと意識」が薄ければ、いざというときに効果を発揮しません。より精度の高い成熟したBCPを目指すには、緊急事態に備えて立ち向かっていくという「わがこと意識」を従業員全員がしっかりと持ち続けることが重要です。

ワークショップ訓練を実施し、自分のこととして考えて行動すれば、自然と緊急事態への「わがこと意識」が向上/定着します。緊急事態時の対応を他人事ではなく「わがこと」として捉えられるようになるでしょう。

ワークショップ訓練のメリット・デメリット

ワークショップ訓練にはメリットだけでなくデメリットもあります。両方を把握したうえで実施すれば、訓練の効果はいっそうあがるでしょう。ここでは、メリットとデメリットについて解説します。

メリット1. 容易に実施できる

ワークショップ訓練の最大のメリットは、実施が比較的容易である点です。

参加対象を調整すれば、短時間・小規模でも行えるため、実施のハードルが低くなります。そのため、一度に大勢の社員を集めることが難しい場合にもおすすめです。

訓練で得た結果や意見は、実施後にまとめて紙媒体やメールで広く共有できます。BCPの有効性の確認や改善を効率的に進められるでしょう。

メリット2. 自分の知識や理解度を知れる

自分の知識や理解度を知ることができる点もメリットとしてあげられます。

ワークショップ訓練を行えば、災害時の流れや自分の取るべきアクションが分かります。緊急事態を状況を具体的にイメージし思考すると、状況を予測する力が鍛えられるだけでなく、他の参加者の意見から新たな学びを得ることもできるでしょう。

メリット3. 企業や組織の課題が分かる

ワークショップ訓練を通して、企業や組織が抱える課題や改善点を明確にできる点もメリットです。

緊急事態を想定し、個々に取る対応を共有しながら行動を見直すと、組織全体の課題や改善点に気づく可能性があります。

たとえば、対応がちぐはぐだったり、緊急事態時のシステムを使うことができなかったり、資機材の導線が悪かったりなどです。

ワークショップ訓練を行うことで、BCPの修正や改善だけにとどまらず、日常業務の効率化にも役立つでしょう。

デメリット1. 実際に対応するわけではない

ワークショップ訓練のデメリットとして、実際に対応するわけではないという課題があります。

机上で行うワークショップ訓練では、例えば、避難場所や代替拠点へ物理的な移動をするわけではありません。そのため、移動する際に起こり得る問題点に気づかないおそれがあります。

また、緊急事態用の通信手段を用いて連絡を取り合うことがないため、報告や連絡などのコミュニケーションをする際の問題点を見落とす可能性も考えられます。

緊急事態に使用する機器やシステムは、実際に自身の手で操作してみないと課題が見えづらいものです。そういった点は不安材料といえるでしょう。

デメリット2. 参加者から意見が出ないおそれがある

意見交換や議論の際、参加者から意見を引き出すことが難しい点もデメリットです。

ワークショップ訓練の参加者は、特に社内の閉じた参加者のなかで間違った意見を出してはいけないと萎縮する可能性があります。コーディネーターは発表しやすい環境を作り、参加者全員が自分の意見を言えるよう工夫しなければなりません。

ポイントは具体的な問いかけです。「自然災害発生後、社内はどうなっていると思うか」「社内にいて自然災害に遭ったとき、あなたが最初にとる行動は」というような具体的で回答しやすい質問を用意すると、意見を発表しやすくなるでしょう。

ワークショップ訓練の進め方・ポイント

ここからは、ワークショップ訓練を実施する際の具体的な進め方や、気をつけたいポイントを、計画や準備/実施/評価の3つのステップに分けてご紹介します。

計画・準備

計画・準備にあたってまず着手することは、訓練目的の設定・シナリオの作成です。

訓練目的の設定では、訓練の対象となる緊急事態や、訓練によって参加者に身につけて欲しい事柄を決めます。続いて、災害発生の日時や想定被害を決め、シナリオの「骨子」を作りましょう。

骨子をもとに具体的なシナリオを作成した後は、訓練当日に参加者へ状況を説明する「状況付与票」を作成します。これは訓練のシナリオを、あらかじめ参加者に説明することが目的です。

なお、「状況付与票」は訓練開始前に配布するようなものもあります。一方で、訓練の進行によって想定される状況が変わったときに、その都度配布されるようなものもあります。

実施

計画・準備が整ったら、次はワークショップ訓練の実施です。訓練は以下の手順で行いましょう。

  1. 訓練参加者でグループを作り、状況付与票に書かれた情報をもとに状況を予測して、自分たちが取るべき対応を決定する
  2. シナリオの状況時に懸念される問題点や、自分の対応に関する不安や疑問について考える
  3. 他の参加者と①②について話し合い、意見交換や議論をする
  4. 意見をまとめて、緊急事態時の適切な行動や現場における課題を洗い出す。模造紙に付箋に書いた意見を貼ってまとめたり、ホワイトボードやワークシートににまとめるなどして発表する

評価

訓練実施後は、訓練全体を振り返って評価する機会を設けましょう。評価基準は以下のとおりです。

  • 参加者が緊急事態発生後の状況や自分の行動を理解していたか
  • 現状のBCPや計画/マニュアルに問題はなかったか
  • 新たに見つかった課題はあるか
  • どうすれば緊急事態発生時の適切な行動を共有・周知できるか

外部の専門家を招いて意見を聞けば、より客観的・専門的な振り返りができます。訓練で見つかった課題はしっかりと分析し、BCPの改善や次の訓練に反映させましょう。

BCPのワークショップ訓練を実施して会社・社員を守ろう

BCP訓練には、以下のようにさまざまなメリットがあります。

・策定したBCPが有効であるかを確認できる

・必要な知識や取るべき対応が身に付く

・緊急事態に備える意識が定着する

BCP訓練の種類はさまざまですが、机上で行うワークショップ訓練は実動訓練よりも簡易に行うことができ、「時間やお金がない」「人を大勢集められない」という場合におすすめです。

また、BCP訓練は繰り返し行うことが重要です。定期的に実施すれば、自社が現在置かれている状況に適したBCPに修正・改善することができるでしょう。定期的にワークショップ訓練を実施してBCPを改善させ、会社や社員を守りましょう。