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事業継続力強化計画認定制度とは?認定を受けるメリット

企業のリスク管理対策として事業継続力強化計画の策定が挙げられます。
BCP(事業継続計画)の簡易版として、資金や人材が限られる中小企業にとっても、取り組みやすい点が魅力的です。

そこで本記事では、事業継続力強化計画の特徴や必須項目、申請の流れなどを解説します。
事業継続力強化計画の策定を検討中の方、制度の概要やメリット、認定方法について知りたい方は、ぜひ参考にしてください。

そもそも「事業継続力強化計画」とは

日本は地震や火山活動、台風や土砂災害・洪水といった水害など、自然災害が頻繁に起きやすい地形を持つ国です。これらの自然災害はいつどこで発生するか予測が難しく、建物や人などへ大きなダメージを与えます。
近年では、2012年の東日本大震災や2017年の九州北部豪雨など、大規模自然災害により多くの人命へ被害が及んだだけでなく、事業活動の中断や廃業を余儀なくされた企業も少なくありません。また、自然災害だけではなく、火災や感染症・テロ・サイバー攻撃などの人的災害も、身近に発生する恐れが潜んでいます。

これらの災害は、人材や設備・情報といった事業資産の喪失を招き、事業活動を停滞させるケースが多いです。事業活動が止まれば企業の収支は悪化し、従業員や顧客・取引先など経済社会に大きな影響を及ぼしてしまいます。
そこで、これらのリスクに対処するために推進されているのが、「事業継続力強化計画」の事前の策定です。

事業継続力強化計画とは、中小企業が自社の災害リスクを認識し、防災・減災対策の第一歩として取り組むために、将来的に行う災害対策などを記載する計画のことです。
事業継続力強化計画には、事業継続力強化に取り組む目的や、事業活動に影響を与える自然災害等の想定、非常時の初動対応手順、人材や資金・設備確保などの事前対策に関する内容を盛り込みます。
また、計画は1社で作成する単独型と、複数の企業が連携して作成する連携型の2種類があります。連携型は企業同士が連携することにより、さらに効果的な対策を立てられる、という点が特徴です。
令和元年7月16日より、「中小企業の事業活動の継続に資するための中小企業等経営強化法等の一部を改正する法律(以下、中小企業強靱化法という)」が施行されました。中小企業強靭化法では、防災・減災に取り組む中小企業がその取組内容(事前対策)をとりまとめた計画を、国(経済産業大臣)が認定する制度を創設しています。認定を受けた企業は税制措置や金融支援、補助金の加点措置などの支援を受けられます。
また、2020(令和2年)10月1日からは、感染症対策に関する事業継続力強化計画の認定も始まっています。

事業継続力強化計画と似たリスク管理対策の一つが、BCP(事業継続計画)です。
BCPとは企業が緊急事態に遭遇した際、事業資産への損害を最小限に抑えつつ、中核事業の継続・早期復旧を可能とするために、平常時や緊急時に取るべき行動や方法・手段などを、あらかじめ取り決めた計画のことです。
2005年に内閣府が公表した「事業継続ガイドライン」においても、BCP策定が推進されています。しかし、帝国データバンクの「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2021年)」によれば、BCPを策定している企業は全体の17.6%であり、特に中小企業のBCP策定率は14.7%と、大企業の32.0%と比べても大幅に低いです。

中小企業は大企業に比べて、本格的なBCPの策定や実施が難しいケースが多いです。
同調査によれば、BCPを策定していない理由として、策定に必要なスキル・ノウハウの不足や人材確保、資金調達などの課題が挙げられています。
そこで、BCPの策定を推進するための前段階、及びBCPの簡易版として設けられたのが事業継続力強化計画です。BCPと事業継続力強化計画はともに、非常事態による事業活動への影響や被害・損失を抑えること、事業の継続・早期復旧を実現することを目指しています。
ただし、BCPは防災・減災に加えて、中核事業の特定や取引先との協議、代替案の検討など、準備すべきことが多いため、策定に時間と労力がかかる一方、事業継続力強化計画は防災・減災に焦点を当てているため、国に提出する申請書も5枚程度で完了します。
つまり、事業継続力強化計画認定制度により支援を受けながら、資源やスキルが限られる中小企業も災害時の対応力を高められる上、リスクや問題点を把握して経営改善に活かす機会を得られます。

事業継続力強化計画認定制度とは

事業継続力強化計画認定制度とは、中小企業が策定した防災・減災の事前対策に関する計画を、経済産業大臣が「事業継続力強化計画」として認定する制度です。
令和元年7月16日より施行された、中小企業強靱化法によって定められました。
認定事業対象者は、防災や減災に取り組む中小企業・小規模事業者です。1社が単独で策定する場合と、複数社が連携して策定する場合があります。各事業者、もしくは連携型の場合、大企業や経済団体などの連携者が、計画を策定し経済産業大臣(地方経済産業局)に申請します。
認定を受けた場合、低利融資・信用保証枠拡大などの金融支援 、防災・減災設備に対する税制措置、ものづくり補助金をはじめとする補助金の優先採択、連携可能な企業や地方自治体からの支援措置を受けられます。また、認定企業は中小企業庁HPで公表され、専用のロゴマークを会社案内や名刺で使用し、認定のPRが可能です。

事業継続力強化計画の認定を受けるメリット

事業継続力強化計画の認定を受けるメリットは、豊富な支援制度を利用できることと、ブランディングによる社会的信用の獲得です。
以下で、支援策の具体的な内容を見ていきましょう。

金融支援が受けられる

事業継続力強化計画の認定企業は、主に4つの金融支援が受けられます。

まず、設備導入に必要な資金について、日本政策金融公庫の低利融資を受けられます。
設備資金20年以内、長期運転資金7年以内(据置期間2年以内)の貸付金利が、基準利率から0.9%引き下げられます。
金融支援は税制優遇とは異なり、対象設備の金額や種類の規定がありません。よって、金融支援の対象になるかどうかは、金融機関の審査において個別で判断されることになります。
また、中小企業信用保険法の特例として、民間金融機関から融資を受ける際、信用保証協会による信用保証のうち、普通保険等とは別枠での追加保証や保証枠の拡大が受けられます。
さらに、中小企業投資育成株式会社法の特例により、より多くの中小企業が投資対象となります。通常、同法の投資対象は資本金3億円以下の株式会社であるものの、認定を受けた場合、資本金が3億円を超える中小企業も投資対象です。
他にも、日本政策金融公庫による「スタンドバイ・クレジット」があります。認定企業の海外支店または海外子会社が、日本政策金融公庫の提携海外金融機関から融資を受ける際、日本政策金融公庫の債務保証を受けられるというものです。

税制優遇が受けられる

「中小企業・小規模事業者強靱化パッケージ」の一環として、防災・減災関連の設備投資を推進するため、租税特別措置法(昭和32年法律第26号)において、「中小企業防災・減災投資促進税制」が創設されました。
中小企業による自然災害などに対する事前対策の強化に向けた設備投資を後押しするた め、令和3年度の税制改正において対象設備を追加した上で、適用期限がさらに延長されました。
同税制では、令和5年3月31までの2年間に事業継続力強化計画の認定を受けた企業を対象に、認定日から1年間の間に計画に記載された対象設備を取得し、事業に用いた場合、特別償却20%(令和5年4月1日以降に取得等をする資産は18%)の税制措置を受けられます。
対象設備は、自家発電設備や排水ポンプといった100万円以上の機械装置、感染症対策のために取得するサーモグラフィーなどの器具備品30万円以上、架台や無停電電源措置(UPS)といった建物附属設備60万円以上などです。

補助金審査による加点を受けられる

認定企業はものづくり補助金をはじめとする補助金審査において、加点を受けられます。
補助金は助成金や給付金と異なり、要件を満たして申請すれば必ず採尺されるものではなく、審査に通過した場合のみ支給されます。
競争率の高い補助金審査において有利に働くでしょう。

ブランド力向上による社会的信用の獲得

認定企業は中小企業庁HPで公表され、誰でも企業名を確認できます。
また、専用のロゴマークを会社案内や名刺で使用し、認定のPRが可能です。
事業継続力強化計画を策定しているという事実は、「リスク管理へ積極的な企業」としてのアピールポイントにもなります。顧客や取引先にとっても安心要素になり、社会的信用の獲得にも繋がるでしょう。

事業継続力強化計画の申請方法

事業継続力強化計画は電子申請システムから簡単に申請可能です。
なお、電子申請には、GビズIDアカウント(gBizIDプライムもしくはgBizIDメンバー)が必要であり、アカウント取得には約2週間程度かかるため、時間に余裕を持ちましょう。

事業継続力強化計画に必要な項目

最後に、事業継続力強化計画に必要な項目を見ていきましょう。

事業継続力強化の目的の検討

まずは事業継続力強化の目的を検討します。
近年増加している自然災害や感染症の流行が起きると、従業員やその家族、顧客や取引先、地域住民など、経済社会全体に様々な影響を与えます。
自社の事業活動の意義や役割を踏まえつつ、非常事態発生時に経済社会に与える影響の軽減に資する観点から、目的を明確にすることが重要です。

災害等のリスクの確認・分析

ハザードマップなどを活用し、事務所や店舗・工場などが位置している地域の自然災害リスクを確認・分析します。「ヒト(人員)」「モノ(建物・設 備・インフラ)」「カネ(リスクファイナンス)」「情報」の4つの観点から、災害が事業活動に与える影響を想定します。

初動対応の検討

緊急時でも事業を止めずに継続させたり、迅速に復旧させたりするためには、どれだけ適切に行動できるかの初動が肝心です。人命の安全確保、非常時の緊急時体制の構築、被害状況の把握・被害情報の共有など、初動対応の手順や方法を検討します。

ヒト、モノ、カネ、情報への対応

人員確保、建物・設備の保護、資金繰り対策、情報保護に向けて、平常時と緊急時の具体的な対策を考えます。

平時の推進体制

事業継続力強化計画を策定していても、緊急時に効力を発揮できなければ意味がありません。計画内容を把握し、有事の際に慌てずに行動するためには、定期的な訓練の実施や計画の見直しなど、事業継続力強化の実行性を確保するための取組が必須です。

認定制度を利用して事業継続力強化計画の経済負担を減らしましょう

今回は事業継続力強化計画認定制度の概要やメリット、申請方法や必要項目について解説しました。事業継続力強化計画はBCPに比べて策定の手間や労力がかからず、中小企業でも取り組みやすいのがポイントです。認定制度を利用すれば、資金面で様々な支援を受けながら、リスク管理と企業ブランディングを行えます。
BCPに策定ハードルを感じている方は、まずは事業継続力強化計画の策定を検討してみましょう。

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