もし、あなたの企業の公式アカウントが炎上したり、機密情報のデータ改ざんなど不祥事が発生したりしたら…。あなたの会社ではリスクヘッジ十分に行われていると胸を張って言えますか?
いったんトラブルが起きてしまうと、社会からの批判にさらされ、企業イメージの失墜につながることも…。こうしたリスクから企業を守るために、「企業法務」が重要となります。
「企業法務」とは、企業活動に関わる法律上の業務の総称です。ここでは、法務部門の業務のうち主な4つの分野を紹介したうえで、法務を兼任もしくは新たに担当する方のために、培うべき知識や必要な能力について解説します。
目次
企業法務に求められる力とは
企業法務は、企業活動に関わる法律上の業務の総称であり、企業を法律の観点から支える役割を持ちます。
とはいえ、法律という専門的な知識を必要とするにもかかわらず、独立した法務部を持たずに、総務などの担当者が法務業務を兼任している企業も多いのが実情です。花王株式会社による法務部門実態調査によると、法務部を設置している企業は43.2%にしかすぎません。
そこで、企業法務に求められる能力が何かを知り、具体的にどんな知識が必要か、把握することから始めてみましょう。
会社の設立から、取引、人事・労務、そして解散まで、日々のすべての企業活動と法律は密接に関わっています。そのため、企業法務担当者には、幅広い法律知識に加え、社内さらには自社を取り巻く環境を全体的に見わたす力が求められます。
その力を身につけるには、自社のビジネスの理解のみならず、業界特性やトレンド、他社情報などについても収集に努め、最新の動きに関心を持つことが必要です。
また、一方で、法律の知識や実情に精通するのみならず、ビジネスを成功に導くための発想・センスも大事です。つまり、「法律上こうなっている」というだけではなく、自社の発展に向けた分析力やアイデアが求められます。
さらに、法務担当者には、社内外の関係者との調整能力も欠かせません。なぜかと言うと、営業部門と契約内容を検討したり、開発部門と特許における条件を議論したりするなど、他部署ともうまく連携する必要が出てくるためです。
あなたの企業にグローバル化の波が到来しているのであれば、国際的な取引が出てくるため、英語力も必須となるでしょう。以上のことを考えると、実務的に必要な能力は以下の通りにまとめられます。
■自社を取り巻く環境を全体的に見わたす力があること
■法律の知識、実情に精通していること
■ビジネスを成功に導くための発想・センスがあること
■コミュニケーション能力、バランス感覚など、社内外の関係者との調整能力があること
■国際的な取引に関わるのであれば、一定レベルの英語力があること
これらの能力を満たすために資格を取りたい、と考える方もいるかもしれません。そんな方には、司法書士、行政書士の他に、「ビジネス実務法務検定(ビジ法)」「法学検定」をおすすめします。
「ビジネス実務法務検定(ビジ法)」は、法務部門に限らず、総務、人事などあらゆる職種で必要とされる法律知識を習得できる東京商工会議所の検定です。
なお、この検定は、企業活動の主要分野を広くカバーしているため、ほとんどの業種で通用するといわれます。人事異動や採用の際の能力評価の参考にする企業も増えています。
「法学検定」は、公益財団法人日弁連法務研究財団が実施している検定です。法学に関する学力を客観的に評価する日本唯一の全国規模の検定試験として知られています。
企業法務の具体的な内容とポイント
企業法務の仕事の全体像がわかったところで、ここでは具体的な仕事内容に迫ります。「契約業務」「コンプライアンス業務」「事件・事故への対処(紛争対応法務)」「株主総会・取締役会の運営(組織法務)」の4つをご説明します。
①契約業務:メインの法務の仕事
幅広い法務の仕事の中でもメインとなりやすいのが契約業務です。
ビジネスでは、取引や契約をする機会が日常的に生じますが、その際、契約書を通して契約を交わすケースがほとんど。契約業務の具体的な仕事は、こういった売買契約、秘密保持契約、業務委託契約などの契約書を作成することです。また作成した契約書の内容チェック(審査、レビュー)も担当します。さらに、このようにして締結された契約書の管理を法務担当者が行うケースもあります。
この分野では、日々の業務をこなす中で、自社と業界のビジネスをよく観察し、付け焼き刃でなく深い理解に努める姿勢が重要です。また法律知識を深めるため、六法全書や判例になるべく親しむ習慣をつけるとよいでしょう。
加えて、国際的な取引が増えている近年では、英文契約書も企業にとって不可欠となりつつあります。用語や表現、書式など、英文契約書は日本と異なる部分も多いため、作成や内容チェックスキルを身につけておくと、急を要するビジネスシーンでもスピーディな対応が可能となります。
②コンプライアンス業務:組織のコンプライアンス意識を高める仕事
コンプライアンスとは、企業が法律や企業倫理を遵守すること。
企業が不祥事により社会的信用を失わないために、民法、会社法、刑法をはじめ労働関係法令や知的財産法、個人情報保護法等を網羅的に理解し、コンプライアンス(法令順守)意識の高い組織へと体制を整える仕事です。
具体的な仕事としては、コンプライアンスに関する社員の研修や教育、社内の法律相談窓口の設置、マニュアル作成、内部通報制度の整備などが挙げられます。
企業の不祥事がマスコミをにぎわす今日、従業員や役員一人ひとりのコンプライアンス意識が問われています。そのかなめとなるのが法務です。
担当者は、法令違反の有無をチェックするのみならず、社内のコンプライアンス意識の向上を図っていく必要があります。他の部門以上に高い倫理観とコンプライアンス意識が求められるといえるでしょう。
最近では、株式会社サーティファイが実施している、法律知識と実践的な価値判断基準を問う「ビジネスコンプライアンス検定」も注目を集めています。この資格を取得することで、コンプライアンス業務に必要なことができます。
③事件・事故への対処(紛争対応法務):訴訟や交渉に対応する仕事
何らかの事件や事故により、企業が法的な責任を問われたり、逆に追及したりする際、弁護士とともに訴訟や交渉に対応する仕事です。
問題が起きた場合は、早い段階で方針を決定し、十分な準備と対応を行うことが重要です。 法務担当者は、裁判手続の流れに沿って、事実関係の調査、訴訟書類の作成、証拠の収集、証人尋問の準備などを、弁護士と協力しつつ行っていくことになります。また、紛争解決後は、そもそもの原因や、自社の対応が適切であったかなどを分析し、再発防止策を講じることが重要です。
解決力に加え、課題発見力が問われる分野といえるでしょう。
④組織法務:株主総会・取締役会の運営
企業活動を維持していくうえで欠かせないのが組織法務です。
具体的には、取締役会や株主総会の事務局としての仕事が挙げられます。株主総会や取締役会の運営のみならず、株式に関わる法的諸業務(発行や分割)、定款の変更、子会社の設立なども担います。またグループ企業の組織再編やM&A、株式上場などに関わることも考えられます。
この分野では、会社法を中心とした法律知識が求められます。
株主総会や取締役会は、総務担当者としても大事な仕事でもあります。関係する規定には目を通し、知識を身につけておきましょう。定款や商法の関連規定なども、自分なりに勉強しておくことが大事です。「慣例だから」と機械的に社内の一連の作業をこなすのではなく、知識に基づき意識的に行動するようにすると、より企業活動の面白さを感じとることができるでしょう。
まとめ
営業や開発の部署が、売買や商品開発、製造という形で直接の利益を生み出すのに対し、法務は利益に直結しない黒子的な役割といえます。
日々、法律知識を積極的に吸収する向学心に加え、自社をとりまく環境や動向への関心、コミュニケーション能力など、求められる要素は多岐にわたりますが、どのような企業であれ、いったん法律上のトラブルを起こせば簡単に根底からくつがえりかねません。
それを防ぎ企業の成長を裏から支える仕事が企業法務であり、大きな責任とともに醍醐味も味わえる職務といえるでしょう。