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中小企業に必要なBCP策定とは?内容や作成時のポイントを解説

自然災害などの緊急事態が発生したとき、大企業と比べると経営資源が乏しい中小企業は復旧に時間がかかったり、復旧が不可能になったりといった状況に追い込まれるケースがあります。

被災した状況から速やかに復旧し、事業の継続性を高めるBCP(事業継続計画)の策定は、中小企業にとって不可欠です。

この記事では、中小企業に必要なBCPの内容やポイントについて解説します。

中小企業のBCP策定は重要!

BCPとは「Business Continuity Plan」の略称で、日本語では「事業継続計画」と訳されます。事業継続計画とは、自然災害などの緊急事態時に企業や団体が被害を最小限にして短期間で事業を再開させるために作成する計画のことです。東日本大震災や新型コロナウイルス感染症の蔓延などの経験を経て、近年重要視されるようになりました。

前述の通り、一般的に中小企業は経営資源が不足しているため、自然災害などで被災すると甚大な被害を受け、事業の回復に時間がかかってしまうことがあります。BCPを策定しておくことで、被災からスムーズに復旧し、事業を継続できるようになります。

中小企業のBCP策定率の実態

東京商工会議所が実施したアンケートの結果によると、2023年の段階で中小企業のBCP策定率は27.6%にとどまっており、決して高い数値とはいえません。また、地震や水害といった自然災害を想定したBCPは策定できていても、パンデミックやテロといった他の非常事態への策定はできていないという問題も指摘されています。

参考:東京商工会議所の会員企業におけるBCP対策のアンケート結果

中小企業がBCP導入をできない理由や課題

中小企業のBCP策定が進まないのはBCPに対する理解不足だけでなく、業務内での優先順位が低い、人材や資金が不足しているなどの要因もあります。ここからは、中小企業がBCP策定に対して抱えている課題について解説します。

BCPに対する理解の不足

BCPそのものへの理解不足が、BCP策定率を伸び悩ませている要因のひとつです。

帝国データバンクが調査を行った「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2021 年)」によると、BCPを策定していない理由の中で最も多かった回答が「策定に必要なスキル・ノウハウがない」でした。

国や自治体、取引先からBCP策定の要望や要請をされるものの、「そもそも何をすればよいかが分からない」というのが中小企業の本音であると思われます。

業務内での優先順位が低い

中小企業は大企業に比べ人的リソースが少ない傾向にあります。従業員は通常業務に追われているため、BCPの策定のような「もしもの場合の備え」はどうしても業務の中での優先順位が下がってしまいます。

また、中小企業は特定の地域を基盤としている企業が多いため、大規模な自然災害が発生しても近隣地域でなければ直接的な影響を受けにくく、自然災害に対しての危機感が低いという点も問題です。

人員や資金の不足

人員や資金面の不足も、中小企業においてBCP策定が進まない要因のひとつです。

人的リソースの不足から、多くの中小企業では防災に特化した人材を社内に確保する余裕がないというのが実情です。

BCPの策定には、プロジェクトを遂行する人員を選出するだけでなく、防災用品の調達などに費用が発生します。多くの中小企業はその余裕がないため、BCPの策定が遅れているのです。

策定する重要性が分からない

BCPの意義や重要性についての理解不足も、策定を遅らせている要因です。

前述した帝国データバンクの調査によると、BCPを策定していない理由の中で「必要性を感じない」「自社のみ策定しても効果が期待できない」という回答が大企業よりも中小企業の方が多いという結果になりました。

BCPは本来自社のみではなく、関係する企業や自治体と連携して相互に補完しあう形で取り組むものです。内容を理解した上で自社のみ実施しても意味がないと考える企業が出てくるのはやむを得ない側面があり、行政の主導による斡旋が必要なポイントともいえます。

BCP策定のポイント3選

これまで見てきたように、中小企業にとってBCPの策定にはさまざまな課題があります。こうした状況下で、BCPを効果的に策定するにはどのような対策が必要なのでしょうか。中小企業がBCPを能動的に策定するためのポイントについて解説します。

まずは作成してみる

BCPに関しては、国や自治体からさまざまなガイドラインが発表されています。また、他社のBCP事例が公開されているケースも多々あります。こうした情報をもとに、BCPをまず策定してみることもひとつの手段です。

完璧な内容のBCPをいきなり作ろうとすると、途中で頓挫してしまう可能性があります。現時点で対応可能な範囲で自社の状況に合わせたBCPを策定しましょう。いったん策定をして随時更新していく形でも、策定していない状況よりは明確な前進といえます。

内容は随時更新する

策定したBCPは、社会情勢の変化や法改正に合わせて随時更新していくことが必要です。

訓練を行うことで、策定をした時点では見えていなかった課題を見つけることができます。訓練を行った際は、従業員からフィードバックをもらい、不備や課題はないか確認するようにしましょう。

不明点は専門家に相談する

自社でのBCP策定が難しい場合は、BCP策定を専門とする外部企業の活用もひとつの手段です。専門性の高い企業に依頼することで、策定への道筋が明確になるでしょう。

BCPコンサルにかかる費用の相場は、事業規模や従業員数によって変動しますが以下の通りです。

・コンサルティング会社:約100万円から200万円

・行政書士事務所:約40万円

・中小企業診断士:30万円程度

費用を捻出するのが難しい場合は、自治体や地域金融機関による制度融資やBCP支援融資を利用するという選択肢もあります。

中小企業のBCP策定を支援している団体

中小企業のBCP策定に関しては、国や自治体だけでなく、さまざまな民間団体がその策定支援を打ち出しています。BCP策定に対する疑問点や課題に関して、こうした団体の支援を活用することによって解決の糸口が見えてくる可能性があります。

ここからはBCP策定を支援している団体についてご紹介します。

商工会議所の取り組み

「そもそもBCPとは何か」「実際にBCPを策定したい場合にどうすればよいか」といった疑問や課題を解決するため、日本商工会議所は講義映像を公開しています。

また、東京商工会議所では、感染症や情報漏洩、自然災害などさまざまな脅威に対応できる「BCP策定ガイド」を発行しています。二重化やアウトソーシングなど8つの戦略が紹介されており、BCPの策定をしたことがない企業でもスムーズに進めることが可能です。

また、策定講座やシンポジウム等も実施しており、BCPの基本や採用例を学び、自社の策定の参考にすることができます。

各業界団体の取り組み

BCPの内容は、業種や事業内容ごとに独自性が高くなります。そのため、各業界団体によるBCP策定支援の取り組みを活用することも有効な手段です。

たとえば、一般社団法人日本金属プレス工業協会では、BCPの取組に関する協会独自の認定制度を導入しています。BCPをマネジメントするシステム構築をサポートするJMSA BCMS構築ツールを作成しています。

また、一般社団法人日本建設業連合会は、大規模災害発生時に政府と応急活動を担う指定公共機関です。防災業務計画や震災時初動対応ハンドブックなどを作成し、災害対策部会、BCP部会や首都直下地震対策ワーキンググループを設置しています。

一般社団法人全国建設業協会も同様に指定公共機関に指定されており、建設業向けに地域建設業における災害時事業継続の手引きや事業継続計画作成例などを提供しています。

金融機関の取り組み

日本政策投資銀行は、独自の評価システムにより企業の防災や事業継続に関する取組を評価し、融資条件を設定する「BCM 格付」を行っています。格付に応じて金利が優遇されることに加え、取組内容の見える化や相対化などステークホルダーへのアピールといったPR効果が期待できる制度です。

また、日本政策金融公庫は、防災のための設備資金や運転資金を融資する「社会環境対応施設整備資金」制度を実施しています。

初めて作成をする場合は、テンプレートを活用しよう

中小企業庁や東京商工会議所は、BCP策定にあたり参考となるテンプレートを公表しています。ここからはBCP策定のテンプレートについてご紹介します。

中小企業BCP策定運用指針|中小企業庁

中小企業庁は中小企業のBCP普及と促進を目的とし、運用指針を発表しています。

中小企業の特性や実状に基づいたBCPの策定方法や運用方法についてわかりやすく説明されており、指針に沿って進めることでBCPに関連した書面を作成できる仕様となっています。

入門・基本・中級・上級の4つの段階ごとに運用指針に基づいた書面の作成が可能で、自社の状況や規模に合わせて指針を活用することが可能です。

参考:中小企業BCP策定運用指針

東京商工会議所

前述の通り、東京商工会議所は「BCP策定ガイド」を作成しています。本編では東日本大震災の事例や企業の生き残り戦略を解説しており、事業継続戦略に基づくBCP策定を推奨しています。様式集では図表などを織り交ぜながら、効果的にBCPが策定できるようわかりやすく解説しており、これらはHPからダウンロードして活用が可能です。

参考:BCPなど企業の防災対策支援

中小企業のBCP導入には補助金が活用できるケースもある

資金面も中小企業のBCP策定を妨げるマイナス要因となっていますが、中小企業のBCP導入に関して補助金が活用できる可能性があります。自治体で実施しているものも多いため、自社の地域で活用可能な補助金がないか確認しましょう。

BCP実践促進助成金|東京都中小企業振興公社

BCP実践促進助成金は、BCPの実践に必要な物品、設備等の導入経費についてその一部を助成する東京都中小企業振興公社の制度です。

助成対象は同公社が設定した要件を満たす中小企業で、策定されたBCPの実践に必要な設備・物品の購入、設置に関わる費用が助成対象になります。助成率は、1500万円を上限として、中小企業者等の場合は助成対象経費の1/2以内、小規模企業者では助成対象経費の2/3です。

参考:BCP実践促進助成金|東京都中小企業振興公社

事業継続力強化計画認定制度|中小企業庁

中小企業庁が設けている事業継続力強化計画認定制度は、中小企業の事業継続計画に対する認定制度です。認定を受けた中小企業は防災・減災設備に対する税制措置、低利融資、

補助金の加点措置などを受けることが可能です。

計画が認定されることにより、設備資金について基準利率から0.9%引下げた利率で日本政策金融公庫から融資が受けられます。日本政策金融公庫の中小企業事業では、設備資金において貸付限度額のうち4億円までは、0.9%の引下げが適用となります。返済期間は、設備資金で20年以内、長期運転資金で7年以内です。

参考:-中小企業等経営強化法-事業継続力強化計画認定制度の概要

中小企業が押さえるべきBCP策定とは

最後に、中小企業が押さえるべきBCPの策定ポイントについてまとめます。

まず、優先して継続・復旧をする事業を決めることです。

複数の事業を展開している場合、会社の核となる事業、優先的に継続・復旧させる事業を明確化しておきます。

次に、復旧にかかる時間設定をし、顧客やクライアントに対して緊急事態時の体制について共有することも必要です。

最後に、社内でマニュアルを共有します。

緊急事態時の動きや避難場所、その後の運営方法についてマニュアルを作成し、社員と共有して適切な行動を取れるように促していきます。

まとめ

BCPは、いざという時にどのようにして事業を継続するかを定め、被災による倒産などのリスクを軽減するための計画です。能動的に取り組むことで、BCPの策定が中小企業のリスク軽減だけでなく、事業の要点や社会性を認識する一歩となるでしょう。

こうした取組みによって緊急事態時の企業の継続性が上昇し、地域の復興時に大きな助けとなります。

BCPの策定に重要なことは、平常時から訓練を繰り返してPDCAサイクルを回し、組織内に災害時の対応を染みつかせておくことです。

経営者の的確な判断ももちろん重要ですが、近年では経営者層の高齢化が進んでいます。そのため、全社的に行動ができる体制を作ることが、防災/減災のためには欠かせません。

ぜひ、この機会にBCPの策定に取り組んでください。