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事業継続力強化支援計画とは?中小企業を災害から守る取り組みを解説

東日本大震災より、官民一体となった防災への取り組みが進められています。
そのうちのひとつが、中小企業への支援策の「事業継続力強化計画」です。
しかし中小企業では、リスクマネジメントのノウハウや専門知識を持った人材の欠如から、防災計画を策定する企業の数はあまり増えていません。

このような事態で、中小企業の相談役としての役割を担うのが、地域の商工会・商工会議所や自治体です。

今回は、商工会・商工会議所や自治体がサポートし、策定を進める「事業継続力強化支援計画」について解説します。あわせて、中小企業を支援する法律や制度もご紹介します。

「事業継続力強化支援計画」を進めることで、難しいと嫌厭されがちなBCPの策定が、とても身近になります。
災害に強い企業を目指す取り組みに、ぜひご活用ください。

事業継続力強化支援計画とは?

「事業継続力強化支援計画」とは、商工会・商工会議所が、市町村と連携して「事業継続力強化計画」の策定を支援する取り組みをいいます。

策定した計画は、都道府県知事に申請し、認定される仕組みです。

まず「事業継続力強化計画」と「事業継続力強化支援計画」の違い、そして中小企業の防災・減災対策を促進するための法律について解説します。

事業継続力強化計画との違い

「事業継続力強化計画」というのは、BCPの簡易版とされています。
BCP(事業継続計画)とは、企業が災害などの緊急時に備えて、事業活動の継続を確保するために定めておく計画です。

BCPについては、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。

「事業継続力強化計画」は「ジギョケイ」とも呼ばれ、中小企業が自然災害などを想定して、事業を継続するための計画を作成するものです。「事業継続力強化計画」を作成することで、災害時の被害を最小限に抑え、できる限り早期の事業復旧を図ります。

「事業継続力強化計画」は、中小企業が策定し、経済産業大臣(地方経済産業局)に申請を出し、認定されます。

一方の「事業継続力強化支援計画」は、「事業継続力強化計画」を独自の力で作成できない企業向けの支援制度です。企業の事業継続力強化のための支援プログラムで、地域の商工会・商工会議所と自治体(市町村)が連携して、取り組みを支援します。

「事業継続力強化支援計画」の策定は、商工会・商工会議所と自治体が共同で行い、都道府県知事に申請し、認定を受けます。

「中小企業強靭化法」及び「事業継続力強化計画認定制度」

中小企業の取り組みを支援するために、経済産業省が支援する法律として「中小企業強靭化法」が、2019年7月に施行されました。
(「中小企業強靭化法」の正式名称は「中小企業の事業活動の継続に資するための中小企業等経営強化法等の一部を改正する法律」といいます。)

「中小企業強靭化法」は、中小企業が自然災害に備えて、防災・減災の事前対策を進め、事業活動の継続を図るための法律です。

この法律には、災害発生時に中小企業が事業を継続できるよう、金融や税制などのさまざまな観点で企業を支援する取り組みが盛り込まれています。

「中小企業強靭化法」では、中小企業が策定した防災・減災対策のための計画を、経済産業大臣が認定する「事業継続力強化計画の認定制度」が設けられています。この認定制度によって、認定を受けた企業がさまざまな優遇を受けられる措置が講じられています。

この「事業継続力強化計画の認定制度」は、「中小企業強靭化法」の施行と同じ、2019年(令和元年)にスタートしました。しかし、認定された中小企業の数は少しずつ増えてきているものの、まだ数は少ないという現状です。

次の項目では、「事業継続力強化計画」の策定のハードルを下げる取り組みと、策定のプロセスについて解説します。

事業継続力強化支援計画プロセス

「事業継続力強化計画」の認定事業者数は、全国の中小企業・小規模事業者の1割弱に留まっています(令和4年末時点)。
その理由として、計画の策定が難しく感じること、専門的な知識をもっている社員や相談する相手がいないことなどが挙げられます。

そのような中小企業の身近な相談相手として、事業継続力強化のサポートをしているのが、商工会・商工会議所や市町村の自治体です。

商工会・商工会議所や市町村の支援による「事業継続力強化計画」の取り組みと、認定によるメリットについて解説します。

小規模事業者支援法

2019年(令和元年)に施行された「中小企業強靭化法」の中で、「商工会及び商工会議所による小規模事業者の支援に関する法律」の一部が改正されました(「小規模事業者支援法」)。

この「小規模事業者支援法」により、商工会・商工会議所が市町村と連携して、小規模事業者の事業継続力の強化を支援していく仕組みが整えられました。

商工会・商工会議所と自治体が、中小企業を共同で支援して作成するものが「事業継続力強化支援計画」です。

商工会と商工会議所の役割

中小企業の身近な相談相手としての役割を担っているのが、商工会・商工会議所です。

地域の商工会・商工会議所と自治体が連携して、中小企業の防災力を高めるために、「事業継続力強化計画」の普及や啓発の取り組みを進めています。

「事業継続力強化計画」の作成については、全国の中小機構(中小企業基盤整備機構)でも、さまざまな支援策が用意され、相談することも可能です。しかし、中小機構の拠点は全国に10ヵ所と数も少ないため、相談が難しいという実態もあります。

そこで計画の策定を支援しているのが、地域の商工会・商工会議所や自治体です。
商工会・商工会議所では、中小企業に向けて「事業継続力強化計画」に関するセミナーの開催や、作成のサポート支援を行っています。

災害への対応を考える際には、地域のリスクや特性を考慮することも欠かせません。その観点からも、地域の状況を把握している商工会議所や自治体と連携して取り組むことのメリットは大きいといえます。

「事業継続力強化支援計画」は、県が作成した「事業継続力強化支援計画の申請ガイドライン」に基づいて作成し、都道府県知事に申請します。
その計画を都道府県知事が認定し、認定を受けた小規模事業者は、各種の支援措置を受けることが可能です。

各都道府県の申請ガイドライン
(中小企業庁のサイトへ移動します。)

企業が事業継続力強化計画に認定されるメリット

「事業継続力強化計画」を提出して、国から認定を受けることで、主に次のようなメリットが得られます。

  • 公的な支援を受けられる
  • 認定ロゴマークが使用できる
  • 平時の経営の改善・強靭化が図れる(有事だけでなく平時に役立つ)

「事業継続力強化計画」が認定されることの最大のメリットは、もしものときにさまざまな金融支援が受けられることです。

具体的には、信用保証枠の拡大や、低利融資といった金融支援が受けられます。

防災・減災設備に対する税制措置や、補助金の加点措置といった支援策が受けられることも大きな利点です。

さらに、認定企業は「認定ロゴマーク」を使うことができます。

「認定ロゴマーク」は、災害に対する取り組みをしている企業の証となり、取引先にも大きな安心感を与えます。対外的な信用力向上にもつながることは、企業としての大きなメリットです。

計画を策定することで、非常時だけでなく平時の経営の見直しも図ることができ、経営の改善・強靭化する取り組みにもつながります。

中小企業信用保険法の特例

認定された企業が受けられる金融支援のひとつに「中小企業信用保険法の特例」が挙げられます。

「中小企業信用保険法の特例」とは、民間金融機関から融資を受ける際に、保証枠の拡大や別枠での追加保証を受けられる支援措置です。

中小企業者は、「事業継続力強化計画」の実行にあたり、設備投資だけでなく、事業資金においても、融資を受ける際に保証枠の拡大が受けられます。

【保証限度額】

引用:中小企業等経営強化法ー 事業継続力強化計画認定制度の概要 

保証の拡大や、別枠での追加保証が受けられるものは、「事業継続力強化計画」に記載されている内容のものに限定されます。
そのため、「事業継続力強化支援計画」を作成する際には、記載内容をしっかり検討して作成することが重要です。

中小企業防災・減災投資促進税制

「事業継続力強化計画」に認定された企業は、防災・減災設備に対する税制措置も受けられます。この税制措置に該当するものが「中小企業防災・減災投資促進税制」です。

「中小企業防災・減災投資促進税制」は、自然災害に備えた「設備面での事前対策」を後押しするための税制措置です。

「事業継続力強化計画」に記載された対象設備を、適用対象期間内に新たに取得する場合、20%の特別償却が適用されます(令和5年4月1日以後に取得する対象設備については、特別償却18%)。

適用対象者は、青色申告を提出する中小企業者となり、対象設備は「自然災害が事業活動に与える影響を軽減する機能を有するもの」となります。

さらに適用対象期間は、「事業継続力強化計画」の認定を受けた日から1年となっている点にも注意が必要です。

中小企業が独自のBCP策定が困難な理由

「事業継続力強化計画」を作成することで、金融支援や税制措置が受けられるだけでなく、BCPの作成につながることも、大きなメリットとなります。

しかしBCPの策定状況を見てみると、全体で17.7%ほどに留まっています(2022年5月調査)。
企業の規模別の策定率は、大企業で33.7%、中小企業で14.7%となり、大企業では年々少しずつ上昇しているものの、中小企業の策定率は依然として低い状況です。

中小企業において、BCPの策定が大企業よりも進んでいない理由は、人的リソースが不足していることが大きな要因です。
専門の知識をもった社員(リスクマネージャー)などが在籍しないため、リスクの認識も進まず、策定の時間を確保できない現状もあります。

しかし大企業に比べ中小企業は、経営資源が少なく、災害による事業の中断・停止が、廃業に直結してしまう恐れも懸念されます。
そのためBCPの策定は、中小企業にこそ必要と考えられている取り組みです。

BCPの策定につなげるためにも、「事業継続力強化計画」の認定を受けることは、中小企業にとって大変大きな意義があります。
「事業継続力強化支援計画」の策定を進め、災害に強い企業を目指しましょう。

事業継続力強化計画の策定を進め、災害に強い企業に

中小企業の災害対策として有効的な、「事業継続力強化計画」と「事業継続力強化支援計画」について解説しました。
自然災害による被害を最小限に留め、早期の事業復旧を目指すためにも、事業活動の継続を確保する対策を事前に立てておくことは、企業の責務ともいえます。

さらに、災害時の初動行動として最も重視されているのが、人命保護を目的とした従業員の安否確認です。

「事業継続力強化計画」やBCPは、事業継続を目的として策定されますが、人命保護は最優先課題であり、事業の継続とも表裏一体の関係となります。

災害は、事前の計画や練習がなければ、緊急時の迅速な対応につながりません。
BCPの策定は、災害に強い企業を作るためにも、大切な従業員を守るためにも、大きな力を発揮してくれます。

まずは「事業継続力強化支援計画」に取り組み、段階的にBCPの策定も進め、災害に強い企業体制を整えましょう。