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南海トラフ地震が起きたらどうする?企業が取るべき防災対策とは

地震大国である日本で、近い将来に高い可能性で起きるといわれているのが南海トラフ地震です。もし現代で発生した場合、その影響の想定範囲の広さから被害は甚大となり、国難ともいえる事態が予想されています。そのため、国は南海トラフ地震の防災対応ガイドラインを公表しています。この記事では南海トラフ地震の概要と防災対応ガイドラインの内容、それに対して企業が確認したい事項について取り上げます。

 

そもそも南海トラフ地震とはどのようなものか

南海トラフ
南海トラフとは駿河湾から紀伊半島の南方沖を経て、土佐湾から日向灘の南方沖まで続く溝状の海底地形のことです。フィリピン海プレートが西日本地域の地盤となるユーラシアプレートの下に潜り込んだ場所で、プレート境界では1年あたり数㎝の速度でフィリピン海プレートが沈み込み続けています。プレート同士の固着によりプレート境界で引き込む力が働き、ユーラシアプレートが地下に引っ張られ、ひずみが少しずつ蓄積されていくのです。

そして、長年のひずみの蓄積により引っ張る力が大きくなるとユーラシアプレートがもちこたえられなくなり、限界に達したときにプレートが跳ね上がって地震が発生するという現象を招くこととなるわけです。震源域は広く、東から東海地震、東南海地震、南海地震となり、全体を南海トラフ地震と呼びます。過去の南海トラフ地震は、この地震発生のメカニズムが繰り返されることにより発生したと考えられています。

もっとも近い過去3回の地震は1707年の宝永地震、1854年の安政地震、1944年・46年の昭和地震です。3回の地震の発生過程はさまざま。宝永地震は東海、東南海、南海と3つの震源域がほぼ同時に揺れましたが、安政地震は東海・東南海地域と南海地域で時間差があり、マグニチュード8クラスの大規模地震が32時間後に再び発生しました。昭和地震では東南海地震後2年という時間を経て南海地震が発生しています。このように、地震の発生は、3つの震源域で同時発生することもあれば、時間差がある可能性もあり、かつその間隔も一定ではありません。

記録に残っているその前の南海トラフ地域の地震は684年の白鳳(天武)地震、887年の仁和地震、1096年・1099年の永長東海地震・康和南海地震、1361年の正平(康安)東海地震・南海地震、1498年の明応地震、1605年の慶長地震が挙げられます。このことから南海トラフ地震はおよそ100~200年の間隔で繰り返し発生していることがわかります。前回の南海トラフ地震は1944年の昭和東南海地震と1946年の昭和南海地震のため、現在は発生から70年以上が経過していることになります。こうした過去の地震発生間隔をもとに、地震調査研究推進本部は、次の南海トラフ地震が今後30年の間に発生する確率を70~80%と予測しています。

とくに駿河湾から静岡県の内陸部までを震源域と想定する東海地震は、1854年の安政地震から160年以上大規模な地震が発生していません。しかし、駿河湾地域では地殻のひずみの蓄積が認められており、東海地震はいつ起きても不思議ではないと考えられています。東海地震を想定した大規模地震対策特別措置法が1978年に制定されましたが、制定から40年経ち、現在はより広範囲の南海トラフ地震に関する情報の必要性が高まっています。

参考:
国土交通省 気象庁 南海トラフ地震とは
NHK解説委員室 「南海トラフ地震への備え」(視点・論点)

国が南海トラフ地震の防災対応ガイドラインを公表

南海トラフガイドライン
2019年3月29日に内閣府は、南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた防災対応検討ガイドラインを公表しました。このガイドラインは南海トラフ地震が発生する可能性が高まったときに、地方自治体や企業などがどのような防災対応を取るべきかの対策をまとめているものです。2018年に中央防災会議のワーキンググループが取りまとめた方針をうけて作成した具体的な手順書で、これから地方自治体や企業などで防災計画を検討するときに参考にするべきものと位置づけられます。

ガイドラインは3編で構成されています。まずは、気象庁が発表する臨時情報の位置づけ、情報ごとの基本的な対応の仕方、国が呼びかける情報の流れといった地方公共団体や指定公共機関・特定企業などに共通する「共通編」。つぎに、地方公共団体が住民を避難させる際の検討手順などを示した「住民編」。さらに、特定企業や指定公共機関などが事業への影響を想定して災害対応を検討する際の手順などを示した「企業編」があります。地方公共団体とは都道府県・市区町村を指し、指定公共機関とは電気事業、ガス事業、通信事業、流通事業などの企業のことです。特定企業とは地震による津波浸水が30cm以上想定される区域にある、病院や劇場、旅館、百貨店など多くの人が出入りする施設や、鉄道事業や旅客運送事業者、1,000人以上の工場、学校、社会福祉施設などを指します。

たとえば、被害甚大ケースとして、マグニチュード8以上の大規模地震が南海トラフの震源域で発生し、ほかの隣接地域にも連動の可能性があると気象庁が発表した場合の具体的対応が記載されています。これまでに津波から避難する時間がない地域住民や高齢者は安全のため、約1週間避難する必要があるとの方針が示されていましたが、今回のガイドラインではより具体的に、津波の到達が予想される時間までに緊急避難場所へ移動できないとみられる地区を自治体が「事前避難対象地域」に指定され、市区町村ごとに地域の特性や事情に応じてあらかじめ避難する地域を定め、避難施設の数や高齢者の割合などを定めるように促しています。また、津波浸水区域にある学校は子どもたちの安全のため、休校することも含めて対応を検討することとしています。

住民編では、地方公共団体が、日ごろから軟弱地盤などで土砂災害が起きやすい地域の住民や、地震を想定していない耐震基準以下の住宅・マンションの住民に対し、安全な場所への避難をあらかじめ検討するように促しています。

一方、マグニチュード7以下の地震が起きた場合や、短期間にプレート同士の固着が変化してゆっくりすべるような異常な揺れを観測した場合は、避難までは促していません。その対策として部屋の家具を固定するなど、地震への普段の備えができているかを再確認するように呼びかけています。

参考:
内閣府防災担当 南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた防災対策検討ガイドライン(第1版)の公表について
朝日新聞DIGITAL論座 南海トラフ地震の防災対応ガイドライン
0テレNEWS24 南海トラフ巨大地震 防災対応ガイドライン

防災対応ガイドラインの内容と企業が特に確認したい部分


企業に対しては、地震発生の精度の高い予測が困難であること、完璧に安全な防災対応を行うことは現実的ではないことから、地震への普段の備えを再確認するなど警戒レベルを上げることを基本にしています。そのうえでそれぞれの状況に応じて適切な対応をとり、できる限り事業を継続できる体制を維持することを求め、経済活動への影響を最小限に抑えるように努めることが重要としています。また、病院や劇場、旅館、百貨店など多くの人が出入りする施設や鉄道事業者は、南海トラフ地震防災対策の計画策定が義務付けられます。鉄道事業者は運行を継続できるように、病院や百貨店などは原則として営業を継続する防災対策が必要になります。

津波想定区域は事前避難対象地域も含まれ、対象地域の場合、大津波警報などが解除されたあとの余震に備え、避難所での避難を継続する避難勧告などが発令されます。事前避難対象地域に該当する企業の場合は、それを踏まえた防災対応が必要です。また、臨時情報が発表されたときの状況確認が必要になります。

たとえば、事前避難対象地域に従業員が居住している場合、避難所での避難生活や子どもが通う学校の休校、交通機関の停止などで出勤不可能となる可能性があり、出勤可能な従業員の数が減少するでしょう。また、取引先が事前避難対象地域や被災地域に当たる場合、事業がストップすることで必要な材料や仕入れの調達が困難になることも考えられます。

このような状況が想定される中、企業活動を1週間どのように継続するかの措置を検討します。例えば臨時情報が発表されたときに出社できない可能性がある従業員を把握し、業務に必要な人員を再配置する、代替人員や取引先を確保するなどです。自社の事業継続計画(BCP)を策定していれば、その対応を参考にすることができます。

対象地域のすべての企業は、普段から地震への備えを再確認しましょう。安否確認手段や落下防止対策、備蓄、職員の役割分担などです。病院や百貨店など多くの人が利用する施設を運営・管理する企業は、施設や設備などを点検します。生産設備、耐震診断による危険箇所、転倒・落下物の恐れがある箇所、緊急用自動車などが考えられます。事前避難対象地域内にある企業は、第一に従業員の安全確保を確実に実施できるよう対策しましょう。事業継続で生命に危険が及ぶ場合は、避難勧告に従って避難するなど危険を回避することになります。

そのほか、ガイドラインは、余震が発生した場合に被害を軽減し、早期復旧させるため、普段以上に警戒した防災行動を検討することが望ましいとしています。荷物を平積みにしたり、輸送ルートを沿岸部から内陸部に変更したり、燃料を貯蔵するなどの措置があります。また、企業の特性を活かし、地域の防災対応に貢献することを求めています。卸売・小売業者には生活必需品などの物資の提供支援、医療・福祉事業者には避難所での住民のメンタルヘルスケアや要援護者のケア、製造業者には避難先のための敷地の開放、物資や資機材の提供・貸与などの支援を促しています。

参考:
内閣府防災担当 南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた防災対策検討ガイドライン(第1版)の公表について
朝日新聞DIGITAL論座 南海トラフ地震の防災対応ガイドライン
0テレNEWS24 南海トラフ巨大地震 防災対応ガイドライン
デジタル毎日 南海トラフガイドライン 自治体や企業、従来より踏み込んだ対応を検討

まとめ

今回発表されたガイドラインは、従来より踏み込んだ対応を自治体や企業に求めています。しかもタイトルに第1版とあり、今後さらに内容が改善され、バージョンアップされていくことが考えられます。震源域の沿岸自治体では先行して避難所確保などを検討しており、たとえば、JR西日本ではすでに地震の早期探知システム導入や、新幹線の車両が脱線しても車輪が大きく逸脱することを防ぐ「逸脱防止ガード」の敷設などの対策を行っています。対象企業は南海トラフ地震の際のBCPについて具体的な検討が求められているのです。

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