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改正された障害者雇用促進法により雇用義務が発生した時の対応のポイント

「誰もが活躍できる社会」を実現するため、国は「障害者の雇用の促進等に関する法律」を定め、企業に一定の割合で障害者を雇用する義務を課しています。同法は2016年と2018年に相次いで改正されており、障害者の雇用を改善しようとする動きが目立ちます。このような障害者雇用に関係する一連の法改正は、企業活動に影響する重要なトピックです。そこでここでは、法律の成り立ちと沿革、改正のポイント、企業が知っておきたいことを詳しくお伝えします。

これまでの障害者雇用


障害者が自身の能力を生かして社会に参画し、自立を促しつつ障害者の安定した雇用を実現することを目的として、1960年に「身体障害者雇用促進法」が制定されました。

当初、民間企業は努力目標で、公的機関に対してのみ身体障害者雇用の義務が課されていましたが、1973年のオイルショックによる経済打撃によって障害者が真っ先に職を奪われ、雇用状況が悪化した結果、1976年の法改正ですべての企業に障害者の法定雇用率(1.5%)が義務化されています。また、同年の法改正からは、雇用率を満たしていない企業から金銭を徴収する納付金制度が始まりました。

また、1987年には「身体障害者雇用促進法」から「障害者の雇用の促進等に関する法律」と改称されます。

この改正での大きな意義は、法律の適用範囲が身体障害者だけでなく、知的障害者にまで拡大されたことです。当時は知的障害者の雇用は努力目標でしたが、1997年の法改正で義務化されています。2006年には精神障害者も障害者の対象になり、知的障害者のときと同様に当時は努力目標でしたが、2018年の法改正で精神障害者の雇用も義務化されました。2016年には「障害者権利条約」が批准され、労働環境の改善を目的として障害者に対する差別の禁止や、合理的な配慮が義務化されています。

このように、1960年に限定的な範囲で始まった障害者の雇用義務は、半世紀以上をかけて整備が進み、2018年に身体障害者・知的障害者・精神障害者のすべてを義務対象とした時点で一定の完成をみることになりました。

厚生労働省の障害者雇用の実態調査でも、民間企業の障害者雇用が1977年に12.8万人であったのに対して、2016年には47.4万人まで増加し、着実に改善しています。

こうした状況を受けて民間企業の法定雇用率は2.2%に引き上げられ、現在は引き続き障害者の雇用機会を社会的な合意として、公的機関や民間企業が適切な受け入れ環境を整えることが求められています。

参考:
d-career-agent 障害者雇用のススメ~はじめて障害者雇用に取り組む企業担当者の皆様へ~
障碍者雇用対策
厚生労働省職業安定局 障碍者雇用の現状等

2018年4月における障害者雇用義務の変化


障害者の雇用義務は、2018年の法改正でさらに拡充されました。その中の企業活動に影響を及ぼす内容や、今後について言及されている点は見逃せません。ここでは法改正のポイントを紹介します。

①法定雇用率の改定

これまで2.0%だった民間企業の法定雇用率(企業の従業員の中で障害者が占める人数の割合)が、2.2%に引き上げられました。

実際に雇用している比率が法定雇用率を下回っている場合、ハローワークから「雇入れ計画」を作るように命令が出たり指導されたりしますが、それでも改善されないと会社の名前が公表されます。また、罰則的な意味合いの納付金を課されるケースもあるので、注意が必要です。

②障害者の雇用が義務となる対象企業の拡大

法改正によって従来よりも多くの民間企業が障害者の雇用義務を課されます。改正前は従業員数が50人以上の企業が対象で、50人に1人(50人×2%=1人)の割合で障害者を雇用する必要がありましたが、49.5人以下の民間企業には障害者の雇用義務がなく、障害者の雇用は企業の裁量に委ねられていました。

しかし、法定雇用率が2.2%になったことで、45.5人に1人(45.5人×2.2%=1.001人)の割合で雇用することが求められるようになり、雇用義務を課される企業が相対的に拡大しました。

※短時間の勤務者(1週間の労働時間が20〜30時間未満の労働者)は0.5人として計算するため、2人以上の雇用が必要になります。

③短時間労働者の算定方法の変更

これまで法律で障害者雇用の対象が、身体障害者と知的障害者の方に限られていました。しかし、今回の法改正で精神障害者もその範囲に含まれることになり、障害者の種別がなくなります。
また、短時間勤務の精神障害者(1週間の労働時間が20〜30時間未満の労働者)は、一定の条件を満たせば0.5人ではなく1人として計算できるのも特徴です。

④今後の法改正について

現時点で、2021年4月までに雇用率を2.3%に上げることが既に決まっており、いつ引き上げになるかは、今後の社会環境も考慮しながら決定されます。

2.3%になると、対象となる企業の範囲は、従業員数が43.5人以上(43.5人×2.3%=1.0005人)まで引き下げられます。これを2018年以前と比べると、対象となる民間企業の従業員数の下限が6.5人も引き下げられており、多くの企業が新たに障害者雇用の対象になることが分かります。

今後も原則的として5年ごとに雇用率を見直すことが決まっており、対象となる企業が増えていくでしょう。

参考:
厚生労働省 障碍者の雇用
厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク 平成30年4月1日から障碍者の法定雇用率が引き上げになります
厚生労働省 高齢・障害・求職者雇用支援機構 平成30年4月1日から障害者雇用義務の対象に精神障害者が加わりました
厚生労働省 障害者雇用率達成指導の流れ

現在の障害者雇用義務について知っておきたいこと


法改正で障害者の雇用義務が拡大したため、新しく対応を迫られる企業も多いでしょう。ここでは2018年の改正も踏まえて、企業が知っておくべきことをお伝えします。

障害者雇用のメリット

障害者を雇用することによって合理的な配慮が求められるようになります。これは、車椅子の従業員に対して適切な高さの机を用意したり、仕事に慣れてきたら仕事量を増やしていったりと、障害者の状態と相談しながら健常者と同等の扱いを目指すものです。障害者が気持ちよく働くことができる環境には従業員同士の気遣いがあり、働きやすさの改善が期待できます。

また、作業手順がシンプルに改定される、マニュアルが分かりやすく整備されるなど、生産性の直接的な改善に繋がることもあります。

障害者の雇用に関する法的義務

障害者雇用を推進しているのはハローワークであるため、手続きをする場合は、まずハローワークに相談することがおすすめです。ハローワークには企業の障害者雇用に関する専門の部所があり、求人から雇用まで全般的にサポートをしてくれます。分からない点や不安な点は何でも相談してみましょう。その後、法律の要件を満たした社内の受け入れ態勢を整備していきます。

① 受け入れ体制やルールをつくる

雇用後に問題が起きないように、あらかじめ職場で受け入れ環境を整備しておく必要があります。

2016年に差別の禁止規定が施行されたため、採用や労働に際して健常者と障害者の間に給与等も含めて格差を設けることは違法です。また、障害者が安心して相談できる体制の整備も義務化されています。
他にも苦情の処理や紛争解決の援助、障害に応じた施設の整備、援助者の配置などについても対応しましょう。

② 雇用状況の報告

障害者の雇用義務のある企業は、毎年6月1日時点の雇用状況をハローワークに報告する義務があります。ハローワークから送られてくる「障害者雇用状況報告書」に記載し、締め切りまでに送付しましょう。その内容によっては雇用計画の作成命令や指導が入ることがあります。

③ 障害者雇用推進者の任命

雇用の促進や安定のため、企業には「障害者雇用推進者」を置く努力義務があります。

障害者雇用推進者は、雇用計画や環境整備の担当者として国や機関との連絡も担わなければなりません。また、罰則はありませんが、スムーズな業務遂行のため、社内で相応しい人材を任命することも必要です。また、5人以上障害者を雇用する場合は「障害者職業生活相談員」を置く必要もあります。ここでようやく障害者を雇用できる環境が整います。

④ 障害者解雇届

障害者を解雇する際は、ハローワークに障害者解雇届を提出する義務があります。
健常者の場合は不要ですが、障害者の場合は扱いが異なるので注意が必要です。

障害者の雇用に役立つ制度

障害者雇用は国が推進しているため、各種制度が充実しています。その中でも特に障害者の雇用に役立つ制度を紹介します。

初めて障害者を雇用する企業にとって「トライアル雇用制度」は重要です。実際に職場に適応できるかどうか、トライアル期間を設けることができ、対象者が所定の条件を満たすと支給対象者1人につき4万円(精神障害者の場合は8万円)が最長3ヶ月支給されます。

さらに、条件を満たした障害者を継続して雇用した場合は「特定求職者雇用開発助成金」を申請することも可能です。その他、障害者雇用に積極的な企業は要件を満たすことで、以下の優遇措置を受けられます。

  • 機械等の割増償却措置(法人税・所得税)
  • 助成金の非課税措置(法人税・所得税)
  • 事業所税の軽減措置
  • 不動産取得税の軽減措置
  • 固定資産税の軽減措置

さらに従業員が100人以下で障害者を4%か6人のいずれかを超えて障害者を雇用すると1人当たり月額2万1000円の調整金が受け取れます。100人以上の企業であれば2万7000円が支給されます。

参考:
ソムリエ 【平成30年4月】障がい者雇用義務のルールが変更されます!
@人事ONLINE 初めて障害者雇用義務が発生するときに押さえておきたいポイント
厚生労働省 障害者トライアルコース・障害者短時間トライアルコース助成内容
厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク 税制優遇制度のご案内
厚生労働省 障害者雇用納付金制度の概要

まとめ

「誰もが活躍できる」社会の実現に向けて、障害者雇用に関する法律は年々整備されてきました。企業でも法令遵守はもちろん、それ以上に積極的な雇用が望まれます。とはいえ、急に対応を迫られても困ってしまうでしょう。実際には移行期間が設定され、2018年に改正された法定雇用率も5年間の猶予があります。その間に必要な体制や準備を整え、障害者の雇用を進めましょう。

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