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企業の安否確認とは?目的・手順・マニュアル作成・注意点を解説

企業における安否確認とは、災害が発生した時に従業員の安否を速やかに確認し、事業の継続・再開につなげるものです。もちろん従業員の家族や被災地の状況確認などをあわせて行ってもよいでしょう。

企業でも一般的になってきた災害時の安否確認ですが、安否確認の目的をしっかり理解した上で訓練を実施したり、災害時の状況を想定したマニュアルを作成したりしている企業はそれほど多くないのではないでしょうか。

本記事では、企業にとっての安否確認の目的や基本的な手順を明確にしたうえで、安否確認マニュアルやシステムを取り入れる前に知っておきたいポイントについて解説します。

これから安否確認のマニュアルを作成したり、安否確認システムを導入しようと思っていたりする企業は、ぜひ最後までしっかり読み込んでマニュアル作成やシステム導入に役立ててください。

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編集者:坂田健太(さかた けんた)

トヨクモ株式会社 マーケティング本部 プロモーショングループに所属。防災士。
2021年、トヨクモ株式会社に入社し、災害時の安否確認を自動化する『安否確認サービス2』の導入提案やサポートに従事。現在は、BCP関連のセミナー講師やトヨクモが運営するメディア『みんなのBCP』運営を通して、BCPの重要性や災害対策、企業防災を啓蒙する。

企業が安否確認を行う目的

そもそも企業が安否確認を行う目的には、「従業員の安全確保」「事業継続の判断」「法令順守(コンプライアンス)」の3つがあります。災害発生時は想定外の被害が発生するケースもあり、いつ何が起こるか分からない状態が続きます。災害による被害を最小限に抑えるためにも、従業員の安否確認は欠かせません。

ここでは、企業が安否確認を行う目的と、行わなければならない理由について解説します。

企業は従業員の安全を担保する義務を法律に基づき負っているため

はじめに、企業は従業員の命を守るため、いかなる場合においても従業員の安全を確保することが労働契約法(第5条)で義務付けられています。「従業員の安否を確認する義務」はありませんが、災害発生時に適切な対応を怠った場合は違反を問われる可能性もあります。そのため、従業員の身体の安全を確保しつつ労働できるよう必要な配慮をしなくてはなりません。

また、従業員の安全配慮義務については、労働契約法だけでなく、労働安全衛生法にも記載がされています。

(事業者等の責務)

第三条 事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない。
出典:労働安全衛生法 | e-Gov法令検索

また、従業員の安否確認は企業の義務であると同時に、災害発生時に企業の継続・再開にかかわる重要な初動対応でもあります。従業員の安否を確認するということは、安全に業務にあたれるのか、無理なく出社できるのか、現状を把握したり今後の見通しを決めたりする判断材料となるのです。

一刻も早い事業継続・再開につなげるため

企業として事業を継続するためには、企業を動かすため従業員の確保が欠かせません。被災により事業がストップした場合でも、従業員の安全確保および状況確認を行い、緊急対応や復旧作業にあたれる人員を確保することが初動対応の要となります。

災害時の情報が錯綜する中で、被害状況や従業員の状況を収集するためには、情報の取捨選択と可視化が不可欠です。迅速に事業継続・再開できる体制を整えられるよう、あらかじめBCP(事業継続計画)を策定しておくのが望ましいでしょう。

企業に対するあらゆるステークホルダーからの社会的信用を維持するため

BCP(事業継続計画)を策定するなど、災害発生時における対策を事前に策定していることは、多様なステークホルダー(利害関係者)に対して社会的信用を得るきっかけにもなります。大規模な被害を受けた際は自社の対応に追われてしまいがちですが、関係する取引先への現状報告も速やかに行う必要があります。

現状や今後の見通しなどの情報を発信し続けることで、関係各所に安心してもらえるでしょう。また、情報を発信するなどの姿勢を従業員に見せることで、会社への信頼感が高まる効果も期待できます。安否確認を怠っている企業は先に触れた違反を問われるだけでなく、社会的信用も落とす可能性があるのです。

災害時における安否確認の基本的手順・マニュアル

次に具体的な安否確認の手順を理解していきましょう。災害発生時は誰しも冷静さを欠いてしまう傾向にあります。そのような状況でもなるべく正しい判断ができるよう、マニュアルを作成しておくとよいでしょう。

ここからは、災害発生時における安否確認の基本的手順・マニュアル作成のポイントを解説します。

自らの安全確保

災害発生後すぐに従業員の安否状況を確認しなければならないのはもちろんですが、まずはその場の人命確保が最優先となります。安否確認を行う担当者が危険な状況では、全体の情報を収集できません。

自らの安全と、目の前の助けが必要な人の安全を確保したうえで、安否確認の連絡や情報収集を行いましょう。

また、安全確保のためには、緊急時の避難経路や避難場所、社内の危険箇所などをあらかじめ把握しておきましょう。。日ごろから防災訓練や安全確保の重要性を周知しておくと、緊急時にも慌てず冷静な判断と行動が取れるようになります。

安否確認の連絡

災害発生直後に、なるべく早く従業員の安全を確認する必要があります。従業員本人の安否確認だけでなく、その家族の安否状況も確認しましょう。家族に助けが必要な場合や連絡がつかず行方が分からない場合は、家族の救助を優先する必要があるからです。

また、安否確認の連絡は簡潔で分かりやすい内容にまとめることが重要です。従業員が簡単に回答できるように、必要事項やフォーマットをあらかじめ決めておきましょう。

従業員が多い企業の場合は、一斉送信する方法や送信する担当者を決めたり、安否確認システムで連絡を自動化したりと、全員に連絡が届くようルールを明確にしておくとスムーズに安否確認が行えます。

安否情報の集計

収集した安否情報を集計し、一元的に管理して情報を整理しましょう。安否確認の連絡事項は、事前に策定しておかないと、災害時にイチから作るのでは間に合いません。集計や情報の整理に時間がかからないような集計方法・集計内容にしましょう。

また、情報は随時更新して最新情報にしておく必要があります。安否確認連絡に報告する期日の目安を記載しておくと、素早い集計・更新に役立つでしょう。

安否が確認できない従業員に対しては、再度連絡を入れるなどの対応も怠らないようにします。万が一の場合に備えて、最優先で使用する連絡手段のほかにも対応可能な連絡手段を把握しておくとよいでしょう。

業務対応可能な人員情報の把握

安全であることが確認できた従業員のなかで、業務にあたれる者の有無を確認し次の行動を指示します。緊急対応できる従業員には出社やリモートによる対応による業務に参加してもらい、事業継続や再開の体制を確保します。

地震の場合は余震の危険性があるため、自宅や避難所で待機してもらい安全確保を優先するケースもあるでしょう。安全に業務できる環境でない場合は、業務に参加させないことも大切です。

また、専門性が高い業務を行う企業では、部門別、担当部署別、職種別など、確保できる人材の属性と人数の把握もおこないましょう。あらかじめどの程度の人材が確保できれば事業を継続できるのか、BCP(事業継続計画)などでおおまかな指標を決めておくとスムーズです。

今後の対応を計画

引き続き災害状況に関する情報収集と従業員の安否確認を行い、事業の継続・再開に向けて進めていきます。このような緊急事態に備え、BCP(事業継続計画)を策定しておくとスムーズな対応が可能になるでしょう。

BCP(事業継続計画)とは、Business Continuity Planの略で、災害によって被害を受けた際の緊急時における企業の事業継続計画を指します。たとえ社屋や工場などが無事でも事業を動かす従業員がいなければ事業の継続・再開はできないため、BCP対策では従業員の安否確認が重要な項目のひとつです。

BCP(事業継続計画)がしっかり策定され、従業員への安否確認を含む防災に関する知識が周知されていれば、いざ災害が発生した時にも、今後の対応について計画を立てやすくなるでしょう。

安否確認をスムーズに行うために事前に確認しておくべきこと

災害の状況によっては安否確認の担当者が動けなかったり、冷静な判断ができなくなったりすることが予想されます。そのような事態においても、なるべく適格な対応を取るためには事前の準備が欠かせません。

ここからは、安否確認をスムーズに行うために、あらかじめ確認しておくべきポイントを解説します。

連絡手段を統一し連絡先を収集する

災害時は、従業員がそれぞれ避難したり、担当業務に関する対応をしたりと、慌ただしく動き回り混乱した状態になることが予想されます。そのような中で、電話、メール、SNSなど、それぞれの従業員の連絡手段が異なっていては、全員の安否を確認するまでに時間がかかってしまうでしょう。

まずは、災害発生時に安否を報告する緊急連絡は、最優先で使用する手段を事前に決めておくことが重要です。通信環境が適切に機能しない事態を想定して連絡手段の優先順位を明確にしたのち、従業員の連絡先を収集するとよいでしょう。

安否確認の重要性を従業員に理解してもらう

災害発生時はどうしても自身や家族の安否が優先され、企業への安否確認まで気を配れないこともあります。また、日常業務では使わない安否確認システムだと、「普段は使わないツールでの安否確認だったために、連絡が来ていたことに気づけなかった」「確認事項が多く答えるのが面倒くさい」という従業員が一定数でてきてしまうことも考えられます。

安否確認は返答がなければ意味がなくなってしまうため、従業員には災害に対する危機感を持ってもらうことが大切です。安否確認訓練を含む防災訓練などで、安否確認の重要性について理解を求めるなど、定期的に社内での取り組みをおこなうとよいでしょう。知識を提供するだけでなく、ゲーム感覚で行えたりチームで協力したりする防災訓練も有効です。

安否確認を行う担当者を複数人決めておく

災害の規模によっては、安否確認を行う担当者が一人では対応しきれないことも予想されます。なかでも、出張が多い担当者である場合、会社を離れているために従業員の安否状況や建物設備などの被害状況が確認できないことも少なくありません。

いち早く組織的な対応をするためにも、社内で災害発生時の指揮系統を決めておき、万が一の被害に備えて安否確認を担当する人間を複数人決めておきましょう。また、安否確認は担当者に丸投げするのではなく、企業全体の危機管理と位置付けることで、スムーズな対応が可能になるでしょう。担当者が対応できない場合は、ほかの従業員にどのような指示を出すのかを決めておくと、混乱のなかでも着実な安否確認ができます。

会社としてBCPを策定しておく

企業におけるBCP(事業継続計画)とは、災害発生時に業務を中断しないこと、もしくは中断による評価の低下から企業を守るための経営戦略として重要な計画です。おもに被災に備えバックアップシステムの整理・確保、安否確認の迅速化、生産設備の代替などの対策を策定・実施することも有効でしょう。

また、定期的な防災訓練では策定したBCP(事業継続計画)に沿って訓練を行いましょう。訓練を通して、策定した計画を従業員に周知できるだけでなく、計画に矛盾がないかなどの有効性を確認でき、BCP(事業継続計画)の改善にもつながります。

安否確認システムの導入を検討する

安否確認システムとは、災害発生直後の混乱した状況のなかで、安全且つ正確に従業員や家族などの安否状況を把握し、次の行動に向けた適切な判断をくだせるように作られたシステム・ツールのことを指します。

被災して混乱した状況のなかで、担当者が迅速に安否確認の情報を収集・集計して、今後の対応を考えるのは非常に困難です。通信環境が悪化して連絡がつかないこともあるでしょう。

安否確認システムには、素早い連絡と回答の集計ができるさまざまな機能が搭載されています。冷静な判断をしにくい災害発生時でも、安否確認を自動化することで自らの安全を確保したり、今後の対応を考えたりする時間に充てられるでしょう。

災害発生時の安否確認に役立つマニュアルを作成しよう

企業における安否確認の重要性や目的、マニュアル作成のコツ、事前に確認したいポイントについて解説しました。

従業員の安否確認は、災害発生時の事業継続・再開のために欠かせません。大規模な災害や通信環境が劣悪な状態のなかでも着実に連絡を行い、素早く情報を集計・集約させることが求められます。

台風や大雨・大雪など進行型の災害は、数日前から発生が予測できるものもありますが、、地震のような突発的な災害はいつ訪れるか予測できません。緊急時の準備ができていないと、災害時に事業を中断せざるを得ない可能性が高まるでしょう。

本記事で解説した内容を参考にしながら、自社の環境を考慮した安否確認マニュアルを作成してみましょう。従業員数が多い企業や、安否確認を簡略化したい企業は、安否確認に特化した機能が搭載されたシステムの活用も検討してみてはいかがでしょうか。

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編集者:坂田健太(さかた けんた)

トヨクモ株式会社 マーケティング本部 プロモーショングループに所属。防災士。
2021年、トヨクモ株式会社に入社し、災害時の安否確認を自動化する『安否確認サービス2』の導入提案やサポートに従事。現在は、BCP関連のセミナー講師やトヨクモが運営するメディア『みんなのBCP』運営を通して、BCPの重要性や災害対策、企業防災を啓蒙する。