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避難所で起こりうる「被災者間」のトラブルは?対策方法についても解説

災害が発生したときに被災者を受け入れる避難所は、性別や年齢の違う人々が集まる場所です。なかには外国人の被災者や、心身に障害を持つ被災者がいる可能性もあるでしょう。さまざまな人が集まることで、避難所では被災者間のトラブルも多く発生します。本記事は、その内容と対策方法について解説します。

避難所で起こりうるトラブル

身の安全を確保しながら被災者が生活を送る避難所には、年齢や性別を問わず多くの人が集まり、同じ空間を共有して生活をします。災害時という極限状態のもとで起こる、被災者間のトラブルとは具体的にどのようなものがあるのでしょうか。

食料の不足による取り合い

災害時は物流が停止し、食料も限られることがほとんどです。すべての人に食料が行き渡らないために、特定の人を優先して分配することがあります。

また、食料を多く獲得しようとして、列に2回並んだりするなど、不正な手段をとる人もでてきます。

その結果、被災者同士で食料の分配を巡ったトラブルに発展する危険があります。言い争いや奪い合いに止まらず、空腹に耐え切れなかった被災者が食料を盗難するようなトラブルが起こることもあります。

必要な物資に対する不理解

避難所に届く支援物資の多くは成人に必要なものを標準にしていますが、女性の被災者にはそれらとは別に生理用品が必要です。また乳幼児には粉ミルクや離乳食が、アレルギーを持つ人には対応食品が、外国人にはそれぞれ宗教に対応した食品が必要です。

避難所ではこれらのニーズへの理解不足により「必要ない」「あと回しでよい」と、こうした多様な被災者の多様なニーズに応えようとしないことがあります。ニーズが満たされないことで該当する被災者のストレス、トラブルに発展することもあります。

場所取りによるトラブル

避難所となる場所は体育館や公園などさまざまで、どの避難所にも「スペースに限りがある」ことが共通点です。限りあるスペースを配分して個人のスペースを確保できても、十分な広さが確保できない事例や、仕切りが無くプライバシーが確保できない事例もあります。

また、避難所には「トイレに近い場所」や「出入口に近く逃げやすい場所」などがあり、被災者同士でより良い場所を巡って、場所の取り合いが起こるおそれがあります。

騒音問題

一つの空間を一時的に分割して利用する避難所では、完全な防音はできないため騒音問題が発生します。子どもの泣き声、就寝時のいびき、話し声などは代表的な例です。被災者同士がお互い音に気を遣って生活していても、騒音の許容範囲は人によって異なります。

自分が問題ないと思った話し声や生活音をうるさく感じる人もいるため、トラブルが発生しやすくなります。

感染症に対する不安

避難所は多くの人が集まり、密な状況になります。そのため避難所は感染が拡大しやすく、クラスターが生じやすい場所です。

被災者は感染症自体への不安だけでなく、咳をしている人や体調の悪そうな人に対する嫌悪感や敵対感も抱きやすくなります。近年は新型コロナウイルス感染症が流行したこともあり、こうした不安はより根強くなっています。

精神的な健康への悪影響

普段の生活とは大きく変化するため、避難所生活は被災者にストレスを与えます。避難生活が長引くことで引き起こされるさまざまなトラブルは、被災者の精神的な健康状態に悪影響を及ぼします。

すると孤立感や攻撃的な行動が表れやすくなり、人によっては「うつ」の症状が現れることもあります。精神的に不健康な状態は、別のトラブルを引き起こす要因になる危険性も高くなります。

窃盗・強盗、暴行、性犯罪などの犯罪行為

避難所で起こりうるなかでも、重大なトラブルは「犯罪」です。避難生活がもたらすストレスは犯罪を誘発しやすく、窃盗・強盗、暴行などの犯罪が起きやすくなる可能性があります。避難所では、貴重品を常に見につけたり、共同で貴重品を監視するような仕組みづくりも必要になります。。

とくに性犯罪は対策が必要です。ターゲットとして女性、子どもなどの他、高齢者や障害者、男性が対象になることも少なくありません。被災者自身が防犯意識を高めるだけでは限界があり、避難所運営で性犯罪を起こしにくい環境を作ることで被害者を生まない努力が求められます。

施設管理者や運用担当者とのトラブル

避難所生活には不便な点が多くあり、被災者が不満を抱く場面も多くあります。被災者はそうした不満を、避難所として使われている施設の管理者や運用担当者に訴えることがあります。

しかし、施設管理者や運用担当者が、常に要望が聞けるだけの裁量や予算があったり、避難所運営のノウハウを持っているとは限りません。状況や物資の量などによっては、スムーズな運営が難しいこともあるでしょう。

こうして不満を訴える被災者と、運営に苦慮している施設管理者・運用担当者の間でトラブルが起こることもあります。

ペットによるトラブル

「ペットも家族だから」と、動物を避難所に連れて行きたい被災者もいるでしょう。ペットを避難所に連れて来ると、どれだけしつけをしていても鳴き声や糞尿を巡るトラブルは避けられません。

また、被災者にはアレルギーを持つ人が含まれる可能性もあります。そのため、ペットが人間と同じ空間で避難生活を送れるとは限りません。さらにペットを同じスペースに入れた場合、ペット間のストレスやトラブルが発生することも容易に想像できます。

そもそも全ての避難所がペットを受け入れるわけでは無く、受け入れが不可能な避難所も存在します。どの避難所がペットの受け入れを可能としているのか、各自治体の防災情報から確認しておく必要があります。

避難所トラブルの対策

このように、避難所で起こりうるトラブルは多種多様であり、簡単に解決できるものばかりではありません。しかしトラブルの発生を未然に防いだり、発生したトラブルを適切に処理したりすることは可能です。もちろん必ずトラブルが収まるわけではありませんが、いくつかの方法を紹介しますので、参考にしてください。

第三者が介入する

避難所で起こるトラブルを、当事者だけで解決することは難しいでしょう。お互いに感情的になり、主張を通そうとするばかりでトラブルの解決からは遠ざかります。

トラブルが発生したときは、周りにいる第三者が積極的に介入して当事者同士を落ち着かせましょう。また、トラブルの解決策を当事者だけで考えることは望ましくありません。

当事者のうちどちらか一方に有利な解決策になると、また新たなトラブルが生まれかねないためです。そのため解決策を考えるときも、第三者の介入が必要です。

食料の公平な配分を行う

どのような人が相手でも、またどのような状況であっても、支給される食料は公平に配分しましょう。避難所の食料は有限であり、全員に一人分ずつの食料が用意できるとは限りません。

支援物資についても、被災者に対して十分な量が届くとは限りません。長引く恐れのある避難所生活を送るには、いま配分すべき人は誰かを明確にした上で、均等に配分できる時には均等に、数が不足するときには、子どもや高齢者など優先すべき人を明確にした上で配布するようにしましょう。

避難所のルールを守る

ほとんどの避難所は、21時以降に消灯時間を定めています。消灯後にライトを使用するときは、起こしてしまわないように配慮が必要です。就寝している人のために会話の声量は控え目にし、消灯時間後の携帯電話・スマートフォンの利用は避けましょう。

また、たとえストレスが溜まっていたとしても、飲酒は別のトラブルを誘発する危険性があります。日夜問わず、居住スペースでの飲酒は、アルコール依存症の予防や円滑な避難生活維持のためにも控えましょう。

さらに、居住スペースでの喫煙は禁止されています。喫煙所の場所は避難所ごとに決められているため、先に確認しておきましょう。

個人でできる健康対策をする

避難所は感染症のクラスターになりやすいため、被災者個人の健康対策が必要です。感染症の罹患や避難所での拡大を予防するため、手指消毒やマスクの着用は必要に応じて行うようにしましょう。避難所全体の衛生管理としては、避難所内の土足土足の禁止やトイレを清潔に保つことが効果的です。

感染症とは別に、狭いスペースでじっとすることによる「エコノミークラス症候群」もとくに災害発生当初は注意が必要です。水分補給、定期的な運動によって血行不良を防ぐようにしましょう。

ストレスや不安を溜めない

適切なストレス解消は、心身を健康に保つためにも大切です。個人でできるストレス解消法には、深呼吸、瞑想、ストレッチ、ヨガなどがあります。

また、避難所内で体操やダンスの時間などが設けられることがあるので、気晴らしの意味も込めて積極的に参加してみましょう。ストレスや不安を個人で抱え切れない場合は、友人や親族などに相談しましょう。そうした仲の良い人たちとただ会話をするだけでも、ストレスの低減につながります。

周りの被災者に迷惑を掛けない範囲であれば、趣味を楽しむこともよいでしょう。避難した家族がカードゲームで遊んで楽しんでいたとの話もあります。心の健康を保つために、趣味を楽しむことも選択肢に入れておきましょう。

女性や子どもに対する配慮をする

避難所での犯罪、とくに性犯罪を防止するために、避難所運営では女性や子どもに対しての配慮が必要です。

、たとえば、女性や子どもを男性とは別の居住スペースにする、トイレを共用にせず女性用・男性用に分ける、更衣室や授乳室のスペースを確保する、などの配慮が挙げられます。

こうした配慮は、男性のみが避難所運営に携わっているとなかなか気づきにくいものです。避難所運営に女性が積極的に参加することで、女性や子どもが性被害に合わない避難所を整える必要があります。

避難所運営者への理解を持つ

避難所に不便な点が多くても、施設管理者や運用担当者に対して過度な要求をすることは避けましょう。避難所を運営している人も同じ被災者であることがほとんどで、苦慮しながら運営に携わっています。

また、いくら不便であっても、ライフラインや物資の状況によっては不便さの解消が難しいこともあります。そのことを理解し、運営している人に全ての責任を押し付けるのではなく、被災者全員で協力して避難所を維持・運営しようとする姿勢が大切です。

避難所生活のトラブルを知って未然に防ごう

災害はどうしても発生してしまいますが、避難所における「被災者間」のトラブルの多くは未然に防いだり、大きなトラブルになる前に納めることも可能です。。
避難所で起こりうる被災者間のトラブルを知ることは、トラブルの防止につながり、安全・安心な避難所の運営をするために大きく役立つでしょう。