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【企業防災特集】東日本大震災を踏まえて、未来の災害に備える

2023年3月11日から12年前。東日本大震災を引き起こした、国内観測史上最大のマグネチュード9.0の巨大地震、東北地方太平洋沖地震が発生した。ライフライン施設は甚大な被害を受けて、交通・通信手段がマヒ、被災地の市民生活や避難所生活には大きな支障が生じて、その爪痕は今でも残っている。

企業においても、取引先や仕入先の被災による販路縮小、製品や原材料資材の不足、受注キャンセルなど日本全国規模でサプライチェーンの分断による関連倒産が起きた。これは企業が連携して一つの物を作り、販売する昨今のビジネスモデルによる影響といえるだろう。

このような「倒産」をしない、させないためにも企業は災害対策をすべきではないだろうか?

『中小企業のためのBCP策定パーフェクトガイド』などの著者でもあるソナエルワークス代表の高荷智也氏に東日本大震災を踏まえた「企業防災」の心構えやポイント、ノウハウを聞いた。

東日本大震災 関連倒産は2000件超え

震災関連倒産は11年累計で2000件を超え、132カ月連続(2022年3月時点)で発生した。

集中的な復興事業を推進し、再建に向けた取り組みがされているが、国内サプライチェーンの寸断、相次ぐ自粛、東京電力福島第一原子力発電所事故による風評被害、取引先の被災による販路の喪失など直接的に被害を受けなかった企業にも、いまだに影響が残る。

その結果、倒産に至る企業もあるようで、復興には厳しい道のりが続いているようだ。

12年経っても、いまだに震災の被害は続いているが、次の災害に対する備えも必要になっています」(高荷氏)

東日本大震災と同程度、もしくはそれ以上の被害が出る恐れのある地震(南海トラフ地震・首都直下方地震)の発生が予測されている。

この規模の地震が発生した時、事業を継続・復旧させるための仕組みを企業は事前に準備する必要があるだろう。そこで多くの企業では非常時の対応マニュアルや事業継続計画(BCP)、事業継続力強化計画を策定している。

事業継続計画は、内閣府防災担当の令和元年度の事業継続及び、防災の取り組みに関する実態調査から、大手企業の95.9%が策定済み、策定中、策定を予定しているということが判明。中小企業においても75.2%が策定に関する取り組みをしていることがわかった。このことから企業防災のスタンダードといえるだろう。

大災害に耐えうる仕組みを作る

事業を守るためあるいは復旧させるための計画がBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)。現在はリスクファイナンスと呼ばれるような資金繰り、保険への加入、加えて自社の事業を守るための施策を全て準備しましょうというBCM(Business Continuity Management:事業継続マネジメント)の考え方が重要になっている」(高荷氏)

つまり、BCPが「机上の空論」にならないよう、実効性を高める取り組みをBCMとして定める必要がある。

具体的には、BCPの啓発、訓練、検証、見直しの実行などの運用を決める。事業継続は、事業内容や社会事象に応じて、企業の対応力を向上させる取り組みだ。そのため、経営判断に関する内容も多く、BCMの基本方針では経営陣に責任の所在がある行動を明示した運用体制を盛り込むのがポイントとなる。
BCMで事業継続の基本方針を定めたら、以下のような流れでBCPを策定する。

BCP策定の流れ

①業務影響度分析(BIA: Business Impact Analysis)

事業を脅かすリスクを想定し、理解する。
また、業務が中断した場合の影響とその範囲なども整理する。

②被害想定

経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)にどのような被害が生じるのかを洗い出し、被害を想定する。

③重要事業の選定、目標復旧時間、必要な資源の特定

事業が中断した場合のリスクを分析、重要な事業を維持するために優先して実行すべき業務と復旧の目標時間、優先する業務を実行するために必要な資源を特定する。

④事前対策の策定

拠点、インフラ、経営資源、連絡経路、被害想定を参考にして、平時に講じるべき対策を決定する。

⑤緊急事態時の体制

責任者、権限移譲・代行順位、機能・役割など、BCPが発動する非常時になった場合の対応体制を定める。

⑥緊急事態発生時の行動手順

BCP発動、初動対応、復旧対応など、非常時の具体的な行動手順をまとめる。

BCPを1から策定するのはとても大変。帝国データバンク事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査では「スキル・ノウハウがない」という理由で策定をしていない企業が42.7%に達する。次いで「策定する人材を確保できない」が31.1%、「実践に使える計画にできない」が26.1%だ。

そのため、最初はBCP基本情報がまとまった資料を参考にし、BCP策定マニュアルなどを活用するのが良い。

中小企業庁が公開しているBCP策定マニュアルを「中小企業診断士で愛知県庁関連の中小企業支援/機関、信用金庫などでBCPセミナーの実績も多数ある竹下将人氏監修」のもと、わかりやすく再考したマニュアルがおすすめだ。

これからBCPを策定するという方は、ぜひ活用いただきたい。

⇒BCPコンサルタント監修のBCPマニュアルをダウンロードする

災害時は初動対応が重要です。」(高荷氏)

初動対応の3つのポイント

①命を守る(安全確保)

何よりも命が大切。まずは安全を確保し、次の行動に備える。

②情報収集

状況を判断するために、災害情報・被災情報を収集する。

③意思決定

非常事態と判断できたら、BCPを発動するために災害対策本部を設置する。

特に従業員と設備に関する情報収集は重要で、これらの情報が集まらないと、事業再開に向けた次の一歩を踏み出すことができない。情報の集約ができず、何の対策もとれないまま時間が過ぎてしまうと、その分だけ損失も多くなる。従業員の無事が確認できないと人的な稼働の確保に遅れが生じ、事業の立て直しにも弊害が生じる。

企業は従業員の安否確認ができて初めて指示を出すことができ、無事であるなら出社やテレワークで勤務に戻る指示を、出社が難しいようであれば次の行動をどうするかなど、従業員の安全確保や事業再開のために必要な行動を促せるのだ。

多摩モノレールを運営している公共交通事業者の多摩都市モノレール株式会社では、東日本大震災で従業員に連絡が通じず、情報収集に多大な時間がかかった経験から、迅速に従業員の安否を確認する仕組みが必要と考え、トヨクモの安否確認システム(安否確認サービス2)を導入している。

安否確認システムは、災害時などに従業員の安否確認を行うもので、代表的な機能としては気象庁の災害情報に連動した安否確認メールの自動送信機能や回答の自動集計機能、掲示板機能などがある。そのほかに、感染症対策のために従業員の健康状態のアンケートを取るといった使用方法もあるため、ニューノーマル時代と言われる今、企業のBCPを支える観点でも活用されているシステムだ。

多摩都市モノレール株式会社は、安否確認サービス2を従業員の安否確認や輸送障害報告に活用している。つまり、安否確認サービス2で従業員の安否確認を自動化して、情報収集にかかる負担や時間を最小限に抑え、被災時に重要事業である「多摩モノレールの運営」を継続、迅速に復旧する体制を整えているのだ。

大規模な災害で倒産しない企業に

災害大国である日本で、安定的に事業を行うためには、平時から災害に備えておくことが必要。BCMで事業継続の基本方針を定めて、BCPを策定し、災害時に事業を継続、迅速に復旧できるよう初動対応を強化すべきだろう。

「東日本大震災で自社には問題がなかったから、次回も大丈夫…..」

根拠のない安心感にとらわれて、何も対策をせずに、南海トラフ地震や首都直下型地震に直面して倒産という事態をどうか避けて欲しい。

自然災害を未然に防ぐことはできないが、最悪の事態を回避することはできるはずだ。
企業は東日本大震災からの学びを最大限に活かし、対応力を身につけていかなければならない。

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