水害は会社に甚大なダメージを与えることにもなりかねないため、経営者や防災担当者は水害対策について考えなくてはなりません。「西日本豪雨」から2年。誰も予期し得なかった寛大な被害は記憶に新しいですが、令和元年の台風19号では、13都県に大雨特別警報が発令され、先日(2020年7月)の九州地方での大雨では、なんと27地点で過去最大の 72時間雨量が観測されました。
例年各地で猛威を振るう様々な「水害」。果たしてBCP対策は万全でしょうか。ここでは水害の種類、企業に水害対策が必要な理由についてご説明します。具体的対策や、ポイントについてもまとめたので、ぜひご覧ください。
■目次■
水害の種類と脅威
水害は淡水、海水、豪雨などによって引き起こされる災害の総称で、複数のカテゴリに分類できます。
洪水
河川の水位が大幅に増すことによって起こる洪水は、豪雨や台風、雪解け水などによって引き起こされます。大雨が降った日には浸水した住宅の映像がニュースで報じられることもあり、浸水は比較的身近にある水害であることがわかります。
氾濫
洪水によって川の水が増えてしまい、それがあふれ出すことを氾濫といいます。氾濫には外水氾濫と内水氾濫に分類されます。
外水氾濫
雨などの影響で川の水が増し、堤防を超えてしまうケースです。増水で堤防が機能しなくなり、一気に水があふれ出してしまいます。水が勢いよく近隣地域に流れ込むと、大変危険な状況に陥ります。事業所や家屋、車、人までもが濁流に飲み込まれてしまうことも少なくありません。また、氾濫が起きたあとは土砂や汚泥が残り、その処理にも時間がかかってしまいます。氾濫は人々の生活にも大きな影響を与えてしまう水害です。
内水氾濫
その地域の排水機能が追いつかなくなることで発生する水害です。町では雨水をきちんと排水するための機能を備えていますが、あまりにも雨量が多くなると処理能力を超えて内水氾濫が起こります。排水できなくなった雨水はそのまま町中に留まり、土地や建物が水に漬かってしまいます。最終的にマンホールや下水道から水が逆流する現象を引き起こし、浸水を起こします。
高潮
海面の水位が上がることで引き起こされます。高潮が発生する原因はいろいろありますが、もっとも多いのは台風の影響でしょう。強風や気圧の変化によって水位が上がって、周辺に被害をもたらします。
波浪
高潮と混同されがちな波浪ですが、これは強風によって波がうねることを指します。風浪と呼ばれることもあります。高潮と波浪が同時に発生してしまうと、普段よりも海面が上昇し、波も高くなるため、非常に危険な状態になります。
津波
津波は、地震などによって海底の地形が影響を受けた結果として発生する海面の上昇です。地震は地球の表面を包むプレート同士に力がかかり、それが弾けることで起こります。
そして、地震に伴い海底が隆起して津波が発生します。大きな津波だと、東日本大震災のように海岸線や港などに押し寄せ甚大な被害をもたらします。幹線道路や駅、町を丸ごと飲み込むことも珍しくなく、ひとつの地域が壊滅状態に陥ることもあります。数ある水害の中でも、もっとも警戒すべきものと考えて差し支えないでしょう。
また、津波は1度の襲来で終わることはほとんどありません。大きな波が押し寄せた後、2~3回にわたって襲来することもよくあります。波が押し寄せてくるときだけでなく、引いていくときに建物などを飲み込んでいくこともあり、短い時間で甚大な被害を受けることが多々あります。
このように、ひとくちに水害といってもいくつもの種類があり、どのケースにおいても企業に大きなダメージを与えてしまうことが考えられます。
参考:
九州大学付属図書館「水害とその対策:水害の種類」
大建工業株式会社「地震が起こるメカニズムと特徴」
東京海上日動「災害への対応 津波のメカニズム」
企業における水害対策の必要性
ここから企業の水害対策の必要性を具体的に見ていきましょう。水害によって被害を受けると、企業活動の継続ができなくなる可能性があるため、しっかりと対策をしなくてはなりません。
たとえば、製造業を担う企業の製造工場が浸水の被害にあったと仮定しましょう。屋内にまで水が入ってきたとなると、まずダメージを受けるのが建物や機械です。建物そのものにダメージが加わるだけでなく、設置してある機械も壊れてしまい、稼働できなくなる場合もあります。
製造工場において機械が稼働できなくなる状況は、致命的な機会損失といわざるを得ません。しばらく業務を停止する必要があるほか、復旧までにかなりの時間を要してしまうことが考えられます。また、食品工場であれば被災後に消毒やバリデーションなどが必要になり、通常の製造工場よりも復旧コストがかかると予想されます。
また、従業員がケガをしてしまうリスクもあります。突然浸水などが発生してしまうとパニックになることも多く、慌てて避難しようとしてケガをすることも十分考えられます。そして、規模の大きな水害ともなると、従業員の命が危険にさらされてしまう恐れすらあります。
もちろん、一般的な企業のオフィスでも同じことがいえます。水害が起きると普段の業務ができなくなり、しばらく営業停止を余儀なくされる場合もありますし、当然、その間の売上は低下します。しかも適切な事業継続計画(BCP)と水害対策をしていない企業は、事業への打撃だけでなく、取引先の企業からの信頼を損なう危険性すらあります。
このように企業が水害によって受ける影響は決して少なくありません。場合によっては、水害の損失が大きく、再起できず倒産に至るケースもあります。このような最悪の事態を回避するためにも、企業には水害への適切な対策が必要になるのです。
水害対策のポイント
①立地を選ぶ
企業における水害対策のポイントは「予防」のひとことに尽きます。たとえば、これから工場やオフィスなどを構えるの場合は、水害に遭いやすい場所を避けるようにします。土地が低いところだと豪雨や台風などのときに浸水しやすくなり、大きな被害を受けるリスクが高まります。
また、すぐ近くに河川がある、海があるといった企業は氾濫、津波などによる被害を受けるリスクがあります。水害のリスクが考えられる場所から事業所を移設することまでも念頭に置き、大きな水害発生時にも被害を最小限に抑える対策を講じましょう。
ハザードマップを活用する
具体的な対策を計画する際は、ハザードマップを活用しましょう。ハザードマップとは災害の種類・規模を予測し、安全な避難経路や避難場所を書いた地図のことです。水害に限らず、地震など様々なリスクに対応しています。
国土交通省が公開しているハザードマップポータルサイトでは、災害の種類別にその土地のリスクをリサーチできます。こうした情報を利用し、できるだけリスクの少ない場所を選んで事業所を設置しましょう。
また、大雨の際に、どこの水位観測所の情報を見ておけば良いのか、どの河川のどこの地点が決壊(破堤)したら、自宅や会社などが浸水するのか、堤防決壊(破堤)後、どこが・いつ・どのくらい浸水するか、の変化をアニメーションやグラフで見られる地点別浸水シミュレーション検索システムを使ったシミュレーションも有効です。
②浸水対策グッズを準備
どれだけ意識してリスクの低い立地に拠点を構えても、万一の水害に対応できなければ意味がありません。
いざという時に被害を最小限に止めるために、浸水対策グッズを常備しておきましょう。
土のう・水のうは、土や水が入った袋のことで、水や土砂の侵入を防ぐ役割を果たします。
止水板は、建物に水が入らないように出入り口などに設置する、水の侵入を防ぐための専用板です。土のうや水のうに比べて軽量である場合が多く、活用しやすいメリットがありますが、水害発生時は出入り口からの浸水だけではなく、排水口などからも水が逆流することがあります。
そのため、水害の予報があった場合は、出入り口の対策に加え、土のう・水のうを使って排水口などを塞いでおくと良いでしょう。
③水害に対応したBCPの策定
水害は地震などの自然災害とは異なり、気象予報などからあらかじめ想定が可能です。
事前に水害に対応したBCPを策定し、きちんと内容を周知することで、被害の軽減が期待できます。
浸水対策の実施
拠点ごとに塞ぐべき場所を事前に確認しておきます。浸水対策グッズの個数や収納場所も明記しましょう。
重要機器・書類を高層階へ
重要なサーバーなどの機械は1階や地下には置かず、日頃からなるべく高層階に設置しておくと良いでしょう。
建物が浸水してしまっても、機械が故障するリスクを回避できます。
その他、事業継続にあたって必要な書類などはクラウド上や他拠点へバックアップを作成するか、いざという時速やかに高層階へ移動できるようにあらかじめリストアップしておきましょう。
重要業務継続のための代替案
会社がダメージを受け、業務ができなくなったときのことも考えておく必要があります。業務停止した際に取引先やクライアントの事業に影響を与えてしまうことも考えられるため、何かしらの代替策を用意しておくべきでしょう。
自社が製造していた部品などを代理で製造してくれる会社を探し、提携しておくのもひとつの手です。このように、自社のことだけでなく、取引先やクライアントのことまで考えた水害対策が企業には求められます。それを踏まえたうえで、適切な選択をしていきましょう。
④従業員への周知・避難場所の確認
従業員に水害のリスクを周知することも大切です。水害への意識をもたせることで、いざ災害が発生したときもスムーズに行動できるよう、定期的に水害が発生した場合を想定した訓練を行いましょう。そして、経営陣や防災担当者は、従業員へ水害発生時に具体的にどのような行動をとるべきかを指導しなくてはなりません。
機器や重要な書類などをどこに移動させるのか、従業員はどこに避難するのかなどもきちんと決めておきましょう。実際に氾濫や津波などが発生すると、頭では分かっていても体が動かないかもしれません。だからこそ訓練を徹底し、いざというときも比較的スムーズに動けるよう備えましょう。
また、学校や医療現場など、要配慮者のいる拠点では、特に細かな避難確保計画の作成が求められます。
避難確保計画作成の手引きなどを参考に事前準備を徹底しましょう。
⑤保険に加入する
どれだけ事前の対策を徹底しても、水害の多い日本では、誰もが突然リスクに身をさらされる危険と隣り合わせです。実際、日本を代表する大企業が、水害により甚大な被害を受けた例も少なくありません。
企業向けの保険商品の中には、水害をカバーしているものもありますので、ぜひ確認してみると良いでしょう。
参考:
国土交通省「ハザードマップポータルサイト」
みんなのBCP「忘れてませんか?水害を想定したBCPの策定のコツ」
みんなのBCP「事業者のための水害保険・異常気象による大規模災害に備える」
綜合警備保障株式会社ALSOK「法改正により、新たに義務化された『避難確保計画の作成』『浸水防止計画の作成』『訓練の実施』など」
まとめ
水害対策をきちんと行うことで、会社や従業員、取引先を守ることにもつながります。まずは水害によって発生しうるリスクをきちんと理解し、どのように対策を進めていくべきかを考えましょう。被害を最小限に抑えられれば、事業に与える影響も少なくできます。企業の経営者、防災担当の方は、今一度事業継続計画や保険加入、避難訓練の実施など、水害への対策について前向きに検討してみてはいかがでしょうか。